4、座右の銘は……
ユウトの頭上から、少し低いトーンの声が聞こえた。
彼が頭をもたげる前に、声の主は彼のすぐ横に降り立つ。
「……ってあぁ、もう既に三体倒してるのか。なら上出来だ」
「誰だ、お前は……!?」
ユウトは困惑して、隣に降り立った男を見た。
180センチ程度の身長と、真っ赤に染められた髪。
右が青、左が赤のオッドアイが印象的な、口元に笑みを刻んだ男だった。
……変な格好だな。
それが、ユウトの抱いた第一印象である。
ユウトは普段、他人の格好にとやかく言う事は無いのだが、今回は例外だった。それだけ男が珍妙だったのである。
「俺の名はアルテル、座右の銘は……」
彼は大きく腕を広げ、ニッと白い歯を見せて笑った。
「『芸術は爆発だ』だァッッ!」
言下に、とんでもない風圧がユウトを……そして、自身をアルテルを名乗った男を取り囲むすべての存在に襲い掛かった。
砂漠の台風に勝るとも劣らぬ勢いで砂埃が舞い、すさまじい熱風が吹き付ける。
ユウトは吹き飛ばされないよう重心を下に保ち、無心で耐えた。
まともに目を開くことも敵わぬまま、彼は一人飄々と笑っている男を垣間見る。
「美しく散れ!」
爆風による砂埃の大半が地面に帰化したころ、ユウトはゆっくりとその双眸を開いた。
その直後、しばし驚いて口を『あ』の形にして静止する。
そこにはもう、あのバケモノ達(ユウトの言葉を借りれば『犬ころ』達)の姿は無かった。
全て無残に肉塊、四散、あるいは灰になっている。
それら全てが、ユウトの目の前に立っている男の手によるものだという事は疑う余地もない。
ユウトは自身の頬を叩いて目を覚まそうとした。
が、この強烈な血のにおい、わざわざ夢か確かめるまでも無いだろう。
このような光景を見たのはいつ振りか、山奥で熊三匹を同時に殺した時以来だろうか──
と、ユウトは顎に手を当てて考える。
しかしそれも、ここまで沢山の血は出なかったはずだ。となると……
「なんなんだ、お前は」
ユウトは歯を見せて笑っている赤髪の男こと、アルテルに尋ねた。
彼は青い右目を瞑って答える。
「巷じゃ『爆弾魔』って呼ばれてる。芸術的なあだ名だろう?」