リベリト村の終わりの夜
ラージュは今日出会った少女と男を思い出す。どうしても彼ら、いや彼らの何かが頭の中に引っかかり、どうしても忘れられなかった。
ベットの上でそんなことを考えていると、村長の家から赤い光が見えた、次の瞬間、その光は辺りを不気味に照らし始めた。
ラージュはベットから起き上がる、何か大変なことが起こっていると直感でそう感じた。
村長の家
少女が目をつぶって、目の前のクリスタルに向かて力を注いでいた。彼女の額には一筋の汗が流れた。
彼女の名前はリーシア、この村の村長に一晩の宿を借りた身だ。
そして、彼女の隣で彼女を見守っている護衛、彼はネイバー大きな剣を使うことを得意としており、彼女の護衛隊長で唯一生き残った護衛だった。
彼女は目の前のクリスタルに力を注ぐ……必死に。
私のせいで全て失敗してしまう。
私のせいで封印が解けてしまう。
それだけは、絶対にあってはならない事だった。
2日前、突如として大量の、まるで誰かが統率しているような魔物に封印の地が襲われ、魔剣の封印石を封印の台座から取り外したあの日、多くの護衛が息絶えた……彼らの死を無駄にしてはならないはずなのに、私は……
一方そのころ、ラージュは必死に逃げていた。
突如として魔物がリベリト村に押し寄せてきたのだ。
どうしてこの村がこんなことに?
ラージュは走る、この辺りでは見たこともない瘴気によって変異した魔物たちが辺りをうろつき人々を襲っていた。
「やめろ!!ミルフィを離せ」
ラドックの声が聞こえた。
ラージュは声のする方を振り向いた。
「ミ……」ミルフィと言いかけたラージュは見てしまった。
瘴気で巨大化した狼にミルフィがちょうど一飲みになさる瞬間を……
そして、畑番の剣を振るうラドックを巨大化した狼が鬱陶しそうに前足で払うと、ラドックは家の壁にぶつかって、動かなくなった。そこへ巨大化した狼が群がった。
「ラドック……」
ラージュは頭の中が真っ白になった。
巨大化した狼がこちらへ向かってくる。もうおしまいだ。
「ラージュ走れ」そこへ村長の声が聞こえた。
「私の家は安全だ、早く」
「は、はい」
ラージュはそう言って後ろを見向きもせず村長の家に向かって走り出した。
後ろで獣の悲鳴と爆音が聞こえた。
ラージュが村長の家に駆けこむのと同時に、村長の家の部屋の一画からリベリト村が瘴気の赤い光の奔流によって消し飛んだ。
ラージュはどれぐらい気を失っていたのだろう?
二人のボンヤリとした輪郭が鮮明になっていく。
少女が目に涙をためてラージュに抱き着いて何か話している……
リーシアは起き上がり、辺りの惨状を目にした。地はえぐれ、クレーターの様になっていた。
私とネイバー、そして一人の少年だけが奇跡的に生き残た……
なぜ私たちは生き残ったのだろう?リーシアは不思議に思う。だけど彼女にとって彼が生きていることが唯一の救いだった。
「よかった、生きてくれて」リーシアはそうつぶやいた。
そんな風景を遠くから見つめる存在がいた。彼女は今始めて自我を持ち目覚めた。
「あなたが???私の」
彼女はうつろな目でそういって、久しぶりの目覚めから、まどろみの中へ沈んでいった。