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99 幸せな朝


 お兄様に好きって伝えた。

 お兄様に好きって言ってもらえた。


 その嬉しさと感動で、マリアは涙が溢れてくるのを止めることができなかった。

 大泣きしているマリアを見て、グレイが少しだけ動揺している。



「どうしたんだ、マリア?」


「……ううっ…………ヒック」



 なんでもないよ、これは嬉し泣きだよ。

 そう言いたいのに声がうまく出せない。

 自分でもどうしていいか困っていると、グレイがそっと抱きしめてきた。


 何も言わずに、ただ頭を撫でてくれている。

 グレイの優しさとその安心感に、マリアの涙は余計に止まらなくなってしまった。




 私、本当にお兄様に受け入れてもらえたんだ……。




 こんなにも幸せで満たされたのははじめてだ。

 涙が止まるまで、マリアは優しく温かいグレイの胸に寄り添っていた。









「もう大丈夫か?」


「……うん」



 どれくらいの時間抱きしめてもらっていたのか。

 マリアの涙が止まってしばらくすると、グレイが静かに問いかけてきた。


 体を離し、マリアの顔を見たグレイがフッとやわらかく笑う。



「目が腫れてるな」


「えっ……!?」



 言われてみれば目が重くてうまく開けられない。

 どんなひどい顔になっているのかと、マリアは顔を隠すようにパッと下を向いた。



「今夜はそのまま寝ればいい。泣いて疲れただろ」



 そう言いながらグレイが立ち上がってベッドから離れたので、マリアは慌てて声をかけた。



「おっ、お兄様はどこで寝るのっ?」


「俺はソファで寝る」


「えっ。でも、一緒に……」



 そこまで言って、マリアはハッとして言葉を止めた。

 先ほどアドルフォ王太子に言われたことを思い出したからだ。


 『ベッドの上で男と2人になったら裸になるカモしれナイ。だから恥ずかしくてミンナ顔が赤くなるんだヨ』




 ……ここはベッドの上だわ!




 マリアはこれまで何度もグレイに一緒に寝ようと誘ってきた。

 グレイに断られても、なんで? と理由を聞こうとしてグレイを困らせた。


 もしグレイがマリアと一緒に寝なくなった理由が、その〝大人しか知らないこと〟だったなら──。




 私は今までなんて恥知らずなことを……!!




 過去の自分の無知すぎる言動に、マリアは恥ずかしくてたまらなくなった。

 呼び止められたグレイは、不思議そうにマリアを見つめている。



「マリア?」


「あっ。ううん。な、なんでもない! おやすみなさい」


「? ああ。おやすみ」



 マリアはベッドに横になって布団を頭からかけた。

 おやすみと言ったものの、ドキドキと激しく動く心臓のせいで眠れる気がしない。


 それでも、心は幸せでいっぱいだった。

 自分の体から黄金の光が静かに漏れ出していることに気づかないまま、マリアは目を瞑って幸せに浸っていた。



 次の日の朝。

 身支度を整えてもらっているマリアは、部屋の中がいつも以上にピカピカなことに気づいた。


 大きな窓の上のほうも、小さな鏡や扉の取っ手までも、すべてが磨き上げられたばかりの新品のように輝いている。



「……なんだか今日はいつもよりさらにお部屋が綺麗だね」


「そうなんですよ! 実は、このお部屋だけじゃなくて他のお部屋もなんです。私たちの使用人部屋も、調理場も、廊下も玄関も、すべてのお部屋がピカピカなんです」



 少し興奮気味にエミリーが答えた。

 それに続き、他のメイドたちも次々に今朝の異常な状態の報告をしてくれる。



「お庭もです! この時期には咲かない花が咲いていたり、とっても綺麗なんですよ」

「実はこの近くの農家もらしいです! 今朝届いたお野菜がとても新鮮だったって料理人が言っていました」

「それに、私たち使用人も怪我が消えていたり熱が下がっていたりと、みんなの病気も治っていたんです」



 みんな目を見開きながら、エミリーと同じく興奮気味に報告してくる。

 そのあまりの迫力にマリアは「そうなの?」と言いながら戸惑っていた。


 みんなが、まるでマリア様のおかげですと言わんばかりの顔をしているからだろう。




 これって、聖女の力?

 もしかして私が昨日幸せいっぱいだったから?

 それはちょっと……恥ずかしいっ。




 マリアを讃えるような視線の中で、エミリーだけが意味深な笑顔で見つめてきていることにマリアは気づいていなかった。



「おはよう。マリア」


「レオ! おはよう。戻ってきてたんだね」



 支度が全部終わった頃、レオが部屋に入ってきた。

 いつも通りの明るい笑顔を作っているものの、その目の下にはクマができている。



「うん。昨夜……っていうかほぼ朝だったけど」


「まだ寝てていいよ? パーティーの警護、そんなに大変だったんだね」


「いや。警護っていうか、置いていかれたべティーナの愚痴に付き合わされ……って、な、なんでもない! それより、屋敷の中がだいぶピカピカなんだけど……これってマリアの力?」



 レオは話をそらすように天井や周りをキョロキョロと見回しながら聞いてきた。



「そう、みたい。研究室にこの力を届けに行きたいんだけど、行ってもいいと思う?」



 王宮にはまだアドルフォ王太子が滞在している。

 あの場に残されたエドワード王子とアドルフォ王太子がどんな話をしたのかわからないため、自分がまた王宮へ行っていいのか迷っているのだ。


 レオもすんなりいいよとは言えないらしく、腕を組んでうーーんと唸った。



「どうだろう……。本当は行かないほうがいいけど、研究室や治癒の光のことを考えると行ったほうがいいだろうし……」


「だよね?」


「とりあえず、グレイに聞いてみよう」


「! そ、そうだね」



 グレイ……という名前を聞いただけで、マリアの心臓がドキッと大きく跳ねる。

 その一瞬の反応を見て、エミリーがまたニコニコと意味深な笑顔になったことにレオだけが気づいていた。


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