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65 グレイが気に入らないエドワード王子


「マリアが光を出したせいで……」



 グレイがマリアを会場の外に連れ出すと、マリアがボソッと呟いた。

 グレイに抱きついているその腕は、ガクガクと震えていた。


 会場からはいまだに人々の叫び声が聞こえてくる。



「マリアのせいじゃない。アイツらがおかしいだけだ」


「そうだよ! マリアは悪くないよ!」



 グレイとレオがすぐにフォローするが、マリアの顔色は優れないままだ。

 今にも泣きそうな顔になっている。グレイはマリアの頭を優しく撫でた。



「大丈夫だ。落ち着け」


「うん……」


「マリア様!」



 会場から、執事のマルケスが血相を変えて飛び出してきた。


 廊下に立っているグレイと抱き上げられているマリアを見て、ホッと安心したようだ。

 駆け足でマリアの元にやって来る。



「マリア様、ご無事で良かった! 陛下や王子達も、すでに別室に移動しております。マリア様もそちらへ行かれますか?」



 マリアは首をフルフルと横に振った。

 ぎゅっとグレイの服を掴み、小さな声で……でもハッキリと言った。



「マリア、お兄様と一緒にいる」


「左様でございますか。それにしても、まさかこんな状態になってしまうとは……」


「! ごめんなさい……っ」



 マリアが涙目で謝ると、執事は真っ青になった。

 慌てた様子で両手をブンブンと振りながら、弁明している。



「いいえっ! マリア様のせいではありませんっ!! 強欲な方々が悪いのでございますっ!!」



 マリアを涙目にさせたことで執事を睨みつけようとしたグレイは、必死にフォローする執事を見て思い止まった。


 レオはそんな執事の様子を見て、どこか嬉しそうに微笑んでいる。

 マリアを大切に扱ってくれてるのが伝わり、内心喜んでいるのだろう。



「そうだ。マリアが謝る必要はない。とにかく、もう少し離れておくか……」


「マリアッ」



 今度は、どこからかエドワード王子が走ってきた。

 グレイは迷惑そうな顔を隠しもせず、レオは突然の王子の登場に驚き、執事は青い顔でエドワード王子を迎える。


 マリアは王子に文句を言われると思ったのか、少し怯えた表情になった。



「エドワード殿下! どうしてこちらへ! まだ危険ですので、先程のお部屋から出ないようにとあれほど……!」


「お前がマリアを連れてくるって言ってたのに全然来ないから、しんぱ……じゃなくて、えっと、道に迷ってるのかと思って来てやったんだ!」



 エドワード王子が、『心配』と言いかけていたのを必死に隠そうとしている。


 素直じゃないけれど、マリアへの気持ちが隠しきれていない幼い王子。

 そんな可愛らしい王子の姿を見ても、グレイはしかめ面のままだ。


 エドワード王子は、グレイに抱えられているマリアをジロッと睨んだ。



「いつまでその状態でいるつもりだ? もう7歳なんだし、早く下ろしてもらえ!」


「……お兄様」


「まだ危険なことには変わりないし、しばらくはこのままでいい」



 王子に叱咤されたマリアがグレイに問いかけたが、グレイはそれを一蹴した。


 エドワード王子の顔がわかりやすく不機嫌になったのを、レオはハラハラしながら見守っている。

 執事は疲れたように「はぁ……」とため息をついていた。



「この状態では、聖女セレモニーを続けるのは困難だろう? この混乱に乗じてマリアに危険が及ぶかもしれないし、今日はここで帰った方が安全だと思うんだが……」



 グレイの提案に、執事がうーーんと悩みだす。

 こんな終わり方にしてしまっていいのかという考えと、グレイの言っていることも一理あると思っての悩みだろう。



「……そうですね。少しお待ちいただけますか。陛下に確認して参ります」


「頼んだ」



 執事が走り去っていく。

 気づけば、グレイ達の周りには護衛騎士が数人立っていた。

 何人かは会場内の混乱を抑えようと奮闘していたらしく、息が荒くなっている者もいた。




 会場から聞こえてくる声や物音で大体は想像できるが、思ってる以上に中は酷い状態みたいだな。




 グレイは、ずっと自分を睨み続けている王子に声をかけた。



「エドワード殿下もここにいたら危険なので、早く戻った方がよろしいかと。騎士の方、どなたか殿下と一緒に……」


「俺はまだここにいる! 血が繋がっていないからといって、調子に乗るなよ!」




 は?




 グレイは思わず、王子に向かってそう言ってしまいそうになった。


 意味がわからなかったからだ。

 今この場面で、マリアと血の繋がりがないことがなんだというのか。


 そして、聖女と血が繋がっていることを誇るのならまだわかるが、血が繋がっていないことで調子に乗るなとは一体どういうことなのか。



「申し訳ありませんが、仰っている意味が……」


「血が繋がってなくても、お前はマリアの兄なんだからな!!」


「…………」




 この王子(ガキ)は何を言っているんだ?




 グレイはイライラする感情をなんとか抑え、斜め後ろに立ってるレオをギロッと睨みつけた。

 完全なる八つ当たりである。


 レオは口をパクパクさせながら、声には出さずに(俺を睨むなよっ!)と文句を言ったが、グレイには届いていない。


 マリアはグレイとエドワード王子の不機嫌さの理由がわからず、戸惑っていた。

 しかし、レオが声を出さずに見守っている様子を見て、自分も何も言わないと決めたのだった。


 しばらく無言の時間が過ぎていき、レオが気まずい空気に耐えられなくなった頃、執事が急ぎ足で戻ってきた。



「お待たせして申し訳ございません!」



 執事は、なんでまだここにいるんですか! という目をエドワード王子に向けた後、グレイとマリアに近づいていく。



「陛下は今、他国の貴賓の方々と一緒におられます。あの騒ぎの中には他国の王子も数人混ざっているようでして、そちらも今バタバタとしております……」



 この数分で一気に老けた執事の顔を見れば、どれだけ混乱の最中なのかは容易に想像できる。

 しかし、グレイにとってはそんな話はどうでもよかった。



「そんな中にマリアを連れて行け……とは言わないよな?」


「はい。本来であれば、もう一度陛下や貴賓の方々の前でご挨拶をお願いしたいところですが、今の状況では難しいでしょう。陛下も王妃様も、マリア様の安全を1番に考えております」


「ならば、このまま帰ってもいいんだな?」


「はい。陛下からも許可を得ております」




 よし!!




 グレイは心の中でそう叫んでいた。

 マリアのためのセレモニーとはいえ、やはりこういったパーティーは好きではない。


 マリアと一緒に早々に帰れるのであれば、グレイにとっては願ってもないことであった。


 レオもグレイと同じ考えなのか、安心したような顔になっている。

 グレイが喜んでいることが伝わったのか、マリアもホッとしていた。


 この場で唯一、この流れに納得がいかないのは──。



「今日は聖女セレモニーだぞ! まだ終わってないのに、マリアが帰ってどうするんだ!」



 プンプンと怒っているエドワード王子が、執事とグレイに向かって怒鳴る。

 グレイはそんな王子に冷たい視線を浴びせながら、静かに言い返した。



「陛下が決めたことです」


「そっ、それでも、帰りたいなら兄だけ帰れ! マリアは俺が送っていくからまだここに……」


「マリアもお兄様と帰りたいです」



 エドワード王子の怒鳴りを止めたのは、マリアである。

 グレイだけ先に帰ってしまうかもしれない、という焦りを感じたマリアは、つい口出ししてしまったのだ。


 グレイの口元がニヤリと怪しく笑ったのを、レオは見逃さなかった。



「……とマリアも申しておりますので、これで失礼いたします」


「ぐっ……!」



 歯を食いしばるエドワード王子を一瞥して、グレイは歩き出した。



「エドワード様、さようなら」


「あっ、俺……ぼ、僕も失礼します!」



 マリアとレオも慌てて挨拶をしたが、エドワード王子はグレイを睨みつけたまま返事をしなかった。


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