5、つまり爆発の事だ。
答えてアルテルは、右手で顔についた炭を拭った。
その姿を見て、ユウトは考える。
爆発とはこうも簡単に命を奪えるものなのか、と。
彼は一抹の、憧れに近いような感情を覚えた。
「お前は?」
「俺は齋藤 優斗……」
そこまで言い終えた時彼は、自分も二つ名を名乗るべきかと考えしばし黙った。
しかしながら、自分に二つ名と言えるようなものは無い。あだ名も付けられたことが無い……いや、一度だけあったか。
数秒後、彼はポンと手を叩くとともに結論を出した。
「……『マッチョ』と呼ばれたことがあるな」
「そのまんますぎないか?」
「……?」
ユウトはアルテルが何を言っているのか、よくわからなかった。
そのままだから、何か悪い事があるというのだろうか?(ちなみにユウトは、このあだ名を気に入っている)
「つーかテメェ……相当強いな? 魔族狼狗──そこらの狼共の事だ──を芸術的にシバけてんなら」
「いや、ただの犬だろう?」
ユウトは否定した。
男は魔物の事を犬と簡単に言ってのけるユウトに、しばし驚きの表情を見せる。
しかし彼には、まだ気がかりな事があった。
「なぁお前、魔法使えねえのか?」
「何の話だ」
アルテルは首を振り、ため息をつく。
こっちの世界に来て間もない人物、また孤独に生きてきた一匹狼は『魔法』の言葉を知らない場合がある。
彼は説明した。
「魔法ってのは芸術的エクスタシー、つまり爆発の事だ」
語弊しか生まれない説明である。
そもそもエクスタシー(恍惚)の意味を知らないユウトは、首をかしげて黙りこくった。どういう意味かと詮索し、数秒で理解を放棄する。
しかしながら、ユウトはそんなアルテルから説明を受けて一つだけ思ったことがあった。
──俺も、爆発を使えるようになりたい。
彼は既に、森から犬ころ達の第二陣の気配(おおよそ三匹程度、陣と言うには少ないかもしれない)を察知していた。
試すなら、今しかないだろう。
彼の辞書に躊躇の文字は無い。
優斗は早速、狼たちの第二陣が来る方向へと走り出した。
……口元に笑みを刻んで接近する彼の姿は、狼達の瞳にさぞ恐ろしく映ったことだろう。
「あっ、おい待てユウト! そっちにはまだ魔族狼狗が……」
しかし、ユウトは彼の静止を聞かない。
ユウトは走りつつ、右中指と右親指をこすり合わせる『指パッチン』のポーズをとった。無防備な彼に、狼が襲い掛かる。
「ガァァァァァウゥゥゥゥゥッッッ!」
「喰らえ、犬ころ」
彼は大きく開かれた狼の口に何の躊躇もなく右手を突っ込み、狼が口を閉じる前に『パチン』と指を鳴らした。
ユウトはその瞬間、自分の指先に大いなる熱がこもるのを感じる。
……これなら、爆発を起こせるかもしれない。
彼の胸は期待に膨らむ。
直後、『変化』が起きた。
狼がペッとユウトの腕を吐き出したかと思うと、いきなり悶え苦しみ始めたのである。
ものの数秒で狼は黒い煙を吐き出し、その場に倒れ込んだ。
アルテルは思わず我が目を疑った。同法の不可解な死に恐れおののいた他の狼達が、早くも撤退を始めている。いや、大切なのはそんな事じゃなくて。
今、ユウトは間違いなく魔方を使った。だが、俺の目に狂いが無ければ目の前のマッチョは魔法の素質が無いはず。なのになんで……
何が起きたのか理解できず首をかしげるアルテルをよそに、爆発を起こしたかったユウトは残念そうにため息をついた。
腕に付着した唾液を拭い、爆弾魔を見て言う。
「お前、外見に反して相当な筋肉を持っているんだな。俺は炎を起こせる程度の筋肉しか持っていない」
……は?