天使の危機
(キン)
(ズシュ)
最初の音は、アイリスに向かって投げてくる短剣を吸魂剣で薙ぎ払った音で、其れが地面を切り裂いた音。
(グシ)
そして、追加の音が犯人を峰打ちした音。
現在の場所は、パトロン=ダラクの家を直ぐ出て、少し歩いた人気のない路地。
そんなとこ通るなよと思った方もいるかもしれないが、アイリスが望んだことだから仕方がない。
犯人は気絶させているんで、動いてないが、気がついたら絶対抵抗するだろうと思い、憂鬱になる。面倒くさい。
そうそう、襲われたアイリスは、見た目上全く動じず、微笑すら浮かべている。
驚いていたのは、襲われた瞬間のみ。その訳を聞いてみた。
「襲撃されるの何回もあるの?」
(ハイ、最初は怖がっていましたが、最近ではまた来たな程度にしか思わなくなって。おかしいですかね)
「いや、人間は慣れればそうなる、普通だろ」
(ふ、ふ、ありがとうございます)
捕まえた犯人は、ライトにパトロンの屋敷まで持って行って貰った。決して面倒だった訳ではない。
暫く経つと、ライトが帰って来た。かなりの早さである。俺は労いの言葉をかけ、進行する。
現在向かっているのは、ダラク家でない貴族の家である。
確か、家の名前はピッグ家だったかな。その家の前に到着。門番に待たされることなく、入場。
パトロン家より小さな屋敷だが、俺の屋敷よりも大きく、俺の家の三〜五倍程度の規模だ。
アイリス曰く、ダラク家の部下、家臣的な存在で、三ヶ月に一回程度訪問、そして、経営事情、や政策方針を相談、又一定金額の回収をしているらしい。
にしても、アイリスのような少女に、経営事情や政策方針を相談するとは。
どれだけ頭が良いのだろうか。俺のライトよりは悪いと思うが。
ピッグ家の当主の名前は、ヘビー=ピッグ。名前の通り、デブの象徴的な存在だ。男である。
そんな相手に対し、嫌な顔せず真剣に意見を交流している。
俺は気になった。彼女は、今どういう気持ちなのか。ライトに視線を向けると、首を横に振る。
これは、分かるけど言わないほうがいいサインである。
世の中には知らなくていいことがあると、俺は中学の時学んだため、追求しない。
逆に中学の記憶を追求した。
ある夏の日。自身が恋する女子を見かけたため、声をかけようか迷っていると、その彼女の横には男がいた。俺は残念がった。次の日、又彼女を見かけたため、話しかけようとするて、昨日とは別の男が。この時初めて、世の中には知らなくていいことがあると悟った。
何か俺が悲しい奴みたいになるから、ネガティブな思考は止める。
ポジティブなことと言えば、今日の朝食も美味しかった。
パンに野菜に飲み物といった基本に忠実なのに、それぞれに個性があり、とても味わい深かった。
この依頼のメリットは、一位にアイリス、ニ位に食事である。
これからは俺の自宅内の食事に金を使おうと心に強く決めた。
一時間程度で話し合いは終わり、一度アイリスの屋敷に帰る。
理由として、昼飯がそこにあるからだ。
少し、いやかなりルンルン気分で帰っている時、アイリスが話しかけてくる。
(ピッグ家に何か不思議な点は有りましたか?)
「多分あそこは白なんじゃないかな」
(そうですか。それは良かったです。実はあの家は、結構前から私の家に支えてくれてる家なので)
「へー」
ぶっちゃけ興味がないが、無反応は流石に人として不味いので相槌を打つ。
するとアイリスは頬を膨らませ、あからさまに不満ですよアピールをしてくる。
それは俺のご褒美ですよとは言わずに、謝る。「はっは、悪かったって。何かして欲しい事があったら許容範囲内でするから」
(じゃ、頭撫でて貰ってもいいですか。最近、父がしてくれないので)
直ぐさま、なでなでを始める。
(ンん、気持ちい)
少女が言ってはいけない事を言い、少し動揺してしまった。
にしても、最近は女子の頭を撫でるのが流行っているのだろうか?シャルムにルカ、そしてアイリスにした。凄い偶然だ。
そんな思考をしていると、アイリスが真剣にやってくださいと言ってくる。女子恐るべし。
昼飯も美味しかった。説明は以後中略し、これから行くアクセサリー店、小物店選びに意識を向ける。
私的な買い物である。貴族様が行くのは、どれもきらびやかで少し眩しい。
そして、何れもお高い。指輪が一つ金貨十枚とか滅茶苦茶驚いた。アイリスは真剣に見て、悩んでいる。
アイリスは、金髪に黄色い目。そんな特徴を色あせる事なく、表現出来るアクセサリーは滅多にないのだろう。
乙女の恋事情ならぬ、コーディネート事情である。なかなかいい事を言ったと自己満足していると、アイリスから質問が飛んで来る。
(コッチの赤色のリボンと、青色のリボどちらが良いと思います?)
おれは悩んだ。それはもう、生きるか、死ぬかぐらい悩んだ。
そして出た答えが、アイリスに合わせる。それだけだ。ライトからのサインを待つ。すると手が左に動かされている。そうか青にしたいのか。
「青が似合うと思うよ」
(やっぱりそうですか。ふ、ふ、私も少し青が良いかなと思っていたんです)
これまで以上に嬉しそうな顔を見て、ライトに頼って良かったなぁと心から思った。
小物は、今回欲しい物がなかったらしく買わなかった。
しかし、あるポーチを買うか、買わないか迷っている様子だったが、金銭面が理由かは分からないが買わなかった。まぁ金貨三十枚もの値段がついていたら流石に買おうとしないよね。
ちなみにリボンは金額一枚。比べるとリボンが安いように思えるが、金貨一枚、日本円で百万円。金銭感覚狂ってる?と思った。
何であのポーチを買ってあげないのかって?勿論、ライトに命令し、裏でコッソリ買わせたさ。
護衛依頼の終わりにドッキリで渡そうとしている。その為、しっかり護衛しないと。
まだ一回しか襲撃されてないのに、何故危機だと書かれていると思った方。天使に何かあったら責任取れるんですか、ぇえ。まぁ半分冗談ですが。
次話は、遂に本格的に襲撃される?どう対処し、犯人の思惑は?是非楽しみに。
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