魔剣の魂
誰かの記憶がラージュに流れ込んで来た。
彼女は、黙々とそのクリスタルに祈りをささげていた。
隣にはネイバーの様な男が隣に立っていた。
祈りが終わった少女、リーシアがゆっくりとクリスタルから離れた。
「ネイバー、いいのですか?あなたは魔剣の巫女の護衛などなりたくなかったはず、あなたは自由であるべきだと思います」
「いえ、ようやく気付きました、魔剣の巫女を守るのが私の役目、今までの自分が青臭かったのです」
リーシアは帰ってきた答えに悲しそうに顔を伏せた。
「あなたも縛られるのですね、あなたのおば様のように」
「いえ、私は選ぶことができました、十分にその時間はあった、あなたのおばのフィーア様よりももっと自由に」
「ネイバー……いいでしょう、あなたがその道を選ぶのであれば、私の魂が魔剣によって尽きるまで私を守るよう、命じます」
ネイバーはリーシアのその言葉にただ一言「おおせのままに」とそれだけ答えた。
ラージュは目覚めると、不思議な赤いモヤが漂う空間にいた。
隣にはリーシアがおり気を失っていた。
「リーシア」とラージュは言いかけてその言葉を引っ込めた。
先ほど自分が剣を投げつけ、走り出し暴走してしまった事を思い出したのだ。
ラージュが立ち上がろうとした瞬間。
「ラージュ」とリーシアが言って立ち上がった。
ラージュはビクリとしてリーシアから3歩ほど遠ざかりうつむいた。
「ラージュ、ごめんなさい、関係のない村の人達やあなたを巻き込んでしまって」
「いや、もういいんです。それよりも俺の方こそ悪かったです、ごめんなさい」
リーシアはラージュの言葉に目を丸くして。
「謝るのは私の方です、ごめんなさい」
と言った。
「ところで、この場所はどこなんでしょうか?俺たちはどうしてこんな場所に?」
ラージュは少々不気味なこの場所をリーシアに尋ねてみた。
「私は夢でこの場所をよく見るんです」
リーシアの突拍子もない夢の話にラージュはポカンとした。
「夢?じゃあ俺の見てるこれも夢なのかな?」
ラージュは混乱しながらリーシアに問う。
「いいえ、ここは夢であり夢でない場所。このまま引きずりこまれれば、元の世界には戻れない」
リーシアの言葉の恐ろしさにラージュはドキリとした。
「この場所は魔剣ファルメールの魂の中、しかもかなり深い場所に着てしまったようですね」
「俺たちはこの場所からは戻れないのか?」
ラージュはリーシアに恐る恐る尋ねた。
「ええ、恐らく。ラージュごめんなさい、この場所に来るのは魔剣の巫女たる私の役目、魂を削り魔剣を封じ、この場所に落ちていくのが私の役目でした」
リーシア話を聞いてラージュはハッと顔を上げる。
この少女の運命を知って。
「安心せい、魔剣の巫女と我が主よ」
赤いモヤの中から、それを否定する幼い少女のような声がどこかから響いた。
リーシアとラージュは辺りを警戒する。
「そんなに警戒せんでもよい、取って食いはせん」
幼い声がそう答えた。
「あなたは誰ですか?姿を見せてください」
リーシアが警戒したまま声に呼びかける。
「姿はまだ見せることはできぬ、だが名は名乗ろう、我はファルメール。魔剣と呼ばれておる」
「魔剣……ファルメール」
リーシアは口ずさんだ。
「リーシアよ、お主は魔剣の巫女の中でも一番優秀だぞ?真の魔剣の巫女として覚醒する日も近いであろう」
幼い少女の声がリーシアにそう語りかけた。
「私が?」
リーシアは呆気にとられた顔をする。
「この場所まで来て魂に溺れておらぬ物はリーシア、お主と隣の少年だけじゃ」
声はなお話続ける。
「リーシアよ魔剣の巫女として、そこの少年を助けるのじゃ、さすれば道は開けるであろう」
幼い少女の声がそう告げた瞬間、ラージュとリーシアは現実に引き戻された。
目を開けると、リーシアの頭を膝に乗せ悲しそうな顔を隣でしているネイバーがラージュの目に入ってきた。
「ネイバー」
リーシアが目を開けネイバーに声をかけた瞬間、ネイバーは静かに泣き始めた。
ラージュは静かに立ち上がりそれを隣で見ていた。