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虐げられてた無垢な聖女様は、突然できた冷徹な義兄に溺愛されているようです?  作者: 菜々@12/5『主人公より溺愛』コミック7巻発売
3章

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15 なんで女の子が監禁されてるの!?


「え? 今、なんて言ったの?」


「あの女が家を出たら、向こうにある別邸に忍び込むぞ」


「忍び込むって何!? 大丈夫なの!?」



 7年ぶりに来たグレイの部屋でくつろいでいたレオは、驚いた拍子に座っていたソファから滑り落ちそうになった。



「大丈夫だ。あっちにお前に会わせたいヤツがいる」


「あっちって……誰もいないでしょ!? 真っ暗だよ!」


「いや。いる」


「えっ……何それ。怖いものじゃないよね……?」



 何を想像しているのか、窓から別邸を見ていたレオの顔色がどんどん悪くなっていく。


 全く怖いものではないし、むしろレオにとっては喜ばしい相手なのだが……怯えている様子がおもしろかったため、グレイは何も教えないことにした。


 いつもと同じ時間に、イザベラが馬車で出かけていく。

 息子の友人が来ていようが、イザベラが母として挨拶に来ることはない。


 レオは、グレイの家庭事情をなんとなく感じ取っているのか、母について何も触れてはこなかった。


 

「よし、行くぞ」


「えーー……大丈夫なの? 本当に……」



 ブツブツ不満を言いながらも、レオは暗い庭の中をグレイの後について走ってくる。

 別邸の扉を開けると、中は相変わらず薄暗くて静まり返っていた。



「ほ、ほら。誰もいないじゃないか。帰ろう」


「…………」


「待ってよグレイ!!」



 グレイが無視してスタスタ歩き進めると、レオが仕方なさそうに追いかけてくる。


 半泣き状態のレオを連れて2階1番奥の部屋に入ると、いつも通り……檻の中には眼帯をつけたマリアが座っていた。


 レオはマリアの姿を見て、目を見開いたまま硬直した。



「妹のマリアだ」



 そう紹介すると、レオは人形のようにギギギ……と首だけゆっくり動かしてグレイを見た。

 顔色は青く、冷や汗がたくさん出ているようである。



「い……妹だって?」


「ああ。そうだ」


「いやいやいや……妹とか、それ以前に……な、なんなのこの状況。な、なんでこの子は監禁されてるの?」



 レオはプルプル震える指で、マリアを指している。

 マリアはじーーっとレオの方を見上げたまま動かない。



「理由なんて知らないな。あの女の考えてることなんてわからない」


「グレイのお母さんがやってるの……? でも……妹なんでしょ? どうして助けてあげないの?」


「助ける?」


(ここ)から出してあげなくていいの!?」



 グレイはレオの言葉に軽い衝撃を受けた。

 真っ直ぐにグレイを見つめるレオの瞳は、必死に何かを訴えている。




 檻からマリアを出す……?

 



「そんなの、考えたことなかったな」


「なんで!?」



 レオは1人でオロオロと慌てふためいている。

 


「可哀想だよ! こんな眼帯させられて、足は鎖でつながれてる! 出してあげよう!!」


「無理だな。牢の鍵がない」


「じゃあ探そう!」


「……なんでそんなに出したがるんだ? 出たところで、本邸(むこう)で一緒に暮らすのは無理だぞ。あの女がそれを許すはずないからな」




 逆に、俺はなぜ出してあげようとしないんだ……?


 ──出したとして逃げられたらどうするんだ。




 グレイは頭の中で自問自答していた。

 檻の中で生活しているのがおかしいことは、もちろんグレイだってわかっている。


 それなのにグレイが檻から出したくない理由……それは、聖女に逃げられるのではないかと思っているからだ。


 この檻から解放された途端、王宮に行ってしまうかもしれない。

 こんな扱いをされている家に、自由になった後もいたいなどとは思わないだろう。



 

 できればここにいてほしい。

 自分勝手な考えだ。……最低な母と自分は同じだ。




 マリアのことを最優先に考えてすぐに『出してあげたい』と言ったレオの真っ直ぐな瞳を見て、自分の心が汚れていることにグレイは改めて気づかされた。


 それに気づいたところで、グレイが気持ちを入れ替えることはないのだが。



「なんで……? どうしてそんなにこの子を……」


「聖女だからだ」


「…………は?」


「マリアは聖女だ」


「な……何言って……」


「マリア、こっちに来い」



 わけがわからないといった顔をしているレオを無視して、グレイはマリアを呼んだ。

 トコトコと格子の近くまでやってきたマリアの顔に手を伸ばし、真っ黒の眼帯を外す。


 薄暗い部屋の中で、黄金の輝きを持つ美しい瞳があらわになった。



「!!!」



 レオがマリアに目を奪われている。

 身動きもせず、口を大きく開けたままただ真っ直ぐにマリアを見つめている。


 マリアも、最初こそグレイを見てきたが、今では自分をずっと見つめてくるレオを見つめ返している。

 


「マリア。そいつの左足を治せ」



 マリアはコクリと頷いた。



「えっ……?」



 マリアは格子の間から手を出し、レオの左足に手のひらを向けた。

 黄金色の光がレオの左足を包んでいるのが、グレイにもはっきり見えている。



「わああ……! な、何これ!?」


「静かにしろ」



 しばらくして光が完全に消え去ると、マリアは手を引っ込めた。

 レオは信じられないものを見るように、自分を見上げているマリアを見つめた。



「左足、治ったはずだぞ」


「……!!」



 レオはその場で思いっきり高くジャンプした。

 どすん! と着地をしたあと、小さな声でボソリと呟く。



「……痛くない」


「どうだ?」


「痛くない……!! 痛くないよ、グレイ!!」



 レオの瞳には涙が浮かんでいる。

 その後も、レオは走ったり飛び跳ねたり、部屋の中をバタバタと動き回っては、自分の怪我が完全に治ったことを確認した。



「夢みたいだ……!! 本当にこの怪我が治るなんて……」



 レオは格子の間に手を入れてマリアの手をつかむと、両手でぎゅっと握りしめた。

 目からはすでに涙がこぼれ落ちている。



「ありがとう!! 本当にありがとう!!」



 お礼を言われたマリアは、少しだけ動揺を見せた。


 今まで目の前で腕を切りつけようが、寝ているところを突然起こそうが、全く動揺していなかったマリアが……初めて目をパチパチさせて、少し困ったような顔をしている。


 気のせいか、真っ白な頬が少しだけ赤くなったように見える。


 なぜだかグレイはそんなマリアの様子が気に入らなかった。


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