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勇者不在戦記  作者: ウィッスル
ヘルマンside
2/4

終わりの始まり

コンコンと金縁の分厚い執務室のドアをノックする。

「ヘルマン・テラム・ヴァレンロードです、カール騎士団長より招喚命令を受け、参りました」

「入りたまえ」

緊張を抑え執務室に入ると逞しい団長の背中が見えた。

カール・シエル・パリエス第二騎士団長、俺の所属するリートゥス王国第二騎士団のトップである。

九大貴族パリエス家の現当主の弟であり、血統も実力も最高峰という傑物だ、田舎領主のヴァレンロード家とは、まさに天と地ほどの差がある。

どうしても萎縮してしまうので、呼び出しを食らうような粗相はしないように気を付けていたのに……

この執務室に招かれるのは三度目だが、今回は理由に見当がつかない。


「急に呼びつけて済まない、そう肩肘張らずにソファに掛けなさい」

笑顔で振り向き着席を促す団長が秘書官にお茶を頼み、ソファに座ると更に笑みを深める。


「なに、そこまで長い話では無い、君にとっても悪い話では無いから安心して欲しい、さあ遠慮せず掛けなさい」

「失礼します」


ソファに身を預け、意を決して口を開く。

「…この度はどういったご用件でしょうか?」

「ふむ、まずは本題に入る前に君に話しておく事が有る、君は魔王アントリューの事は知っているかね?」

「…建国物語に登場する魔王の事でしょうか?」

「あぁ、そうだ」


先程までの笑顔とは打って変わって、真剣な顔で団長が続ける。


「つい最近復活が確認された」

「はぁ…?」


突然この人は何を言ってるのだろう?

建国物語とは、ここリートゥス王国の建国に纏わる童話で、国民なら知らぬ者は無いだろう。






『大昔、魔王が暴れていた時代に、賢者が10人の弟子と50人の騎士を率いて、この地に砦に築き、永き祈りに入る。

賢者と弟子達が祈る間、騎士たちは砦を守り、一人また一人と魔族の牙の前に倒れてゆく。

騎士の人数が10人を割った頃、ついに賢者の祈りが神に届き、神は一人の勇者を遣わした、賢者と勇者は共に戦い、永き戦いの末、見事魔王を打ち倒す。

勇者は神の国へ帰り、賢者は弟子達の待つ砦に帰る。

魔王を倒し、生還した賢者を出迎える弟子達は泣いて喜んだ、ついに訪れた平和に、祝杯を挙げる弟子達を前に、賢者はいつかまた魔王が現れた時の為に、この砦を残す事を決める。

賢者は弟子の中から一人選び、その者にリートゥスという新たな名前と王冠を与え、この地を守るように命じた、弟子達は賢者の言い付けを守り、ここにリートゥス王国を開いた。』






物語の大筋はこんな感じだ。


この賢者と勇者の物語は道中の冒険譚も多数存在し、この国の男の子は憧れ、木の枝を振り回し勇者ごっこに勤しむものだ。

そしてこの物語は王家の正当性を広く根付かせる為の、作り話だと考えられている。


「その顔は建国物語を作り話だと思っているな?…確かに10人の弟子や50人の騎士に関しての真偽は判らない、付随する冒険譚も後の世に作られた話が大半であろう」

団長は真っ直ぐにこちらの目を見ている

「だが、賢者と勇者そして魔王アントリューは大昔に実在していた、これは変えようのない真実だよ、ヘルマン君」


大真面目に語るカール団長には失礼だが、一切信じられない

子供の頃聞かされてきた童話が、実は本当に有ったことなんだと言われても、『そんなバカな』という嘲笑の気持ちしか湧いてこない

俺はなんと返事をすれば良いかと困り、固まってしまった



「信じられないのも仕方がないな、だが話を進めるためにも、まずは割り切って話を聞いてもらいたい」

「は……はい」

「魔王が復活した、であれば当然、勇者が必要だ」

「はぁ……当然、ですか?」

「うむ、何しろ魔王は勇者でなくては倒せないからな」

「倒せない、ですか?」

「そうだ、他の者が殺したところで後日復活する事が判っている」


なんともお伽噺のような事を、団長は相変わらず真面目に語っている



団長の言葉にオウム返ししか出来ないでいると、秘書官がお茶を持って戻ってくる、テーブルに置かれたお茶を手に取ると、懐かしい香りが鼻を抜ける。




…これ、実家の特産品だ、なぜこんな所で?



「ふふ……驚いたかな?ヴァレンロード領の茶葉は私好みでね、私の権限で騎士団の備品として採用させて貰ったのだよ」

「あ、ありがとうございます!」

これは父上も母上も大いに喜んでるだろうな、騎士団の消費量も馬鹿にできないが、騎士団御用達のネームバリュが凄まじい効果を生むのは明白だ。


さて、とお茶を置き団長が口を開く

「話を戻そうか、童話の中で勇者は、どの様に現れるかね?」

「それは…賢者の祈りを神が聞き届け、神の国より降臨される、ですね」

「その通りだ、だが現実は少し違う」

少し勿体ぶった態度の団長が続ける

「物語に登場する砦には、一つの魔法陣が隠されている、その魔法陣を起動させれば晴れて勇者が召喚される仕組みだ」

「はぁ……」

「君には勇者召喚までの間、防衛の最前線に立って貰うつもりだ」

「……今回の呼び出しの本題は、その事でしょうか」

「あぁ、そうだ」



これはまずい…




「君は将来、王国騎士団を辞め、故郷の領軍の指揮官に進む予定だったな?」

「えぇ…はい、二年後に兄が家督を継ぎますので、その際に呼び戻される予定です」

「所謂、出世街道の第三ルートと言う訳だな」



これは騎士が出世する代表的な道が4つ有り、団内では誰其れが何ルートを走っている等と、噂話に使われる隠語のような物で。

簡単に言うと、第一は大貴族の血筋、第二は士官学校のエリート、第四は実戦の武勲。

そして俺が走る第三ルートは、領地持ち貴族の子弟が実家の領軍で指揮官になる道だ、見方によっては第一ルートの変則型だ



「君のような優秀な騎士を手放すのは忍びないのだが」

「き、恐縮です」

ふむ、と団長は顎髭を撫でながら続ける


「ヘルマン君、二年後に辞めるなどと言わず、騎士団内での出世をしてみないか?」

「いえ、自分の一存では決められません、父上が決めた事ですから」

ここはキッパリ断るべきだろう、父上が呼び戻せば貴族法により従うしかないのだ、何より、最前線なんて行きたくない、実家に帰ってのんびりと生活したい!



団長は、お茶に再度手を伸ばし

「そうか、それなら永い付き合いに成りそうだな?」

と、満面の笑みを向けてくる


「はい?」

えぇと……

…………あぁ、なんて事だ




父上は、お茶の契約で買収済のようだ





「ヘルマン君も、第四ルートを走ると良い!」

わははっと声を出して笑う団長に確認しなくてはならない事がある

「あっ、あの!勇者召喚に掛かる期間は如何ほどでしょうか?」



「ん?…宮廷魔道士の計算だと十四年だ」

「じゅ……」


十四年?……はぁあん?



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