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39 ピュア聖女とピュア王子


 中庭の入口あたりで会話をしていたマリアとエドワード王子。

 マリアの「お兄様よりちび」発言で、エドワード王子は一度怒鳴ったあとに黙り込んでしまった。



「あの……エドワード様……」


「な、なんだ!?」


「いえ……」



 マリアは王子に話しかけてみたが、なんと言っていいのかわからず会話が続かない。

 怒らせてしまったのかとマリアは少し戸惑ったが、王子は怒っていると言うよりも焦っているように見える。


 このシーンとした気まずい状況に耐えられないようだ。

 ずっとソワソワと小刻みに手や足を動かしている。


 静かな空気に慣れているマリアは何とも思っていなかったが、エドワード王子は助けを求めるように執事に視線を送った。




 どうすればいいんだ!? なんとかしろ!! 




 少し離れた場所で2人を見守っていた執事は、そんな王子からの必死な視線に気づくなり『歩く』ジェスチャーをした。

 散歩をしろという意味である。



「……!!」



 そういえば国王が「2人で散歩でもしてきなさい」と言っていたな……と王子は思い出した。

 執事から視線を離した王子は、チラリと目の前に立っているマリアを見る。


 生まれた時から聞かされていた伝説の聖女様は、想像とは違い自分より小さくとても幼い。

 しかし今まで見たどの国の姫や令嬢よりも美しく、神秘的なその瞳は真っ直ぐに見つめることもできない。


 王子はマリアと目が合うなりすぐに顔を背けた。

 自分のそんな態度に執事から呆れた視線が送られていることには気づいていたが、どうすることもできなかった。




 無理だ……! 散歩になんて誘えない!




 またまた王子は助けを求めて執事を振り返った。

 執事や中庭の周りで見守っていた騎士達が、皆小さなため息をつく。



「お腹は空いていませんか? もしよろしければデザートなど用意いたしますが」



 見兼ねた執事が2人に近づき尋ねてきた。

 正直今は緊張でデザートなど食べれる状態ではなかったが、エドワード王子は執事が来てくれたことに安堵の表情を見せた。



「デザートだって。お前、食べる……か……」



 そう言いいながらマリアを見た王子は、思わず言葉を途中で止めた。

 先ほどまで無表情に近かったマリアの顔が、あきらかにパァッと明るくなったのがわかったからである。



「準備してよさそうですね」


「ああ……頼んだ」



 執事と王子はマリアの答えを聞く前に話を進めた。

 キラキラと輝く瞳を見れば、答えなど聞かなくてもわかるからだ。


 今まで甘い物などほとんど食べてこなかったマリアは、すっかりケーキやクッキーの虜になっていたのである。

『デザート』という甘い誘惑に、マリアは嬉しさを隠すことができなかった。


 執事は近くにいたメイドたちに指示を出し、自分は他の使用人たちと一緒にテーブルや椅子などのセッティングを始める。


 たくさんの花に囲まれた美しい中庭に、あっという間にそのセットは出来上がった。


 丸くデザインの凝った白いテーブルと椅子。

 お尻が痛くならないようにするためか、小さいマリアを気遣ってか、椅子にはフカフカのクッションが敷かれている。


 テーブルの上には何種類ものケーキやクッキー、チョコレートまで用意されている。


 普段は使っていない薄いピンク色に花柄のティーセットが用意されているのを見て、王子は眉をひそめた。




 俺もこのカップを使うのか!?




 と目で訴えていたが、執事はその視線に気づかないフリをしている。


 ペアになった可愛らしいカップに紅茶を注ぐなり「では私はこれで失礼いたします」と言って、執事はその場を離れた。


 また2人きりになってしまったわけだが、甘い物の力なのか、王子の緊張はだいぶほぐれていた。



「……甘い物が好きなのか?」


「はい。とっても美味しいです!」



 初めて向けられた笑顔に、王子は顔を赤らめた。

 そんな気恥ずかしさを隠すために、ずっと気になっていたことを聞いてみる。



「そ、そういえば、なんでお前は今まで聖女だって名乗り出なかったんだ?」


「え?」


「7年間も黙ってたのはなぜだ?」



 監禁のこともイザベラのことも何も知らない王子が、ケーキを頬張りながら質問してきた。

 その目は暗い理由があるとは全く思ってもいないような、純粋な目をしている。


 マリアは紅茶を一口飲むと静かにカップを置いた。



「……マリア、自分が聖女だって知らなかったから」


「は? なんだそれ?」



 エドワード王子は訳がわからないといった顔をしている。

 しかし、監禁のことなどはこちらから話す必要はないとグレイから言われているため、マリアはそれ以上何も言えなかった。


 話題を変えるために、マリアは自分が気になっていたことを聞いてみることにした。



「ねぇ、婚約者ってなあに?」


「ぶほっ!!」



 マリアの言葉を聞いて王子は頬張っていたケーキを思いっきり噴き出した。

 執事が笑いを堪えたような顔で片付けにやって来る。



「おまっ……何言ってんだ急に……!」


「さっき陛下が言っていたから……婚約者ってなんだろうって思って」


「知らないのか?」



 驚いた顔をしている王子の質問に、マリアはコクリと頷く。

 王子はまた頬を赤くしながら言いにくそうにボソボソと話し出した。



「だ、だから、婚約者っていうのはその……お、大人になったらけ……結婚する相手ってことだよ!」


「結婚ってなあに?」


「それも知らないのかよ!?」



 どう説明すればいいのかと、顔を赤くしてアワアワしているエドワード王子と純粋な瞳でそれを見つめるマリア。

 

 そんな可愛らしい2人の様子を、執事やメイド、騎士達は微笑ましく見守っていた。

 

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