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14 幼なじみのレオ


 聖女の力に触れた次の日、グレイは学園の図書館に来ていた。

 小等部〜高等部、研究部、武術部があり、6〜22歳までの生徒が通う、貴族しか入れないセントオーストル学園。


 その学園内にある図書館は、国内でもトップ3に入るほどの蔵書数と広さを兼ね備えていて、校舎内ではなく独立した建物として隣接されている。


 デザイン性が高く、その外観を見て誰もが図書館だと気づかないほど、綺麗な建物であった。



 聖女の本を探しに来たグレイは、その種類の多さに驚いた。

『聖女関連本』専用の区画があり、高くて長い棚にはびっしりと『聖女』と書かれた本が並べられている。


 聖女のことはもちろん知っているものの、授業で習う以外には個人的に調べようとしたことがなかったグレイは、これほど豊富なのかとキョロキョロしながらその通路を歩いた。

 

 誰も聖女の本を求めていないのか、通路にはグレイしかいない。

 とりあえず目に入った『聖女の伝説』というタイトルの本を手に取り、適当にめくってみる。


 たまたま開いたページには、聖女の絵が載っていた。

 本の書かれた年代から、実際に聖女を見たことのない人物が想像で描いたものであるとわかる。

 

 尖った顎に、切長の目。魔女のようなその風貌に、グレイは思わずフッとうすら笑いをした。



「全然似てないな」


「誰に?」


「!?」



 返ってくるはずのない声に、グレイはバッと後ろを振り返った。


 薄茶色でふわふわの猫っ毛の髪。口角がいつも少しだけ上がっていて、口も猫のような形。

 優しそうな顔をしたクラスメイトのレオが、にこにこしながら立っている。



「それ、聖女の本でしょ? 誰に似てないの?」


「…………」



 グレイは無言のまま本を棚に戻した。



「えーーなんで戻すの? というか、なんで無視? ひどくない? 泣いちゃうよ? ねぇねぇ」


「うるさい」



 レオはこの学園で唯一、グレイに物怖じせず話しかけてくる人物である。

 実は2人は幼馴染で、小さい頃からの知り合いだ。


 グレイの性格が変わり、みんなが距離を置くようになってからも、レオだけはそれまでと同じ態度でずっと接してくれている。


 

「お前、なんでここにいるんだ?」


「グレイが図書館のほうに向かってるのが見えたから、後をつけてきた! それより、グレイこそなんで聖女の本なんか見てるの?」



 レオが先ほどグレイが戻した本に手を伸ばしたので、バシッと叩いてそれを止めた。

 半泣き顔でこちらを見ながら、叩かれた自分の手をスリスリさすっているレオ。



 

 7歳の子どもよりも、考えてることが顔に出るヤツだな……。




「変な勘繰りをするな。お前には関係ない」


「なんだよーー。聖女なら、俺も結構詳しいぜ?」


「……お前、聖女に詳しいのか?」


「ああ。昔すごく興味が出た時期があって、調べまくったことが…………ってグレイも知ってるじゃん! 俺、そんな話したことあったよね!?」


「お前の話なんか、ほとんど聞いてない」


「ひどいっ!」



 大袈裟に悲しむフリをするレオを見て、グレイは小さくため息をつきながら質問をした。



「……で? なんで聖女について調べたりしたんだよ」


「ほら。俺、10歳の頃落馬したことがあっただろ? あれで左足やっちゃって、騎士への道を断たれたからさ」



 グレイは当時のことを思い出した。

 普通に歩いたり走ったりはできるが、長時間の運動や身体に大きな負担が掛かることはできないと言われたレオ。


 ずっと夢だった騎士を諦めなくてはならないと、落ち込んでいた時期があった。

 しかし持ち前の明るさで、すぐに立ち直っていたように見えていた。



「聖女の力で治らねーーかなぁ……って、ちょっと調べただけだよ」



 ははっと笑いながら話すレオを、グレイは真顔で見つめる。

 昔から見慣れている、レオの笑顔。




 すぐ思ってることが顔に出るヤツだが、本当に苦しいこととかは隠して無理に笑う……昔から変わってないな。




「お前……今でも聖女がいたらいいなって思ってるか?」


「え?」


「だから、聖女に足を治してもらいたいか? って聞いてるんだ」


「なんだよ、いきなり……。そりゃ、治せるなら治して欲しいけど。でも聖女ってもう100年以上も生まれてないんだろ? 運よくこの時期に生まれるわけ……」


「レオ、今日うちに泊まりに来い」


「ええ!?」



 突然好き勝手言い始めたグレイに、レオは目を大きく見開いてあたふたしている。

 グレイはずっと真顔のまま、至って平常運転だ。



「え……俺、泊まりに行っていいの? 遊びに行くのすら断られてたのに」


「今日だけだ」


「ええ!? なんだよ、何かあるの!?」


「…………」


「え!? 無視!?」


「うるさい。いいから黙ってうちに来い」


「わ……わかった」



 ポカンとしているレオにそれだけ言うと、グレイは聖女の本を手に取る事なく図書館をあとにした。


 嬉しそうに横をついてくるレオが鬱陶しくて、今日の泊まりはなかったことにしよう、と言いそうになるのをグレイはグッと我慢した。




 聖女のことを誰かに話す気などなかったのに……。

 今日このタイミングでレオが現れていなければ、わざわざ自分からレオの足を治してやろうとは考えなかっただろう。

 



 グレイはチラリと隣で笑っているレオを見た。

 泊まりに行けるのが余程嬉しいらしく、楽しみにしているのが顔に出すぎている。




 運のいいヤツだな。俺とマリアに感謝しろ。




 そう思っているものの、実はグレイ自身もそんなに悪い気はしていなかった。

 

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