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36 初めての王宮


 初めての馬車に乗ったマリアは、王宮に行くまでの間ずっと外の景色を眺めていた。


 森を抜ける時は自然の色に目をキラキラさせて。街中を走っている時はたくさんの建物に目を見開いて。

 歓喜の声を上げたりはしなかったが、マリアは初めて見る外の光景に大興奮していた。



「……街がめずらしいか?」


「はい。こんなにたくさんのお家があるなんて……。人もいっぱい……」



 ヴィリアー家の敷地は広く、周りに家はない。

 檻に監禁される前は部屋の窓から外を見ていたマリアだが、これだけたくさんの建物は見たことがなかったのである。


 祭りなどがあれば連れてきてやろう。

 そう思う気持ちと、だが聖女であるマリアが街に現れたらパニックになるのではないか、マリアに危険が及ぶのではないか、そう思う気持ちがグレイの中で対立していた。



「マリア。あれが王宮だ」


「王宮……」



 広い道の先に見える大きな大きな建物。

 そこに向かう一本道を馬車が走っている時、なぜかマリアはこの道を見たことがあるような不思議な感覚がしていた。


 何年も前に、真っ暗なこの道を誰かに抱かれて通ったような不思議な記憶。


 王宮の門の前に馬車が到着し、御者の隣に座っていたガイルが王宮からの招待状を見せると、門番はすぐに門を開けてくれた。

 通り過ぎる際、窓からチラッと見えた門番が興味深そうにマリアを見ていた。


 門を抜けてしばらく進むと、目的地に着いた馬車がゆっくりと停まる。

 外を覗いたグレイとマリアは「……っ!」と息をのんだ。


 ずらっと並んだ執事やメイド、騎士たち。

 王宮の入口までの道に綺麗に整列している。


 グレイは王宮に来るのが初めてだったが、この出迎えは聖女であるマリアのためだということがわかった。

 ただの伯爵家の子ども当主をこんなに手厚く出迎えるはずがない。



「まるで一国の王族扱いだな」


「え?」


「いや、なんでもない」



 マリアはキョトンとした顔でグレイを見つめた。

 明るい日差しに照らされたマリアの瞳は、本物の宝石のように眩しく輝いていてとても神秘的である。




 伝説の聖女が誕生したんだ。

 これだけの待遇をされて当然だろう。




 その時、カチャ……と丁寧に馬車の扉が開けられた。



「ヴィリアー伯爵様。聖女マリア様。お待ちしておりました」



 背の高い執事がそう言いながらお辞儀をすると、並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。

 ピシッと漂う緊張感にマリアが硬直してしまっている。


 グレイも少し圧倒されていたが、マリアを安心させるために冷静を装ったままそっと手を差し出した。

 マリアはグレイの手をぎゅっと握る。



「行くぞ……大丈夫か?」


「はい」


 5歳児くらいの身長の小さなマリアが馬車から現れると、誰も声を発していないというのにブワッと華やかな空気に一変した。

 さすがにヒソヒソと話している者はいないが、顔を見れば誰もが目を輝かせながらマリアを見つめているのがわかる。


 マリアはグレイと手をつないだ状態でトコトコと並んで歩いている。

 プラチナブロンドの髪も宝石のような瞳も、明るい日差しの中では一段と美しく見えた。








「よく来てくれた、ヴィリアー伯爵。……そして聖女マリア様」



 王座の間に通されたグレイとマリアは、この国特有の貴族の礼をして国王との挨拶を交わした。


 目の前には立派な王座に座る若き国王と王妃の姿。

 そこから少しだけ離れた場所には、王子と思わしき2人の少年が座っている。

 グレイやマリアを囲うように、左右には官僚や大公家、公爵家と思われる大物貴族がずらっと並んでいる。


 まるで見せ物にされているようでグレイは気分が悪かった。



「まさか数百年誕生されなかった聖女がこの国にいる、と聞いた時は驚いたぞ。今、何歳なのだ?」



 優しい口調だがそれなりの威圧感もある。

 国民から評判の良い国王は、明るい笑顔で2人に話しかけてきた。


 マリアが不安そうにグレイの方に視線を向けたので、グレイは黙ったままコクッと頷いた。

 国王に視線を戻したマリアは、緊張した様子で返事をする。



「……7歳でございます、陛下」


「まぁ。エドワードと同じ年ですわね」



 王妃が嬉しそうにそう言うと、小さい方の少年がピクッと反応していた。

 サラサラとした金髪の少し生意気そうなその少年──エドワード王子は、頬を赤く染めながらマリアのことを見つめている。


 グレイはイラッとした気持ちを顔に出さないように、王子から視線を外した。



「7歳か。聖女のことはイザベラ婦人とキーズという者からある程度聞いている。ヴィリアー伯爵……君は最近まで聖女の存在を知らなかったということだが、間違いはないか?」


「はい。あの夜、王宮騎士団が来たあの日まで知りませんでした」


「そうか……」



 グレイは堂々とウソをついた。

 マリアの存在も、マリアが聖女であることももっと前から知っていた。

 知っていて王宮に報告しなかった。


 だがその事実を知っているのはマリアとガイル、レオだけである。

 イザベラもキーズも、グレイがマリアに会っていたことを知らない。


 この4人が黙っていればいい。

 事前にマリアにも伝えてあったため、マリアも動揺することなく堂々としていた。


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