第二十二話
とりあえずこれで安心だろう。夕方まで安静にしておけば、一人でも歩いて帰れるはずだ。
「……よかった」
心底ほっとしたように、音海は緊迫感を緩める。
「でも、ごめんなさい、こころさん……わたしが無理を押し付けてしまって、こんなことに」
重責を感じているらしい。一定のペースでうちわを仰ぐ手は止めず、風で浮かんだり、元に戻ったりする四条の前髪のあたりを、ずっと申し訳なさそうに見つめている。
「円花ちゃんが悪い、ってことでもないと思うぜ」
「えっ?」
なぜかこういうシーンでは空気を掴むのが上手い日暮は、微笑を浮かべながら言う。
「誰も悪くない。だが、全員に責任はある……だろ?」
「そうだな。四条は自分の体調のことだから、もっと早く不調を申し出るべきだった。音海はもう少し目を配るべきだった。俺たちは言わずもがな」
「まったくだぜ。女の子ふたりが暑いなか運動してるっつーのに、こちとら冷房効いた部屋で呑気にMIX談義だかんな」
それはお前が一人で語っていただけだと言いたいが、いずれにしろ俺の落ち度は変わらない。
知らず知らずのうちに線引きしていた。
この時間帯は、あいつらとは無関係なのだと。
俺たちが自由な時間配分で練習をするように、向こうも上手くやってくれるだろう、と。
その緩慢さが、今回のような事態を引き起こしてしまった。
そういう意味では、部室にいた俺たちにも重い責任がある。
音海は四条のそばに腰を下ろしたまま、かわるがわるに俺たちを見上げた。
「……ありがとうございます。京太郎さん、悠くん。二人のおかげです。わたしひとりでは、どうすることもできませんでした」
「でも、すぐに四条の異変に気付いて、助けを呼びに来たのは音海だろ」
「それは……そう、ですけど……」
その口元が強く結ばれる。
あの頃と変わらず、責任感が人一倍強い奴だ。自分が何もできなかった、何もしてやれなかったと……そう認識しているのだろう。
「それでも円花ちゃんは、最善のことをやってくれたと思うぜ」
「そのとおりだ。急いで助けを呼びに来てくれたから、このくらいで済んだ」
実際、四条は意識が混濁し始めていた。もう少し処置が遅れていれば、すぐに症状の程度が悪化する段階まで来ていたのだ。
「こうなっちまったのは、みんなの責任だけどさ。逆にみんなのおかげで乗り切った……ってことで、いいんじゃねぇかな?」
にこやかに笑いかける日暮。
その言葉に、わずかでも心が軽くなったのだろうか。ほんのわずかに、音海はこくりとうなずきを返したのだった。




