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羽化  作者: もつ
3/4

異端審問官②

「支部長。魔女の魔力反応を確認しました。」


モニターを見ながら男が言う。


「魔力量を計測、周囲15kmに審問官がいれば急行させろ。」


眼鏡をかけ、白スーツを着こなした男が指示を出す。


「出現場所予測、出ました!」


「どこだ。」


「神奈川審問学校の真上です。」


「よし、すぐに動ける審問官を…」


「待ってください!」


慌てた様子でモニターを見ていた男が立ち上がりスーツの男へと、その顔を向ける。


「どうした?」


「魔力量の計測が終わりました…。その数値が…あのワルプギスのデータと酷似しています…。」


「なに…?」


「支部長!周囲の監視カメラから上空を写せるものを特定しました。メインモニターにつなげます!」


別の男から声が上がり、メインモニターへと目を移す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


冴が屋上に着いた時には、すでに自分以外は集まっていた。


「あぁ瀬賀さん、来ましたか。」


生活指導担当の高田が話しかけてくる。


周囲を見渡すと教員は高田以外に4名ほどいるようで、他はおそらく残りの生徒とともに避難したか近隣住民への支援に向かったのだろう。


「なぜ、屋上に集合なのですか?」


第一校舎は全部で3つある校舎の中で最も大きく面積も広い。さらにほぼ学校の中心に位置する。


それを考えるとどこに魔女が現れても対応できる利点があるようだが、もし少しでも離れたところに現れた場合ここに集まっていては不利ではなかろうか。


「あなた方には、周囲に散らばり警戒していただいた方が良いことは分かってますがまあまずは上をご覧なさい。」


考えていたことを見透みすかされた気分がして、少々不快だったがその言葉通りに冴は鋭い目を上空に向ける。


ーーーーーー


夕焼けで、炎のように赤やオレンジに染まった空には、まるでひび割れたかのような亀裂きれつがはしっていた。


ーーーーーー


第一校舎のほぼ真上にはいった亀裂をにらみながら、冴は言う。


「大きい…ですね…」


「ええ…あのサイズの亀裂を見たのは私も初めてです。」


審問学校の教員は、ほぼ全員が元異端審問官で構成されており非常時には生徒を守るためにその力を発揮する。


異端審問官にも生徒と同じようにランキングが設定されており、その順位は裁いた魔女の強さや大きさ。また審問官自体の戦闘能力によって毎日のように変動するものである。


順位が動かないのは上位100名ぐらいだろうか。


そもそもどうやって10万人ものデータを毎日集めたりそれを即日ランキングに反映させているのか。


考えるときりがないのでここでうちとめる。


とにかく、教員たちはそのランキングでも5万位以内に入ったことのあるものたちで構成される。


「動いた!」


後方で千世が叫ぶ声がしたので再び上空を注視する。


亀裂が砕け中から長い二本の腕のようなものが伸びている。


それが穴をおし拡げるか、もしくは穴から無理やり這い出ようとするかのような動きを見せるとその全容が現れる。


顔は悲痛を浮かべていた。

その色は暗い灰色で、

腕は細く長いものが腰?から生え、

下半身は大きく肥大化し、また紅く輝く玉のようなものがいくつも着いてるようにも見える。

足は無い。


下半身と比べるとあまりに小さいー人間と比べるともちろん大きいー頭がついているのは人間の女性のような形をしてをり、乳房のようなものも確認できる。


「まるで、ありのようですね。」


冴が冷静に呟く。


「先生、あれは飛べるのでしょうか。」


確認の意味も込めて高田に問う。


「わかりません。あのような形状をした魔女は初めて見ました。」


わかりません、か。


通常、魔女や魔法使いといった存在は空を飛ぶものが多く羽やほうきが無くたってその体を自由に浮かせることができる。


しかし、今亀裂ー今となっては穴だろうかーから出てきようとしているアレが飛ぶ姿が想像できない。


それこそ羽蟻のように羽が生えていればまだ食べそうな気もするが…


いや、考えるだけ無駄だな。私たちの考える魔法と奴らの使う魔法は全くの別物なんだから。


そう冴が考えていると、


「キャァァァァアァァァァァァァァァァ‼︎‼︎」


バカっとその口を開け魔女が叫ぶ。


その声は女の悲鳴のようにも聞こえた。


そして…


「おい!全員離れろ!」


別の男性教員が叫ぶ。


しかし、遅かった。判断も、指示も。


どうやっているかは分からないが、魔女の長く巨大な腕が空をまるでそこに壁があるかのように力を込めるとその巨大でみにくい体を全て穴から出した。


すると急に支えを失ったように、落下を始める。


「嘘!いやだああああ」


「どいて!どいてよ!!」


口々に生徒から悲鳴や怒号が飛ぶ。

無理もない。どう考えたってあんな巨大なものー中型のフェリー程度の大きさーが頭上に落ちればひとたまりもない。


もし運良く頭上に落ちなくたって、ここは校舎の屋上であり下手をすれば建物の倒壊の恐れもある。


そして何よりも、生徒たちを不安に駆り立てた元凶は魔女の下半身。


大きく肥大化し、丸く紅い玉のようなものがいくつもついたものにあった。


魔女の核にそれが酷似していたのだ。


魔女の核とは膨大な魔力を蓄積しておくためのもので魔女が魔法を使うための、エネルギータンクのようなものだ。


異端審問官はその核を壊すことにより、魔女を殺し裁くことができる。


しかし、ワルプギスをはじめ、世界中で報告が上がっている。


魔女の核が爆発し、多数の被害を被ったと。


魔女が最後の足掻あがきで爆発を起こすものと考えられているが、その爆発を起こすかもしれない核のようなものを無数につけたその姿を見て、生徒たちは察知したのだ。


あれはまさか爆弾ではないかと。


これが中学までしか魔法学を習っていない一般市民だと、恐らくここまで取り乱すことはなかったかもしれない。


彼らに知識があったからこそ、この乱れようなのだ。


冷静ーもしくはそう装っているーなのは上位10名ぐらいか。


しかし、遅かった。


巨大なソレの落下速度は人間の走るスピードなどとは比べ物にならない。


大きな灰色の肉塊にくかいが屋上に触れると同時に視界が真っ暗になった。



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