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幼なじみの都落ち  作者: なつまつり
第二章
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第十六話

 部室にて。


 女性陣はさっそく練習に赴いたので、朝っぱらから男二人のドル研と相成った。


 俺たちがこれから相手取るのは、すみっこに寄せられていた例のジュラルミンケース二つと、大型スピーカー。なんだろうと思いながらもずっと放置していた代物たちだが、どうやらこいつらが音響機材らしい。


「かなり重いな、これ」

「そいつがアンプだ。んで、こっちがPA卓。ラストのこれがDJセットだな」


 予習を済ませていたらしい日暮が、あたかも経験者のような口ぶりで語る。


「まぁ、そんな不安そうな顔するなって。こう見えても俺、機械は得意なクチなんだぜ」

「アイドルオタが語る女性像ぐらいには信用ならん」

「やけに絶妙なたとえをしやがるな……」


 いつものようにくだらないやり取りを続けながら、俺たちは初めてのセッティングを進めていく。


「アンプは床に置く。消費電力が大きいから、こいつはタコ足じゃなくて、直接コンセントに繋いだほうがいいぜ。万が一にでも定格電量が超えないようにな」

「分かった」

「PAとDJセットは、机の上に並べて置くんだ。電源を入れる前に、結線を済ませちまおう」


 ケースに入れられていた赤や黒のケーブルを次々と取り出す日暮。正直どれが何に対応しているのか一切分からない。


「お前、これほんとうに分かるのか?」

「心配するなって。こういうのは案外ノリで行けるもんだ」


 ドル研随一の楽天家たるこいつにかかれば、未知の機材であっても臆することなし。

 俺はあまりこういうメカニックなものには強くないので、ある意味で感心する。


「ええと、とりあえずDJセットをピンで繋ぐだろ。そこからアンプへ、スピーカーへ……この流れさえ理解できれば、たぶんそう難しくないだろ」


 機材についているいくつもの端子を目視しながら、日暮は一つずつステップを踏んで結線作業を進めていく。


「堀川、このシールドをスピーカーに繋いでくれよ」

「どこに差すんだ?」

「たぶん後ろに穴あるだろ? そいつにぶっ刺しゃいい」


 イヤホン端子を数倍大きくしたようなそれを、言われたとおり穴に差し込む。


「よーし。これでとりあえずの配線は終わったわけだ」


 続いては、いよいよスピーカーから音を発出する工程へと進む。


「電源は軽いモノから入れていき、重いモノから消していくのが基本だ。それで覚えにくけりゃ、内から外、外から内の順番で覚えればいい。つまり、最初はコイツからってワケだ」


 日暮はまずDJセットの電源を入れる。そこからPA卓、アンプ、スピーカーと続けた。


「もちろん、すべてのツマミがゼロの状態で行うべき動作だ。こいつらは年季入ってるしな。少しでも負担かけると壊れちまうかもしれねぇ」


 すべての機材の電源がついたことを確認して、日暮はふぅと深い息をついた。


「本番はこれからだぜ、堀川」

「ああ」


 PA卓とDJセットの前に立ち、わけの分からない表示やらツマミやらが大量に並んでいるそれを、俺たちはにらみつけるように見つめる。


「別にDJをするでもなし、再生できればそれでいいからな。どうってこたぁねえさ」


 ドル研オリジナル楽曲その1『サンシャインガール♡』をCDスロットに挿入。ディスプレイ表示に目を凝らしつつ、日暮は再生ボタンに手をかけた。


「……再生はされてるみたいだな」

「ああ。問題は次だ」


 ここで登場するのが、ラスボスに相応しい風格を持つ機材。すなわちPA卓だ。


「まずはマスター音量を上げる、と。で、接続したチャンネルのフェーダーを上げていくことであら不思議、スピーカーから素敵な音楽が――」


 …………。


「……聞こえてこないが」


 曲の再生は間違いなく行われている。日暮が行う操作を見ても、とくに不足の点はないように思えた。


「……まあ、挑戦に失敗はつきものってこったな」


 日暮は無念そうに肩を落としているが、むしろまったくの初めてでここまで到達できた。上出来といっていいはずだ。

 不発の原因を探るべく、俺たちはすぐに機材との終わりなき戦いを再開させた。



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