第十七話
無事に音が出なかった原因を突き止めた俺たちは、ここまでの操作を何度が反復し、間違いがないことを確認して手順のメモを取った。
やるべきことを一通り終えたので、俺は日暮と連れ立って女性陣の様子をうかがいに行くことに決めた。
「どんな練習してんだろうな、あいつら」
後頭部で両手を組みながら、少し面白がるようにつぶやく日暮。
「音海の作った練習計画を見る限りだが、相当スパルタみたいだ」
「おいおい、四条が耐えられるのかよそれ……バスケのドリブルが五回と続かない奴だぞ」
たまの機会に身体を動かす四条の姿を目にすることはある。しかし、お世辞にも運動が得意なタイプとは言えなかった。
あまりいいイメージを浮かべられないままに、俺たちは人気のない校舎の階段を昇っていく。
体育館シューズの立てるキュッキュッという音が、一定の感覚で響いた。そのペースに呼応するように、なんだかいかにもしんどそうな呼吸の音が聞こえる。
「はぁ、はぁ……あ、あと4往復……っ」
どうやら四条は、東西にまっすぐ伸びる廊下をひたすらに走らされているらしい。
体操服はすでにぴたりと肌に張り付き、顔全体がほだされたように赤く染まっていた。
たゆん、たゆん、とリズムよく揺れる胸元は、傍から見てもかなりの枷に思える。
「頑張れよ四条ー。ペースが亀レベルになってんぞー」
ニヤニヤと野次を飛ばす日暮に気づき、
「……や、やかましかばい……んッ、ふぅッ……!」
まともに反応する余裕さえない。こちらをちらりと見ただけで、また歯を食いしばる。
コンパクトにまとめられた後ろ髪がふぁさふぁさと揺れるのを、俺と日暮は漫然と眺めた。
「あと二往復ですよ! さあ、これが終わればのぞむくんタイムですっ!」
「っ……、ラ、ラスト二つ、が、頑張るけんねっ……のぞむクン――!」
長い廊下の末端に立つ音海が、よく分からない発破のかけ方をしていた。
ただ効果は抜群らしく、散漫になりがちだった四条の走りがすぐに立て直される。
「なんじゃありゃ」
呆れた目を向けながら、日暮はぼそりと言った。
「お前でいうところの10連ガチャタイムみたいなもんだろ」
「……なるほど、そりゃ気合も入るってもんだ。理解したぜ」
そこですぐに合点するお前の感覚は理解できないけどな。
「さあ、ラストの直線です! ここまで来ればゴールですよ!」
小さい身体ながら精いっぱい手を振る音海めがけて、四条は力の限り駆けていったのだった。