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46 突然の訪問者


 マリアの聖女セレモニーで着るドレスを決めてから数日後。

 グレイがいつものように伯爵家当主としての勉強をしていると、ガイルが執務室にやってきた。



「グレイ様。エドワード殿下が……」


「なんだ。また手紙を送ってきたのか? マリアは今セレモニーの準備で忙しいから王宮には行けないと断れ」



 『エドワード殿下』という名前を聞いて、グレイはガイルの話を途中で遮った。


 前にも一度エドワード王子から王宮に来るようにとの手紙が届いたが、同じ理由で断っている。

 今回もまた同じ内容の手紙であろうと予想したため、手紙に目を通すこともしない。


 王子本人が書いた手紙ではなく、執事が書いた形式的な手紙だ。

 ガイルが読めばそれで十分である。


 普通ならば王子からの誘いを断りはしないのだが、セレモニーの準備で忙しいというのはウソではない。


 聖女としての正しい振る舞い方など、マリアは日々レッスンに励んでいるのだ。

 聖女セレモニーまで日がない分、ここは断りをいれても問題はない。


 グレイに話を遮られたガイルは、表情を一切変えないまま話を続けた。



「いえ。お手紙ではなく、ご本人がお見えになりました」


「そうか。それなら…………って、何!?」



 グレイは勉強中の手を止めて、目の前に立つガイルを見上げた。


 焦った様子も困った様子も見せずに冷静に立っているガイルをジロッと睨みつけるなり、グレイはガタッと勢いよく椅子から立ち上がる。



「だったら早くそう言え!! で、王子は今どこに!?」


「来て早々にマリア様のお部屋に向かいました」


「マリアの部屋に入れたのか!?」


「いえ。マリア様はダンスのレッスンでお部屋にいらっしゃいませんでしたので、今は客間でお待ちいただいております」


「なら最初からそう言え!」



 ガイルは基本的には無表情なのでわかりにくいが、慌てているグレイを見て楽しんでいるようにグレイは感じていた。

 悔しいが今は王子のところへ行くのが先だと考え、ガイルのことはひと睨みするだけに留めておく。


 カツカツと足早に客間に向かうと、長いソファに座っているエドワード王子がグレイを見るなりニヤリと笑った。

 ムッとした感情を心の内に隠し、グレイはニコッと嫌味たっぷりの笑顔を返す。



「これはこれはエドワード殿下。突然お約束もない状態でお越しになるとは一体どうされたのですか?」


「マリアが忙しくて王宮に来れないと言っていたからな。この俺がわざわざ来てやったというわけだ」


「そうでしたか。ですが忙しいのは本当なので、短い時間しか作れないと思いますが……」


「短い時間でも構わないが?」



 ニコニコと不自然なくらいに笑顔のグレイとエドワード王子。

 王宮で会った時と同じように、バチバチとした火花が散っているようである。


 エドワード王子の後ろに立っている王宮の執事とグレイの後ろに立っているガイルが、2人揃ってまた呆れたように小さくため息をついた。

 部屋の周りでその様子を見ているメイド達は、なんとも言えないピリピリとした空気に顔を青くしている。


 グレイはエドワード王子とテーブルを挟んだ反対側のソファに腰をかけた。

 普段無表情なグレイが笑顔になっていることに、メイド達はさらに恐怖を感じている。



「わざわざ王子であるエドワード殿下のほうからいらしていただけるとは思いもよりませんでした。殿下も忙しい方だと思っておりましたが、意外と時間に余裕がおありのようですね」



 グレイは遠回しに『王子はやることもなくヒマなんだな』という嫌味攻撃を繰り出した。


 エドワード王子は左目をピクッと引きつらせると、作り笑いをしたまま言い返す。



「俺は優秀だからな。日々の教養の時間もあっという間に終わらせることができるんだ」



 エドワード王子の後ろに立っている王宮の執事が、ん? といった顔をして斜め上に視線を向けている。

 それに気づいていない王子は話を続けた。



「聖女のセレモニーでは誰がマリアと最初のダンスを踊るのか、と皆が気になっている。注目を集めるだろうから、事前に合わせて練習したほうがいいと思って来てやったのだ」



 ふふん! と偉そうに言っている王子を見て、グレイは作り笑顔の仮面を剥がした。



「……なぜエドワード殿下がマリアと最初のダンスを踊ることになっているのですか?」


「はぁ!? それはこ、婚約者なんだから当然だろ!」



 グレイがジロッと王宮の執事を睨みつけると、執事はふいっと目を瞑って気まずそうに顔をそらす。

 その執事の態度で、王宮……少なくともエドワード王子の周りでは王子とマリアが婚約者という話になっているというのがわかる。



「エドワード殿下。マリアにはまだ婚約者は作らないと、陛下の前でもハッキリとお答えしたはずですが?」


「でもいつか作るとしたら、相手は俺になるんだから同じことだろ!」



 堂々と言い放つ王子を、グレイは冷めた目つきで見つめた。




 そういう発想になるのか。

 いつか俺が婚約者になるのだから、今も婚約者だと考えても同じ……ってことか?

 どうやらこの王子は年齢よりも随分幼い思考をもっているらしい。




 王宮の執事は目を瞑ったまま我関せずな態度でいるし、話の内容を理解しているメイド達はハラハラしながらグレイとエドワード王子を交互に見ている。


 さて。このアホ王子にどう言ってわからせるか……グレイがそんなことを考えていると、部屋の入口から小さな声がした。



「……お兄様?」



 その愛らしい声に、全員が振り向く。

 ピンク色の小花柄ワンピースを着たマリアが、扉のところに立っている。

 髪を高い位置で2つに縛っていて、服と同じ柄のリボンが付いていてとても可愛らしい。


 そんなマリアを見たエドワード王子の顔が一気に赤くなったのを、グレイは見逃さなかった。


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