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96 怒るグレイとエドワード王子


 扉を破壊し、部屋に入る前で固まっているグレイとエドワード王子。

 人間味のない冷めた表情でアドルフォ王太子を見ている。その暗く据わった目は、チラッと見ただけでも背筋が凍るほどに恐ろしい。

 

 その2人のうしろに立っているレオだけが、「マリア!」と名前を呼んで部屋の中に入ってくる。



「レオ……」


「大丈夫!?」


「ん? うん」



 レオがベッドに近づく前には、アドルフォ王太子は掴んでいた手を離してマリアの横にあぐらをかいて座っていた。

 焦った様子などもなく、ニコニコしながら入口に立つ2人を見ている。


 マリアはなぜレオがこんなに自分を心配しているのか、なぜ扉を開けてもらうのを待たずに破壊したのかわからずに混乱していた。




 私が約束を破って王太子と一緒にいたから怒ってるのかな?




 そんな不安を抱いてしまうほど、グレイとエドワード王子からは不穏すぎるオーラが出ている。

 レオがマリアを起き上がらせた瞬間、2人が部屋の中に足を踏み入れた。



「グレイッ! 待って!」



 グレイの視線がマリアではなくアドルフォ王太子に向けられていることに気づいたレオが、両手を広げてグレイの前に立ち塞がる。

 エドワード王子の前には先ほど突然現れたガブール国の騎士が立っていた。



「どけ」



 凍りつくような低く恐ろしい声で命令されたレオは、一瞬ビクッと肩を震わせたもののすぐにまたキッと目を吊り上げる。



「ダメだよグレイ! 相手は王太子! 落ち着いて!」


「そんなの関係ない」


「関係あるよ!」



 そんなやり取りをしている横では、エドワード王子が目の前にいる騎士ではなくアドルフォ王太子に向かって話しかけていた。



「これはどういうことですか?」


「コレって? ソノ騎士のコト? 聖女様のコト?」


「どちらもです」



 激昂せずに静かに怒りを溜めているエドワード王子と、その怒りに気づいていながらとぼけているアドルフォ王太子を、マリアはオロオロしながら見つめた。




 お兄様もエドワード様もすごく怒ってる……!




 2人の怒りの矛先は、マリアではなくアドルフォ王太子らしい。

 どう説明すればいいのか、この空気の中自分が会話に入っていいのか、マリアはわからずに戸惑っていた。


 そんな怒りを向けられているアドルフォ王太子は、変わらず笑顔のままだ。



「聖女様にお話があって、来てもらったダケだヨ」


「話? こんな場所に嘘をついて呼び出して、ベッドに押し倒したと?」


「アレは偶然ですヨ。証拠に、聖女様は俺を怖がってナイでしょう?」



 もし王太子がマリアを傷つけていたなら、もっとグレイたちに助けを求めているはずだ。

 マリアが普通に王太子の横に座っていることで、その可能性が少ないことはもちろんみんなわかっている。

 だからこそ、なんとかここまで落ち着いていられるのだ。


 しかし、部屋に入ったときの状況を考えると完全に無罪とは言えないだろう。

 偶然あんな状態になったと言っているが、グレイもエドワード王子もそんな話を微塵も信じていないからだ。



「そうだとしても、俺の婚約者と勝手に2人きりになられては困ります。マリア。こっちに来い」


「あ、はい……」



 エドワード王子に命令されて、マリアがベッドから下りようとした瞬間──アドルフォ王太子に腕を引かれ、頬にチュッとキスをされた。



 えっ。



 

「ああっ!?」



 エドワード王子の大声と共に、ドンッと人を突き飛ばした音が部屋に響く。

 思いっきりレオを突き飛ばしたグレイが、マリアを抱き上げて王太子を睨みつけた。


 突然グレイに抱き上げられたマリアは、その嬉しさと緊張から一瞬でキスされた衝撃を忘れてしまった。

 グレイは王太子から目を離していないので、顔の赤いマリアには気づいていない。



「ああ。ゴメン、ゴメン。うちの国ではコレ挨拶みたいなモノだから。今日はガブール国のやり方に合わせたパーティーって聞いてるカラ、別にイイんだよネ?」


「……そうですね」



 適当な性格に見せてなかなかの確信犯。

 そんなアドルフォ王太子のセリフに苛立った様子のグレイは、言いたいことを我慢してなんとか冷静に答えた。


 突き飛ばされたレオが、ホッと胸を撫で下ろしたのをマリアは見た。

 


「ひとまずマリアの体調が悪そうなので、今夜はこれで失礼します。……いいですよね? エドワード殿下」


「……っ! ああ。……早く帰らせてやってくれ」



 いきなり話を振られたエドワード王子は、不快そうに顔を歪めてから渋々グレイの意見に賛成した。

 マリアに帰ってほしくないという気持ちよりも、アドルフォ王太子から離れさせたいという気持ちが勝ったのだろう。



「ありがとうございます。では」


「……ああ」


「またネ。聖女様」



 アドルフォ王太子の挨拶に、マリアはペコッと軽く頭を下げた。

 なぜグレイがマリアの体調が悪いと嘘をついたのかわからなかったけれど、グレイと一緒に帰れるのならマリアにとっても喜ばしいことだからだ。


 歩き出そうとしたタイミングで、グレイの足がピタッと止まる。



「あ。そういえば、マリアをここに案内したあの令嬢のことも……よろしく頼みますよ。エドワード殿下」


「わかっている! アドルフォ王太子殿下とフランシーヌ嬢のことは俺に任せて、ヴィリアー伯爵は早くマリアを連れて帰ってくれ」



 イライラとしたエドワード王子の返事に、グレイが小さな声で「言われなくても」と言ったのがマリアには聞こえた。

 レオはエドワード王子と一緒にこの場に残るらしい。


 スタスタと歩き出したグレイを見送っているレオに、マリアは小さく手を振った。




 ……急に帰ることになったけど、お兄様すごく怒ってるし大丈夫かな。



 

 エドワード王子のように、なんで王太子と2人になったんだって怒られるかもしれない。

 馬車に乗ってからもマリアはソワソワと落ち着かなかった。




 どうしよう……先に謝ったほうがいいかな……。




 そんなことを考えていると、ずっと黙っていたグレイが口を開いた。



「マリア」


「はっ、はい?」


「今夜は俺の部屋で寝ろ」


「……はい?」



 文句を言われると思っていたマリアは、予想外すぎる言葉にキョトンと目を丸くした。

 

 暗い馬車の中で、グレイの綺麗な碧い瞳が輝いて見える。

 その瞳を見つめたまま、マリア今何を言われたのかと頭をフル回転させるのだった。


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