3、筋トレを始めるんだ。
ユウトは「む」と驚きの声を上げて、遠慮がちな声の主の方を振り返った。
それから、彼はもう一度驚くこととなる。
そこにいたのは、一人の青年だった。
恐らくこの村の住人なのだろう。
金髪に尖った耳、少し低い身長。
美しい碧眼などは、どう見ても日本人のそれでは無かった。
しかし、彼が驚いたのはそんな事(?)では無かった。
「お前、筋肉がほぼ無いではないか! そんな体裁じゃ、あの犬ころにすら勝てないぞ!?」
彼が驚いたのは、話しかけてきた青年の筋肉の無さについてである。
ユウトは遠慮がちな表情のまま硬直する青年の肩を勢いよく掴み、声を潜めて言った。
「今ならまだ間に合う、筋トレを始めるんだ」
「えっと、あのその……?」
困惑を露わにする青年。
しかし首をブンブンと振ると一転、キリッとした顔つきに戻った。
「貴方は一体、何者ですか……? 『転生者』なのは間違いないでしょうけれど、その馬鹿げた力は……?」
「……何を言っている?」
困惑するユウト。
そしてその時、ユウトはまた森の方から『気』を感じ取った。
「はぁ……またさっきの犬ころがくるようだな。それも今度は大勢」
早くもバケモノの襲来に慣れてしまった彼は、最初ほどの恐怖心を抱かない。
悠長に欠伸を噛み殺して、首をゴキゴキ鳴らした。
彼の独り言を聞いていた青年の顔色が、ユウトのそれとは対照的に真っ青に変化した。
ユウトは言う。
「……青年、お前がいては危険だ。下がっていろ」
「はっ、はい!」
青年は顔面蒼白で、言われるがままに下がった。
彼が下がったのとほぼ同時に、バケモノの吠える声が聞こえてくる。
「ガゥッッ、ガゥッ!」
「ガァァァァゥ!」
「ゲフ」
「ガゥゥゥ……」
バケモノたちの声が、ユウトの耳に入ってきた。
彼は即座に戦闘態勢へと移行し、大きく息を吸って全身に酸素を送り出す。
それを最後に、ユウトは動いた。
「破!」
一瞬風切り音がしたかと思うと、ユウトは消えていた。
言い直そう、客観的に消えたように『見えた』。
しかし、実際は消えてなどいない。
彼はすさまじい勢いで、バケモノたちに先制攻撃を仕掛けに行ったのである。
走ってくるバケモノに一陣の風のように突進し、拳を叩きつけた。
一発、二発、三発。
彼は三連続で拳を振りかざし、彼が一撃振るうごとに一匹の狼が倒れ込んだ。
ここまでやって、経過時間はおよそ数秒。
しかし、いくら『犬ころ』とはいえ、バケモノたちも無力ではない。
その数秒のうちに、バケモノたちはユウトを包囲していた。
いつの間にか自分の四方に出来上がっていた『肉壁』に、彼は一瞬たじろいだ。
「これは……厄介だな」
法外な筋肉を以てしても、ユウトとて人間であることに変わりはない。
こういった数の不利、包囲網の突破は決して容易ではないのである。
狼ニ十匹に対してやったことがあるので決してできない訳ではないが、それでも難しい事に変わりはない。
ジリジリと距離を詰めてくる狼達。
ユウトは冷静に周囲を見回し、突破の隙を探った。
冷静沈着なその瞳孔は、子羊を襲う『狼』さながらである。
「オイオイ、芸術的に苦戦してるじゃねぇか……」
そんな時、ユウトの頭上から声が聞こえた。