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幼なじみの都落ち  作者: なつまつり
第二章
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第二十二話

 とりあえずこれで安心だろう。夕方まで安静にしておけば、一人でも歩いて帰れるはずだ。


「……よかった」


 心底ほっとしたように、音海は緊迫感を緩める。


「でも、ごめんなさい、こころさん……わたしが無理を押し付けてしまって、こんなことに」


 重責を感じているらしい。一定のペースでうちわを仰ぐ手は止めず、風で浮かんだり、元に戻ったりする四条の前髪のあたりを、ずっと申し訳なさそうに見つめている。


「円花ちゃんが悪い、ってことでもないと思うぜ」

「えっ?」


 なぜかこういうシーンでは空気を掴むのが上手い日暮は、微笑を浮かべながら言う。


「誰も悪くない。だが、全員に責任はある……だろ?」

「そうだな。四条は自分の体調のことだから、もっと早く不調を申し出るべきだった。音海はもう少し目を配るべきだった。俺たちは言わずもがな」

「まったくだぜ。女の子ふたりが暑いなか運動してるっつーのに、こちとら冷房効いた部屋で呑気にMIX談義だかんな」


 それはお前が一人で語っていただけだと言いたいが、いずれにしろ俺の落ち度は変わらない。


 知らず知らずのうちに線引きしていた。

 この時間帯は、あいつらとは無関係なのだと。


 俺たちが自由な時間配分で練習をするように、向こうも上手くやってくれるだろう、と。

 その緩慢さが、今回のような事態を引き起こしてしまった。

 そういう意味では、部室にいた俺たちにも重い責任がある。


 音海は四条のそばに腰を下ろしたまま、かわるがわるに俺たちを見上げた。


「……ありがとうございます。京太郎さん、悠くん。二人のおかげです。わたしひとりでは、どうすることもできませんでした」

「でも、すぐに四条の異変に気付いて、助けを呼びに来たのは音海だろ」

「それは……そう、ですけど……」


 その口元が強く結ばれる。

 あの頃と変わらず、責任感が人一倍強い奴だ。自分が何もできなかった、何もしてやれなかったと……そう認識しているのだろう。


「それでも円花ちゃんは、最善のことをやってくれたと思うぜ」

「そのとおりだ。急いで助けを呼びに来てくれたから、このくらいで済んだ」


 実際、四条は意識が混濁し始めていた。もう少し処置が遅れていれば、すぐに症状の程度が悪化する段階まで来ていたのだ。


「こうなっちまったのは、みんなの責任だけどさ。逆にみんなのおかげで乗り切った……ってことで、いいんじゃねぇかな?」


 にこやかに笑いかける日暮。


 その言葉に、わずかでも心が軽くなったのだろうか。ほんのわずかに、音海はこくりとうなずきを返したのだった。


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