ベノム
知ってる?
僕が今日生きるためだけに死んでくれた人がいるんだって。
僕の食べたがるたくさんのものを代わりに食べて、
これは毒、これは食べられる、これは栄養になるって教えてくれた人たち。
ずうっと昔の、名前も顔もしらないひとなんだけど、
だけど僕のために死んでくれたんだって。
僕が息をして、おなかを満たして、今日もばかみたいな詩を書くためだけに
死んでくれたたくさんの人たち。
ごめんね、そしてそれは愛ですか?
一万年後の僕らへ届けてくれた愛ですか?
数人の命と引き換えに72億人を生かすきみたちは、
ほんとうはきっと生きたかったに違いないのに。
愛じゃなくて恨みばかりが、溶けて同化した土の中でつのる。
ごめんね、そして、
僕はそれを愛だとおもいこみます。
苦しくなるほど砂糖を飲み込んで、
甘くてきれいな最期でした。
そう伝えられたあなたの最期を、
今日かわいい夢に見ました。
ぽとりと落ちた錠剤だけで僕は叱られて牢につながれちゃいます。
「赤ちゃんが食べちゃったらどうするの?」
お母さんは言います。
僕は反省して、しゅん、ってなります
確かにそうだ、赤ちゃんが僕の薬を飲んだら大変だ。
だけれどお母さんの言う赤ちゃんはうちにはいません。
君何処に向かってしゃべってるの。
想定論のために僕は叱られました。
嫌だ?
と、さけぶ
それは、
なんでも、
ないのに。
たった一つの、
ありがちな不幸なのに。
僕ベノム食べられないよ。
テトロドトキシンもマイトトキシンもまだまだ食べたくないの。
僕ベノム食べられないよ。
そのために君は死んでくれますか。
毒キノコやら毒のある木の実、魚やらを食べて私の代わりに死んでいった人たちがいるのを思うと、人類の歴史はたくさんの死の上に輝いているんだなとか思います。