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29 守られた爵位


 本邸に戻るなり、ガイルは空き部屋へとグレイ達を案内した。

 グレイの部屋の近くにある空き部屋。そこに入るなりグレイは違和感を覚えた。




 この部屋……こんな内装だったか?




 暗い色のカーテンや絨毯ばかりのヴィリアー伯爵家に似つかわしくない、明るい色のカーテンに家具。

 ベッドまで置いてある。


 マリアのために用意された部屋なのだと、グレイはすぐにわかった。

 



 今日、俺が別邸に行こうとしていたこと、その結果マリアをこの家に連れてくること、全部わかってて準備してたというのか? 

 このジジイは一体どこまで……。




 グレイはマリアをベッドに下ろすと、ガイルに食事を持ってくるように命じた。

 早く話したいことがあるが、まずは空腹のマリアの腹を満たすことが先決である。


 マリアは別邸よりも広くて綺麗な部屋を見て、目を輝かせていた。

 気づけば、ずっと無表情だったマリアの顔もだんだんと明るくなってきている。

 マリアの嬉しそうな顔を見て、なぜかレオが同じくらい嬉しそうな顔をしていた。



「お待たせいたしました」



 久しぶりのお食事なので、まずは身体に優しいものから……と、ガイルは細かく刻んだ野菜と卵の入ったスープを持ってきた。


 マリアはゆっくりと、それを味わいながら少しずつ口に運んでいく。

 満腹になると、また熱が上がってきたのか薬を飲んでぐっすりと眠ってしまった。



「お部屋を変えてお話をされますか?」


「いや。ここでいい」



 ガイルからの質問に、グレイはマリアの寝顔を見つめながら答えた。

 ガイルは「かしこまりました」と言って、グレイとレオの分の紅茶を淹れ始める。


 

「……それで、俺が当主というのはどういうことなんだ? お前が自分の意思で勝手に決めたのか?」


「いいえ。アーノルドからの指示でございます。ジュード様が亡くなった際はグレイ様に爵位を継がせるようにと、遺言を授かっていたのですよ」


「ではなぜそれをイザベラや俺に言わなかった? 俺があの書類をまともに読んでないことも、お前ならわかっていただろう?」


「反対されると思ったからです」


「何?」


「あの頃のグレイ様なら、反対されてすぐにイザベラ様に爵位を譲ってしまうと思ったので、黙っておりました」


「…………」



 悔しいが、その通りだとグレイは納得した。

 あの頃自分が当主だなんて言われたなら、そんな面倒はごめんだと拒否していただろう。


 グレイとガイルが会話しているのを、レオは大人しく紅茶を飲みながら黙って聞いていた。

 騒がしい男であるが、意外と空気を読むことができる。



「使用人はどこまで知っている?」


「キーズ以外は皆存じております」



 使用人も全員知っていると聞いて、グレイはイザベラが爵位を継ぐと言い出した日のことを思い出した。

 あの日、ずっと部屋にこもっていたイザベラからの突然の提案に、それは無理だと反対する者はいなかった。




 全員狂っているとは思っていたが、イザベラが継いでいないことをわかっていたのか。

 あの女にここまでの経営能力があるとは……と驚いていたが、それもガイルがやっていたからだったんだな。




「……ヴィリアー家の主人を2人とも騙すとは、よくやってくれたな」


「罰ならば喜んで受けましょう。ヴィリアー伯爵家の爵位が剥奪されなかったことで、私に後悔はありませんから」



 ガイルと初めてまともに会話をしたあの日、ガイルが1番大切なのはヴィリアー伯爵家だと言っていたのを思い出す。


 この男にとって、友人であるアーノルドはどれほど大事な存在なのだろうか。


 詳しく聞きたい気持ちなど全くないが、自分が騙されていたというのにグレイは悪い気はしていなかった。

 そんな自分に、グレイ自身が驚いていた。



「グレイ……」



 心配そうな顔で、レオがボソッとつぶやく。

 レオは、グレイが本当にガイルを罰するのではないかと不安に思っていた。



「はぁ……。今回はそのおかげで助かったからな。罰はない」


「……! ああ、良かった!」



 レオはパァッと明るい笑顔になり、嬉しそうな声を上げた。ガイルは無表情のままペコリと頭を下げる。

 なぜ本人以上に喜んでいるのかと、グレイはレオをジロっと横目で見たがレオはそんな視線には気づいていない。



「マリアも檻から出れたし、本当に良かった! ……あ。でも、グレイのお母さん大丈夫かな?」


「さあな。明日にはすぐに王宮から何か連絡があると思うぞ」


「マリアと交換って言われるかも。どうするの?」


「はぁ? そんなのマリアを選ぶに決まってるだろ」



 そう答えるとレオは頬を緩ませ温かな視線をグレイに向けてきたので、グレイは少し不機嫌になった。

 嫌悪の目で見られるよりも、温かな視線の方が居心地が悪い……とグレイは思った。


 その鬱陶しい視線から逃れるようにマリアの方に顔を向けると、マリアはすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。

 顔がまだ少し赤いので熱は下がっていないようである。



「今日は私がマリア様についております。グレイ様やレオ様は安心してお休みになってください」


「ありがとう!」


「……わかった。頼むぞ」



 ガイルをその部屋に残し、2人はグレイの部屋へ向かった。

 部屋に入るなり「疲れたー!」と叫びながら、レオがベッドに飛び込む。


 ただマリアに会いに来ただけだったレオにとって、今夜の出来事はグレイ以上に緊張の連続だっただろう。

 それでも文句も言わず、良かったねと言ってくれるレオの存在はグレイにとってありがたいものであった。


 もちろん、グレイはその感謝の気持ちを言うつもりはない。


 それに、どっと疲れたのはグレイも同じである。

 2人はベッドに横になってすぐ、ぐっすりと深い眠りについた。

 同じベッドで寝たのは幼い頃以来のことであった。


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