異世界にいきます(ユウリからパパとママへ/3話時点)
本編3話まで読んでいないと、少しネタバレになりますのでご注意ください。
ヤヨイが、突然消えてから約2か月が経った。
私は、明日、ヤヨイを追って異世界に行く。
…なんてね、行けるという確証はないのだけれど。
でも、ヤヨイが私に「待っている」と言ったあの夢は、私の脳が作り出したものではなく、異世界にいるヤヨイを映し出したものだったんだと私は考えている。
だからかな。行けないというビジョンは私の中にはない。
今日は、パパとママと一緒に一日を過ごす。
パパとママは、もともと私達の結婚式に合わせて長めの休暇を作ってくれていたのだけれど、二人ともとっても忙しい俳優なのに、更にスケジュールを調整してずっと日本にいてくれている。
心配かけちゃったな。
結婚式の日、ヤヨイが突然消えた後、私はガクガクと震えて真っ青になってしまったため、別室に寝かされ(全然覚えていないんだけれどね)、パパとママが色々な対応をしてくれたそうだ。
途中何回か様子を見に行った時には私はとりあえず、弱々しくはあるものの反応はしていたそうなのだけど、その後、いつの間にかいなくなっていて、大騒ぎになったらしい。
近くを探しても見つからず、どうやらヤヨイが乗ってきたスクーターがなくなっているようだとわかり、慌ててパパとママは私達の新居に向かったそうだ。
(なんと、警察の車に乗せられて向かったのだとか。)
着いたら、庭にスクーターがあって、とりあえずホッとしたけれど、電気も点いていないし、ピンポンを押しても何の反応もない。
私に限ってバカな事はしないだろうけれど、それでも、ヤヨイを失って私が生きていけるのだろうかと、心配は募るばかりだったそうだ。
オートロックで鍵が閉まっていたため、強硬手段で窓を割って入ると、中には、何にも反応せず、髪がごっそりと真っ白に変わっていて、顔面蒼白となってボーっと座る私がいた。
ベッドに寝かせようとしても、私の体は座った体勢のまま硬くなっていて出来なかったそうだ。
一瞬、死んでしまっているのかと思ったそうだ。
ママはそんな私を見てショックで気を失ってしまったらしい。
私が目を覚ました時には、顔色の悪い2人の心配顔があって、私が正気に戻っている事を確かめると、2人とも号泣して、私を抱きしめてくれた。
夢で見たヤヨイの事を話し、ヤヨイがどこかで私を呼んでいるから、探しに行きたいと伝えると、二人は賛成してくれた。
「ヤヨイがもし戻ってこられない状況なら、ユウリちゃんを思って呼んでいるはずだ。こんなに可愛い花嫁さんを一人残して連絡も取れないなんて、きっと気が気じゃないだろうね。」
「ママもね、ユウリは、ヤヨイ君と離れるべきじゃないと思うわ。だから、ヤヨイ君が身動き取れないなら、ユウリから見つけてあげなくちゃね。」
パパもママも、私が夢を現実とごっちゃにしているんじゃないかとか、そんなことはまったく言わずに肯定してくれた。
「おや、そんなの当たり前じゃないか。ユウリちゃんの目をみれば、しっかりと前を向いていることがわかるからね。
ヤヨイ会いたさに妄想に縋っているわけじゃないのは、その目を見ればわかるさ。」
「二人の会いたいって気持ちや互いを心配する気持ちの強さから、夢の中で、二人の魂の回線が繋がったんだと思うの。だって、なんたって二人は赤い糸で結ばれているんですもの!」
パパとママが当たり前のように、私の話しを受け入れてくれて、ヤヨイがどこかで無事にいて、私を待っているって考えても良いんだと肯定してもらえた事に安心して、ヤヨイが消えてからはじめて、私はちゃんと泣く事ができた。
あそこで二人に否定されていたら、きっと私は動く指針を無くしてしまって、心を無くしていただろう。
パパとママの子供でよかったなって改めて思う。
…異世界から帰ってこられるのかはわからないから、今生の別になるかもしれない。
「おかえり〜。」
「ただいま〜。」
実家に帰ってきた。
パパママはアメリカを拠点としているから、ニか月前まで、基本的には私が一人で暮らしていた家だ。
とは言っても、仕事の合間に時間を作っては二人とも日本に来てくれていたから、家族の思い出もそれなりに詰まっている家でもある。
「ユウリちゃん、今日は庭でピクニックだよ。テントも張ったから、のんびりしようね。」
庭に出てみると、グランピングばりに、ソファーやテーブルなどがテントの中に設置されていた。
「これ、パパが用意したの!?」
「なかなか素敵に出来ただろう?」
「びっくりした!!ありがとう!!」
私が驚いてお礼を伝えると、パパはご満悦で、ハグをする体勢で待っっているため、私は遠慮せずパパに抱きついた。
「あら、ずるい。中のライトとかラグとかクッションはママがコーディネートしたのよ。」
「さすがママ〜!さすがのオシャレ空間だよ〜!」
ママにも抱きついていく。
改めて、私は二人のこの手に守られてきたんだなあと実感していた。
日が暮れるまで一日中テントで過ごし、バーベキューをしたりお茶をしながら、たくさんたくさん話しもして、笑って過ごした。
夕飯は、私が作らせてもらうとあらかじめ宣言していた。
私が8歳の時に、パパママの結婚記念日に、プレゼントとして初めて料理にチャレンジしたメニューを、改めて作ってみようと思っている。
お手伝いのみどりさんに習ってたくさん特訓して、本番では絶対に手を出さないでねと言って作り上げた、私にとっても思い出深いメニューだ。
あの頃より上手に作れるようになった料理を食べてもらって、料理を通して、私も成長したんだよ、だから安心してねって伝えたい。
心を込めて作った。
「出来たよ〜。」
テーブルセッティングが終わるまでは二人にはそのままテントにいてもらって、準備が整ってから呼びに行った。
「あ、これ…」
「わあ!ユウリちゃんが初めて作ってくれたメニューと一緒だね!」
料理を見てすぐにピンときて思い出してくれた事に、嬉しくなる。
オムライスにシチューにサラダ。
子供らしいチョイスと、味付けが壊滅的に失敗する事はないだろうというみどりさん監修によるメニューだ。
今回はスパイスなんかも使って、ちょっと大人バージョンにアレンジしてみた。
「大好き♡」「ありがとう♡」ケチャップでオムライスに書いた文字も、再現した。
あの頃から比べたら語彙も増えたけど、伝えたい気持ちの核となる部分はあまり変わらないもんだね。
「へへ。覚えていてくれて嬉しいな。昔よりは上手に作れるようになったと思うの。食べて、食べて!」
美味しい美味しいと食べてくれる二人を見て満足して、私も食べはじめた。
思えば、ほぼ一人暮らしという環境おかげで、身の回りのことは一通り出来るようになったなって思う。
小さい頃なんかは周りの子と比べて、寂しいなと感じることもあっだけれど、それでも、私は親から愛されていないんじゃないかとか、そんな考えが過ぎる隙もないくらい、いつだってパパママは愛情を示してくれていた。
それなのに……
「うっ、…うっ…」
涙が溢れてきて、抑えきれず嗚咽が漏れる。
「パパママ、親不孝な娘でごめんなさい…」
ボロボロと涙が溢れてくる。
「ユウリちゃん、君は僕らの自慢の娘だよ。何が親不孝だっていうんだい?」
パパが優しく尋ねてくる。
ママも優しく微笑んでいる。
「だって、もう…もう二度と、戻って来れないかもしれないのに、それでも、ヤヨイを追っていく事を選んでしまったんだもの。」
話すたびに、ボロボロと涙が止まらなくなる。
「そんな事を負い目に感じる必要はないんだよ、ユウリちゃん。可愛い、可愛い。」
パパの大きな手が優しく頭を撫でてくれる。
「そりゃあ、会えなくなるのは寂しいけれど、ユウリちゃんが幸せでいてくれる事が何より大切なんだよ。僕らの側にいてくれたって、ユウリちゃんが心を殺してそんな選択をしたんじゃ僕らは悲しくなってしまう。ユウリちゃんが幸せでいてくれる事が、僕らにとっては一番の親孝行なんだから。」
「そうよ、ユウリ。ユウリは、何でもかんでも背負ってしまうから、どうせ私たちの老後の心配でもしているんでしょう。ばかね。ママにはパパがいて、パパにはママがいるもの。何の心配しなくていいのよ。」
うわーん。
パパとママの言葉を聞いたら、いよいよ涙が止まらなくなって、声を出して大泣きしてしまった。
「ほらほら、僕らの天使は、相変わらず泣き虫さんだね。
離れていても、ユウリちゃんは幸せに暮らしているんだって、僕らが確信出来るように、ほら、可愛い笑顔を見せて。」
パパママにギュウされて、しばらくエグエグと泣き続け、ようやく少しおさまると、ママが涙を拭いてくれた。
私は、涙を堪えて、パパとママに向き直った。
これだけは、ちゃんと笑顔で伝えるんだ。
「パパママ、今までたくさんの愛情を注いで育ててくれてありがとう。二人の娘に生まれて、私は、幸せでした。離れていてもずっと二人の娘です。
二人とも、どうか、お元気で。」
次の日、パパとママがマスコミを引きつけてくれる間に、私は教会に向かい、そして、異世界へと向かう。
パパとママは、たまに、ドレスやヒラヒラの制服を着て、金や銀や緑などカラフルな髪色の美男子美少女に囲まれて笑っているユウリの夢を見ることがあるそうです。
パパが笑ってママに話したら、不思議なことに、ママも同じような夢を見たそうで、今では、この夢の話しをするのが二人にとって大切な時間になっているそうですよ^^