表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/105

48 無自覚な気持ち

 

 部屋に取り残されたマリアは、少し気まずそうな顔でエドワード王子を見つめた。

 こちらからの挨拶は既にしてあるし、とくにマリアから話しかけるような話題もないためどうしたらいいのかわからない。


 マリアが困っていると、ずっと黙っていた王子がやっとマリアのほうを向いた。

 頬の赤い王子は、不機嫌そうな態度で声をかけてくる。



「……久しぶりだな」


「あ、はい。お久しぶりです?」


「今日いきなり来て迷惑だったか?」


「? いえ、迷惑じゃないです」



 マリアの言葉を聞いて王子は安心したらしく、口元が嬉しそうに緩んでいる。

 しかし緩んだのも一瞬で、また不機嫌な顔つきに戻るとジロッとマリアを睨んだ。



「だから! 敬語は使うなって言っただろ!?」


「あ……はい……じゃなくて、うん」



 マリアが手を口元に当てながら上目遣いで答えると、王子は「うっ」と顔を赤くして悔しそうな表情をした。

 視線をマリアから外し、ボソッとつぶやく。



「わかればいいんだよ……」



 エドワード王子の態度に、マリアは今の状況が不思議で仕方なかった。




 エドワード様はこんなにつまらなそうだし私に怒ってるみたいなのに、なんで来たんだろう?

 どこか怪我してるから、マリアに治してほしいのかな?




 今までマリアに会いに来た人といえば、治癒目的の人ばかりであった。

 グレイやレオを除いて、治癒目的以外でマリアを訪ねて来る人などいなかった。

 そのためマリアは王子の目的がわからない。


 しーーん……と静まり返った頃、エミリーが数人のメイドと共に戻ってきた。

 ワゴンにはティーセットやたくさんのケーキやフルーツなどがのっている。


 ダンスレッスンで疲れていたマリアが、美味しそうな物を見て瞳を輝かせる。


 そんなマリアの嬉しそうな顔を見たエドワード王子は、つい思ったことをそのままポロッと言ってしまった。



「……お前、食いしん坊だよな」


「え?」



 マリアは『食いしん坊』という意味がわからなかったため、目を丸くして王子を見た。

 しかしエミリーや他のメイド達、さらには王子の後ろに立っていた王宮の執事は、ギョッとしたように驚いた様子で王子を見つめている。



(まだ幼いとはいえ、女性になんてことを……!)



 執事がエドワード王子の耳元でコソコソと「殿下! 女性にそんなこと言ってはいけません」と言っているのが聞こえてきて、マリアはエミリーを振り返った。



「エミリー。食いしん坊ってなあに? ダメなこと?」


「えっ!? 食いしん坊とは……その、お食事をたくさん召し上がる方のことです。ダメなことではありませんよ」


「ならどうして女性には言ってはいけないの?」


「それは……その……」



 エミリーはチラッとエドワード王子を見た。

 王子は執事からの言葉を聞いて、真っ青な顔で視線を泳がせている。


 エミリーは自分の返答がさらに王子を追い詰めてしまうのではと、言葉を詰まらせた。

 メイド達もみんなこの凍りついた空気に怯えて動きを止めている。


 執事が王子の耳元で「殿下! 何か違う話題を!」とコソコソ言っているのが、またマリアの耳に届いた。




 なんだろう? そんなに悪いお話なのかな?

『なんで女性に食いしん坊って言ってはいけないのか』またあとでレオに聞いてみよう。




 マリアがその場で答えを聞くのを諦めた時、執事に違う話題をと言われた王子が焦り気味に声を発した。



「え……っと、な、なんで初めてのダンスを兄と踊るんだ!?」


「え?」



 王子がなんとか話題を変えようとして出た新たな火種話題に、その場の使用人達が再度凍りつく。執事も手で顔を覆ってしまっている。



(なんでまたその話題を出しちゃうの王子!! そんな自分の首を絞めるような話題を!!)



 使用人達からの同情のような心配は、残念ながらエドワード王子には伝わっていない。

 意図のわからない質問に頭の中が ?? 状態になっていたマリアも、周りの不穏な空気に気づいていなかった。



「お兄様と踊るのは……おかしいの?」


「初めてのダンスは婚約者と踊る者が多いんだぞ!」


「マリア、婚約者いないよ?」


「…………!!」



 マリアのズバッと言い切った言葉に、エドワード王子が顔面真っ青で大ショックといった顔をした。


 執事が即フォローするように「まだ正式には婚約者ではないので、間違ってはいません!」とコソコソ言っている。

 メイド達は話を聞いてないフリを徹底しながら、テーブルにケーキを並べたり紅茶を淹れたりしている。



(マリア様! そこまでキッパリと……! ああ、かわいそうな王子! がんばって!!)



 無表情を貫いているメイド達からそんな応援をされてるとは知らない王子は、諦めずに話を続ける。



「だ、だが、数年後には俺とマリアは婚約者になるはずだぞ」


「なんで? マリアはずっとお兄様と一緒にいたいから、結婚しないよ」


「お前がそんなこと言ってても、そのお兄様とやらが結婚したらお前は邪魔になるだろ?」


「お兄様が……結婚?」



 マリアは黄金色の瞳をパチパチッとさせた。

 そんな呆気に取られた顔のマリアを見て、エドワード王子がまさか……といった感じで問いかけてくる。



「お前、それ考えたことなかったのか?」


「……うん」




 お兄様が、結婚?

 結婚って、ずっと一緒に暮らしていくものだって言ってた。

 お兄様が誰かとずっと一緒に暮らしていく?




 マリアは胸にチクッとした痛みを感じた。

 いつもなら傷は治癒の力が勝手にすぐ治してくれるのに、この痛みは消えてくれない。



「じゃあ、マリアがお兄様と結婚したら……」


「お前アホか! 兄妹は結婚できないんだぞ!?」



 エドワード王子の言葉でさらに胸の痛みが増した。


 ズキズキズキ……


 どうして治癒の力が効いてくれないのか、マリアはなぜ自分が泣きそうな気持ちになっているのか、考えてもわからなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ