6、説明が必要そうだぞ。
「……はぁ!?」
アルテルは思わず、隣にいるユウトという男を二度見した。
彼の腕の有り余った筋肉が、爆弾魔を見つめている。
「お前まさか、俺が『筋肉』を使って……つまり『摩擦』で爆発を起こしたと思っているのか?」
「無論だ」
ユウトは『他にあるのか?』とでも言いたげに首をかしげる。芸術家は慌てて否定した。
「いやいや、違う。芸術的『魔法』で、爆発起こしたんだ」
「でも俺は摩擦で炎を起こしたぞ?」
その時アルテルは、ユウトの指先に炭が付着していることに気が付いた。
どうやら目の前の男は、文字通り指パッチンで炎を起こしたらしい。
「摩擦で炎を起こせるのならば、爆発も起こせて然るべきではないか?」
「本気で言ってるのか?」
……目の前にいるのは、芸術的阿呆だ。
何一つこの世界の道理を知らないし、学ぶつもりが無いと見える。
芸術家は、疲弊しきった声を出した。
……こりゃ、まだまだ説明が必要そうだぞ。
アルテルはため息をつき、ユウトの顔を自分の方に向かせた。
「この世界についてざっくり説明するから、耳の穴掻っ穿ってよく聞け」
アルテルは黙りこくるユウトに向かって、雑然と説明を始めた。
「まず、この世界はお前の知ってる近代文明の世界とは違う。剣と魔法のファンタジー世界だ」
「なるほど」
道理でこうも静かなのだと、ユウトは勝手に納得した。普段アニメ・小説に興じない彼であったが、『ファンタジー』という言葉の意味であれば理解している。
アルテルは続けた。
「んで、今この世界はそこの森(さっき狼、いや犬ころがやって来た場所だ)からやってくる魔物(そこに転がってる奴らだな)の襲撃に脅かされてるんだ」
「ここまでアンダスタンドしたか?」と、アルテルは尋ねた。
ユウトは曖昧に頷き、不思議そうに口にする。
「何故あんなのに苦戦するのだ?」
「この世界の住民全員がテメェみたいなマッチョって訳じゃねぇんだよ」
魔物を『あんなの』呼ばわりする人間を、アルテルは初めて見た。
もし初見ならため息が出ただろうが、今はもう苦笑しか出来ない。
「そこでこのままじゃ危ないって思ったこの世界の『神』が、お前の知っている世界から、魔物に迎え撃つ存在──つまるところ『勇者』──を転移させてんだ。で、お前もその芸術的『勇者』の一人ってワケ」
「俺の夢はボディビルダーなんだが?」
アルテルは無視した。
「つ・ま・り、お前には魔物襲来に備える『義務』があるんだ。理解したか?」
「多分」
十中八九理解してないだろうけどな、とアルテルは心中で呟いた。
いずれにしろ、これで理解してもらえないと困る。
彼はんーと伸びをして、言った。
「それじゃ、行くか」
「行くって、どこに?」
ユウトが尋ねると、アルテルは決まってんだろと答えた。
彼に背を向けて、歩き出してからその答えを表明する。
「勇者の組合に、挨拶しに行くんだよ」
《キャラ紹介》
・アルテル
右が青、左が赤のオッドアイ芸術家。座右の銘が『芸術は爆発』であり、文字通り爆発を巧みに操って魔物と戦う。ユウトと同じく勇者であるが、勇者を数年続けてきている為、ユウトの先輩にあたる存在である。でも粗野な性格なので、威厳には欠けている。
芸術家という事もあってか、普段から絵具などの道具を持ち歩いている。服がひどく汚れているのはこれが原因。