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40 グレイvsエドワード王子


 エドワード王子から『結婚』を知らないのか? と聞かれたマリアは、コクリと頷いた。

 王子は呆れたようなため息をつきながら話し出す。



「結婚っていうのは……男と女がずっと一緒に暮らすってことだよ」


「一緒に暮らす? 私とエドワード様が『婚約者』になったら、結婚して一緒に暮らすの?」


「……っ! そ、そうだよ!」



 マリアからの直球の言葉を聞いて、王子の顔がぼっ! と真っ赤になる。

 マリアは少し困った顔をしながら質問を続けた。



「じゃあお兄様は?」


「はぁ? 結婚したら別々に暮らすに決まってるだろ?」


「…………!」




 結婚したらお兄様と一緒に暮らせない?




 エドワード王子からの返答に、マリアはショックを受けた。


 結婚は何歳でするものなのかもわかっていないマリアは、すぐにグレイと離れなければいけないのかと勘違いしていたのである。


 ボーッとしているマリアに気づいていないのか、エドワード王子は自分の手をギュッと強く握ると何かを決意したようにマリアに向き直った。


 少しだけ顔を近づけて、先ほどまではまともに見れなかったマリアと視線を合わせる。



「お、お前が望むなら、俺がお前の婚約者になってやってもいいぞ! へ、陛下も言ってたし、仕方なくだけど!」


「え? マリアは婚約者にならなくていいです」


「……は!?」



 マリアからのキッパリとした拒否に、エドワード王子は口を大きく開けてポカンとした。

 周りで見守っている執事や騎士達がハラハラしながらその様子に釘付けになっている。


 今目の前で、第2王子が聖女に婚約を断られたのだ。



「だってマリア、お兄様と一緒がいい……」


「お兄様って……! そんなずっと一緒にいられるわけないだ……ろ……」



 エドワード王子の言葉が最後途切れてしまったのは、マリアの後ろに1人の人影が見えたからである。


 氷のように冷めきった碧い瞳に見つめられて、エドワード王子は背筋がゾッとした。

 突然この場にだけ吹雪が吹いたのかと疑うくらい、震えるほどの寒気に襲われている。


 疲れと苛立ちからくる不機嫌さが隠しきれていないグレイが、2人に向かって近づいてきていた。



「マリア」


「……お兄様!」



 グレイの声を聞いて振り返ったマリアは、王宮(ここ)に来て1番の笑顔を見せた。


 エドワード王子はマリアの笑顔にドキッと胸を高鳴らせたが、その笑顔を向けられているのが自分ではないことにムッとした。

 複雑そうな表情をグレイに向けている。


 マリアの元にやって来たグレイは、これみよがしにマリアを抱き上げてから王子に向き直った。



「エドワード殿下。マリアがご迷惑をおかけしませんでしたか?」


「……別に」


「そうですか。ではこちらの用も済みましたので、これで失礼したいと思います」



 怒鳴りあっているわけでもないのに、なぜかマリアはグレイとエドワード王子が喧嘩しているように感じていた。


 無言のまま睨み合っている2人を交互に見ていると、執事がいつの間にか近くにまで来ていた。



「お帰りになられるのですか? 陛下がぜひ一緒にお食事をと、席を設けておりますが」


「悪いがマリアはまだ外の世界に慣れていないのだ。今日はこのくらいで失礼すると陛下にお伝え願いたい」


「左様でございますか。承知いたしました。そうお伝えしておきます」



 グレイと執事の会話を黙って聞いていたエドワード王子が、ガタッと勢いよく椅子から立ち上がる。



「マリア! 俺が呼んだらまた来いよ!」



 ずっと『お前』と呼んでいたエドワード王子が初めて『マリア』と呼んだ。


 マリアは名前を呼んでもらったことが嬉しかったが、グレイの顔が険しくなったのがわかったので小さく「はい……。わかりました」とだけ返事をした。


 しかしこの返事が気に障った王子は、それをマリアに問い詰める。



「なぜ敬語を使う? さっきまでは普通に話していただろ?」


「だって……お兄様が……」



 先ほどエドワード王子に敬語を使っていたグレイを見て、マリアは内心焦っていた。

 国王に対しては敬語で話せていたが、王子には敬語を使っていなかったことに気づいたからである。


 きちんと敬語に直したというのに、エドワード王子は納得がいかないような不満顔をしている。



「マリアは俺に敬語を使わなくていい! 将来、け……結婚するかもしれないんだからな!」



 自分で言いながら顔を赤くする王子の様子を見て、執事や騎士たちがほんわかとした顔になった。

 周りから愛されている王子だというのがよくわかる。


 きっと、この可愛らしい空気の中しらけた顔をしているのはグレイくらいだろう。


 空気の読めていないマリアも純情な王子の気持ちには気づいていなかったため、その想いをキッパリと否定した。



「マリア、結婚しませんよ」



 プフッと吹き出した声がかすかに聞こえてきた。

 騎士数人の身体が震えている。どうやら笑いを堪えているようだ。


 エドワード王子はイライラした口調で話を続けた。



「もしかしたらの話だ! とにかく敬語は使うな、わかったな!?」


「わかっ……」


「いや。しっかりと敬語を使え。()()()()()()()()()()



 わかったと返事をしようとしていたマリアの言葉を、グレイが遮った。

 バチバチ! という音が聞こえてきそうなくらい、再度睨み合うグレイとエドワード王子。


 少し離れた場所から様子を見ていたガイルが、小さな声で「大人げないですな……」と目を細めて呆れていた。


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