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24 母との対面


 イザベラを問い詰めたい。

 なぜここまでマリアを虐待するのか。何を考えているのか。


 文句を言って、無理やりイザベラの持っている別邸と檻の鍵を奪って、マリアをもう二度と檻には入れない。

 救う。逆らったら、地下にあるという牢に監禁してやる。面倒なことや細かいことは、やってから考えよう。


 きっとあのガイルがうまくやってくれるはずだ。



 グレイは後先考えずに、スタスタと別邸の廊下を歩いた。

 暗闇に慣れたのか、うっすらとだが真っ暗な屋敷の中が見えている。


 階段に差し掛かったところで、足元が光で照らされた。

 ランプを持ったガイルが、グレイのすぐ後ろに立っている。



「どちらへ行かれるおつもりですか?」


「……あの女の部屋だ」


「イザベラ様はまだお戻りになっておりません」


「わかっている。鍵を奪って、部屋を荒らしておくだけだ」


「……それも良いお考えですが、イザベラ様はあと数分でお戻りになりますので、こちらでお待ちいただいたほうがよろしいかと思います」


「なんだと?」



 階段を降りようとした足をピタリと止めて、グレイはガイルを振り返った。

 ガイルはすぐ近くの窓を開けて、少し離れた場所にあるこの家の門を見つめている。


 まさか……という言葉を出そうとした時、馬車の走る音が遠くから聞こえてきた。

 グレイが窓から覗くと、イザベラの使っている馬車が門を通ろうとしているところであった。



「なぜわかった!?」


「本日イザベラ様が参加される予定だった夜会は、直前で中止の連絡がきておりました。執事のキーズがその確認を怠ったようです」




 夜会が中止になったことも、キーズという執事がそれに気づいていないこともわかっていて、止めることなくイザベラを送り出したのか……このジジイ。




 平然としているガイルを、グレイは呆れたような顔で睨め付けた。


 でも、これですぐに直接話すことができる。

 グレイは急いで階段を下りて、別邸の玄関から外に飛び出した。


 突然現れたグレイに驚いて、御者は別邸前で慌てて馬車を止めた。



「どうしたんだ? 危ないではないか…………グレイ様?」



 馬車から降りてきたキーズが、グレイを見て目を丸くしている。

 こんなに近くで会ったことなどないのだから、驚くのも無理はないだろう。


 ガイルは別邸の中から出てきていないが、どこかでこの様子を見ているに違いない。



「グレイ様……このような場所で一体何を……」


「グレイですって?」



 キーズの言葉を聞いて、馬車の窓からイザベラが顔を出した。

 イザベラとこの距離で会うのもいつ以来だろうか。


 

「あら、グレイ。まるで私を待っていたみたいね。母である私に何か用なの?」



 美しい顔だが、昔のような優しく温かな雰囲気はなくなっている。

 笑顔で話しかけてきてるが、その目が笑っていないこともわかる。


 久しぶりに母と真正面から向かい合っているというのに、グレイには嫌悪感しかなかった。

 少しでも早く離れたい。無駄な話などしている暇はない。


 そう感じていたグレイは、すぐに要件を伝えた。



「マリアを解放しろ」


「!?」


「なっ……なぜそれを……!?」



 グレイの言葉に、イザベラは硬直しキーズは動揺している。

 別邸の前に立ってはいるが、ここから出てきたとは思っていなかったらしい。



「……あの子に会ったの?」


「会った。聖女だということも知っている」


「……それで解放しろと? あの子のせいで、私達家族はバラバラになったのよ?」


「マリアのせいじゃないだろ。お互いに関心が持てなかった俺達が、最初から狂ってただけだ」


「あの子を庇うの……?」



 イザベラの声のトーンがどんどん低くなっていく。

 目も血走ってきているように見える。


 今にも爆発してしまいそうだが、グレイは引くつもりはなかった。




 このまま追いつめる! 

 もしもの時は、この女を捕まえて監禁する!




 まだ13歳のグレイだが、同年代に比べて背も高いし武術も得意であった。

 力の弱いイザベラなら余裕で捕まえられる自信がある。


 イザベラは頭をガクンと下に向けてうつむいたかと思えば、突然手足がプルプルと震えだした。

 怒りを堪えている……いや、むしろ溜めているように見える。



「どうして……母である私に反抗して、あの子を庇うのよ……。グレイまで……」


「マリアは俺の妹だ」


「妹? なに言ってるのよ。あの子はジュード様の子どもじゃないわ!」


 

 妹という言葉に反応して、イザベラがバッと勢いよく顔を上げた。

 今まで見たことがないくらいの鋭い目でグレイを睨みつけている。



「知ってる。だが、これだけこの家に貢献していたなら、家族と言ってもいいだろう。すでに俺の中では、お前よりもよっぽどマリアのほうが家族だ」


「なんですって……! 私よりあの子を選ぶの?」


「当然だろ」



 グレイの返答に、イザベラはなぜかふふふ……と笑い出した。

 鬼のような形相から一転しての笑顔だったので、グレイはとうとうイザベラが本格的に狂ったと思った。



「あの子が檻から出て、グレイに家族のように大切にされながら生きていく……なんて、そんな姿見たくはないわ。そうなるくらいなら、あの子を今すぐ死なせてしまいましょう」


「なんだと?」


「ずっとそうしたかったの……本当は。利用できると言われたから利用してきたけど……本当はもっと早く、殺してしまいたかった……」



 自分に酔いしれているかのように、イザベラはゆっくりと語っている。

 でもその怪しい顔つきで、言っていることが事実なのだとわかる。




 この女は本当にマリアを殺すつもりだ……!




「今日はちょうど月も隠れているから、聖女の治癒も使えない……。絶好の聖女殺しの日よね」



 妖艶な美しさでつぶやいたイザベラを見て、グレイはゾクっと背筋に悪寒が走った。

 目の前にいる人物は、本気で今から人を殺そうとしている。


 それも楽しそうに。


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