プロローグ:これから見る夢の為に
園田家の子供部屋は相部屋だ。
最近生意気になってきた妹と使うには手狭だが、二段ベッドと本棚、後はラジカセやゲーム専用と化した古いテレビが所狭しと 並んだ空間になんとも言えない安らぎを感じる。
この好きな物だけを敷き詰めた部屋のベッドの二段目で、静かな興奮と共に就寝の準備を進めていくと不意に足元から妹の声が掛かる。
「お兄ちゃん、明日どこか行く予定ある?」
「コレと言って無いなぁ」
「じゃあさ、せっかくだし駅前の喫茶店に行かない?」
何が『せっかく』なのかと言えば、明日は僕の誕生日、晴れて14歳に成るのだ。
僕がYESと言えば、妹は母さんに飲食代をせびりに行く気だな。
最近になって『流行の〇〇』や、『オシャレな〇〇』に興味津々の妹は、兄の誕生日をダシに豪華なパフェでも食べたいのだろう。
打算的なお誘いに答えあぐねていると、妹が下から顔を覗かせて。
「嫌、なの?」
なんて悲しそうな顔をするものだから……
僕にお断りの言葉は無かった。
僕の快諾の言葉を聞いた瞬間に、意地の悪い笑顔を見せなければ良い妹なんだけどなぁ。
天性の小悪魔だよ、あれは。
パタパタと小遣いを貰いに向かう足音を聞きながら、明日への期待感に緩む口元を抑える。
誕生日、それは僕が主役の一日だ、きっと良い一日になる
そんな希望にソワソワしていると、悪い顔をしてお金を握りしめた小悪魔が戻って来た。
「瑠璃、考えが顔に出てるぞ」
「うん?明日が楽しみだって?」
「はぁ…… そう言う事にしておこうか」
「?」
なんてやり取りをしていると、ふいに壁越しから母さんの声が響いた
「大成ー 瑠璃ー そろそろ寝なさーい」
あぁ、もうこんな時間か
「ほら、今日はもう寝よう、明日はいっぱい遊ぶんだろ?」
「うん!」
ごそごそと下から布団を掛ける音が聞こえる
「じゃあ電気消すぞー」
「うん、おやすみー」
「おやすみ」
カチッと照明の電源を切ると部屋が真っ暗になる
早く明日になりますように