表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/105

34 王宮からの手紙


 マリア宛ての手紙を封筒から出し、グレイは自分の目の前に広げた。


 ドキドキしながらグレイを見つめていたマリアは、手紙を見た瞬間に彼の眉間にシワが寄ったのがわかった。

 あきらかに不機嫌になっている。


 ピリピリとした空気が流れてメイド達の顔色が青くなっていく。


 ふぅ……と一息吐いて読み上げていくグレイの瞳は、淡々としている声とは違いどんどん暗く怒りの色を増していった。


 手紙の内容は、聖女誕生に対する驚きと感動の言葉、聖女の存在意義の話、王宮と聖女の関係……簡単に言ってしまえばこう一言で表す事ができる。



『聖女様は王宮にいるべき存在である』



 聖女を王宮に迎え入れたいという内容を、グダグダと長い言い訳で書き記しているだけであった。


 グレイは手紙をぐしゃぐしゃにして破り捨ててやりたい欲に駆られたが、なんとか我慢した。

 少し力を入れてしまったので、持っている部分の紙がクシャ……と折れ曲がったくらいだろうか。


 グレイは怒りを抑えながらできるだけ落ち着いた声で話し出した。



「……手紙の内容はともかく、一度王宮へ来るように招待状が入っていた。聖女として王と会うのは避けることはできないから、行かなくてはならないな」


「マリア1人で行くの?」


「まさか。俺も一緒に行く。……俺も王宮に呼ばれているからな」



 グレイの答えを聞いてマリアはホッと胸を撫で下ろした。




 マリアを1人で行かせるわけがない。

 あいつらの目的はマリアを王宮で保護することだからな。




 そう考えていたグレイの頭の中には、母であるイザベラの顔が浮かんでいた。

 王宮側はイザベラの監禁の件を理由にこちらを脅してくるだろう、とグレイは想定している。




 なんとしても王宮はマリアを手に入れようとしているはず。

 こちらに不利になりそうなことは事前に対策を立てておかなくては。

 くそっ……あのタヌキ陛下(ジジイ)が。




「王宮に行くのは3日後だ。それまでに聖女用のドレスを1着必ず仕上げるようデザイナーに伝えてくれ」



 グレイがエミリーを横目で見ながらそう言うと、エミリーは背筋をピンと伸ばして「はいっ」と元気に返事をした。



「じゃあ、俺は戻る。マリアのことを頼んだぞ」



 紅茶を一口だけ飲むと、グレイは深いため息をつきながら椅子から立ち上がった。

 疲れが出ている顔を見て、マリアは無意識に手のひらをグレイに向けた。


 キラキラと輝く黄金の光がパァッと輝き、グレイの身体を包む。

 周りにいるエミリーやメイド達から「わぁぁ」「綺麗……!」と小さな歓声が上がった。



「マリア……!」



 グレイが名前を呼んだ時にはすでに、疲れて重くなっていた身体がスッキリと軽くなっていた。

 パッと黄金の光が消える。

 瞳を輝かせたメイド達が興奮気味に騒ぎだした。



「今のが聖女様の癒しの力なのですね!」

「なんて美しい光だったのでしょう」

「この目で見れてとてもしあわ……」



 キャアキャア騒いでいたメイド達は、グレイから送られている氷のように冷めた視線に気づき、一瞬で黙り込んだ。

 全員顔が真っ青になっている。

 そんな彼女達の様子を見て、マリアは焦ってグレイを見つめた。



「あ、あの……」



 冷たい視線は、メイド達を黙らせた後ゆっくりとマリアに向けられた。

 


「……マリア。その力は簡単に使ってはいけない。特別な力であるし、その力に魅了されてしまう人間も現れるだろう。どこに敵が潜んでいるのかわからないのだから、使う時にはもっと気をつけるんだ」


「……はい。ごめんなさい」



 疲れていたグレイに何かをしてあげたいという気持ちから、深く考えずに力を使ってしまったことをマリアは反省した。


 シュンとうつむいたマリアの頭に、グレイが軽く手をのせてくる。

 そして先ほど聞いた声よりも優しい声でボソッと呟いた。



「だが、ありがとう。おかげで疲れがとれた」


「!」



 マリアの頭をポンポンと撫でて、グレイはそのまま屋敷に向かって歩き始めた。


 グレイが執務室に戻ると、ガイルが分厚い本を数冊机の上に置いていた。

 背表紙には全て『聖女』の文字が書かれている。



「グレイ様。もうお戻りになったのですね」


「ああ。その本はなんだ?」


「過去現れた聖女様がどんなことをされていたのか、が書かれている書籍だけを集めてまいりました」


「……わかった」



 まさにそういった内容の本を持ってこいと命じるつもりだったグレイは、有能すぎる執事に呆れていた。

 自分の考えが全て見透かされているようで居心地が悪い。



「ガイル。あとでマリアに字を教えるよう、メイド長に伝えておいてくれ」


「かしこまりました」


「それから、現在のこの国の戦況や他国との関係なども詳しく調べてくれ」


「かしこまりました」


「3日でできるか?」


「もちろんでございます。すでにいくつかの調べは終わっておりますので」


「……頼んだぞ」



 グレイの記憶の中には祖父の姿など残っていないが、これだけ優秀な執事を残してくれたことにグレイは感謝した。


 王宮に行くまでの3日間、グレイはほぼマリアと会うことができなかった。

 少しでも時間が空いた時に顔を見に行っていたくらいである。


 あの日以来マリアは勝手に聖女の力を使ってくることはなかったが、マリアの顔を見るだけでグレイは治癒の力を使われたのかと疑うほど元気になった気がしていた。



 そして、とうとうその日がやってきた。

 マリアが聖女として国に認められる日が──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ