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勇者不在戦記  作者: ウィッスル
ヘルマンside
3/4

小会議室にて

将来設計を打ち砕かれ、呆然とする俺に

「詳しくは、レナーテ君から聴きなさい」

と退室を促すカール団長に敬礼を行うと、入り口のドアをレナーテ秘書官が開けてくれる。





レナーテ秘書官に先導されて、向かった先は小会議室だ、この小会議室は、騎士団の詰め所であるディアマンテの塔内部に複数あり、各部屋に防音の魔術具が設置されている。

ここは本来の用途である作戦会議以外にも、少人数の宴会や男女の逢引など、不純な用途にも使われる密談にピッタリの部屋だ。



「ヘルマン殿、こちらにお掛け下さいませ」

テーブルを挟んで対面に座ると、これからの事について語られる



「まず、正式な辞令が下るのは10日後に成ります、役職は中隊長、3個小隊を率いてもらいます、目的地は城塞都市ガーネット、行軍は師団単位で行います。

師団長にはアベル副騎士団長が就きます、現地到着後は防勢作戦を展開しますが、他師団による支援作戦も予定されていますので、後に攻勢作戦も行われるものと考えられます。

そして、中隊長から上には補佐官が付きます、エレナ三等補佐官を予定していますが、不都合は御座いませんか?」

「いえ、エレナ補佐官とは面識も無いですし、推薦したい者もいません」

それでは、とレナーテ秘書官が書類を一枚取り出す



「こちらにサインをお願いします」



渡された書類は推薦状だった、エレナ補佐官の業務、権限、報酬が記載されていて、最後に『貴女を私の補佐官に推薦する』と書かれている



「これは…?辞令とは違うのですか?」

「はい、基本的に補佐官の評価は、補佐する騎士に紐付けられますので、補佐官側にも選択の余地を残して有るんですよ」

「と言うことは、断られる事も有り得る、と?」

「前例は少ないですが、有り得ることです」



なるほど、騎士が家督を継げない貴族男性の職場なら、補佐官はそれの女性版だ、貴族と言っても、政略結婚の駒として効果の薄い、三女以降がメインであり、権力はそこまで持ってはいない。

問題は、補佐官の業務で、部隊内の騎士に命令を下す事も有り得る事で、いくら軍の規律で縛ろうとも、平民の女性の言葉では、貴族の騎士は動いてくれない、そこで貴族家の権威が必要と成る、分かりやすい理由だ。



そして、評価は補佐する騎士に紐付けられる、と言うことは俺が昇進すると、一緒に補佐官も昇進すると言うことで、将来性の全く無い騎士には、お断りを入れるのも納得だ。

だが補佐官が配属されるのは、基本的に中隊長からなので、余程の事が無い限り、将来性は有るはずだ、という事は、ここに来て断られるのは、実家の派閥や当人の性格の問題かもしれないな?



ちなみに、補佐官として昇進し続けると最終的に秘書官に成る、目の前のレナーテ秘書官は九大貴族カステル家の令嬢だ、たしか四女だったはずで、高嶺の花を通り越して、雲の上の存在だ。



このエレナ補佐官も貴族の出なのは、確実だな。

そうなると、もう少し詳細を把握しておいた方が良いだろうか…



「そういう事でしたら、サインする前にエレナ補佐官の人となりを知っておきたいのですが…」

「そうですか…、それでしたら、こちらにお呼びしましょうか、あまり驚かれないで下さいね?」

そう言ってレナーテ秘書官は部屋から出ていく。

んん?エレナ補佐官とは、俺が驚く様な人なのか?



今の内に少し整理しないと駄目だな、と考えを張り巡らせる。


まず、中隊長って事は部下は200人程だろうか?俺みたいな若造に任せて良いのだろうか?


確かに、俺は士官学校は卒業しているが、成績は中の下辺り、お世辞にも指揮官として優秀ではない、ハッキリ言うと、エレナ補佐官に断られてもおかしくないレベルだろう、父上を買収してまで引き止めたい人材じゃない筈なんだが……

団長の考えが判らない。



そもそも、魔王復活ってどれだけの被害が出るんだ? 

カール団長曰く、勇者以外の者が倒したとしても、復活するらしいが、裏を返せば勇者以外でも対抗出来る、という事だ。

軍で圧倒できる程度である事を祈ろう、でないと14年の間に王国が滅びかねない、少なくとも、勇者召喚までに敵の主力くらいは壊滅させないと、厳しいだろうな。



後は目的地の城塞都市ガーネット、直接行くのは初めてだが、有名な場所だし予備知識は有る。

リートゥス王国の最北東に位置するエラキス領の首都で、人類と魔族の領域を分かつ、アンブロジウス川を沿うように建てられた巨大な二重城壁が特徴の、由緒ある古都だ。

この、アンブロジウス川の源流が在るエラキス連峰は、南北に大きな山が連なり隣国との国境を形成している。

この都市の駐屯兵数は凡そ2万で、実戦経験の豊富な精鋭軍と知られているが、戦力として特徴的なのは、この街独自の組織で、ハンターと呼ばれる傭兵の存在だ。

彼らハンターは、魔物や魔族を狩る事を生業にした者達で、魔物由来の製品の大半が、彼らが獲った物だろう。

本来王国に属さない大規模な戦力は、解散させるべきなのだろうが、産業にも防衛にも一役買っている為、エラキス領主が保護している状態だ。

今回の行軍は、彼らの仕事を根こそぎ奪いかねないのだが、大丈夫だろうか?

もしかしたら共同作戦のように成るかもしれないな。



会議室のドアが開くと「戻りました」とレナーテ秘書官の声が掛かる。

慌てて背筋を伸ばし、入り口に目を向けると、ドアの向こうからカタカタと聞き慣れない音が聞こえる。

何事かと待ち構えると、ドアの向こうから車椅子に乗った可憐な女性が姿を現した。



「エレナ・テラム・アルミナです、以後お見知り置きを」



エレナと名乗った女性は、余りにも特別だった、

切りそろえられたセミロングの少し青味の掛かった白金髪、深い蒼眼を縁取るやや垂れ気味の目尻には印象的な泣き黒子、白い肌には厚みは無いが健康的な桃色の唇が彩りを添えている。




顔を一目見た瞬間に心臓がドキリと跳ね上がり視界が狭くなる。

フラフラと俺は立ち上がり、エレナ補佐官に近づいていく、そして車椅子の前に片膝を立て、口を開く



「あぁ…、美しきお嬢さん、私、ヘルマン・テラム・ヴァレンロードと申します、この後、お茶など御一緒に如何かな?」



スッと、エレナの右手を取り、その滑らかな手の甲に口づけをするのだった。









ん?俺は何やってるんだ?






次の瞬間、眼前に広がったのは、レナーテ秘書官の掌だった。


スパーン!と破裂音を響かせたのは、腰の入った良いビンタだ。

しかも目に直撃だ、充血してるかもしれない…

突然の奇行に走った俺に、制裁を加えたのはレナーテ秘書官、これは自分が悪いので文句は言えない。



「ヘルマン殿、正気はお戻りに?」

先程まで、丁寧で優しい美人さんだった、レナーテ秘書官はもうココには居ない、

代わりに居るのは、ゴミを見るような目をした氷の女王、レナーテ秘書官だ。

口調も先程までの事務っぽさが無い、その鋭い目つきに全身が震え上がる。

「えぇ、取り乱しました、申し訳ない……」

ここは素直に謝るしか無い

「エレナ補佐官も済まなかった」

謝りながらエレナ補佐官に顔を向け、よくよく見てみると違和感が有る。

ふるふると震えているのは、俺の奇行のせいだろうから置いといて……


エレナ補佐官は俺の想定より、あまりに小さい。









それもそのはずで、エレナ補佐官には、両足の太ももより先と左腕が無いのだった。

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