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深夜のコンビニバイト九十日目 まさる再来店

おでんの具では何が好きですか?

私は卵、こんにゃく、もち巾着ですね。

おそ松さんを、見た後に私の小さい頃にやっていたコンビニのチビ太のおでんというのを思い出して食べたくなりましたが、もうチビ太のおでんを見かけませんね。懐かしいなぁ。

深夜のコンビニバイト九十日目。


ゴミ捨てに行く時に、刺すような寒さが肌に沁みる。

秋から徐々に徐々に、冬が迫ってきていたようだ。いつの間にやら12月。

コンビニおでんもやり始めたよ。是非来てね。

冬将軍がやってきて、制服も冬服にチェンジ。

よく考えてみれば、俺、春からこのコンビニにバイトとして入って、春から冬までよく続いてるなぁ...。

しみじみと季節の移り変わりを噛み締めながら、立つレジ。


俺、よく続いたなぁ...本当に。


ピロリロピロリロ。


「いらっしゃいま」


震えながらぺたぺたと来店してきたのは、河童だった。となれば...あの──。


まさる!?!?!?!?


久しぶりすぎる来店のまさる。

生きてたのか!!失礼かごめんまさる。全然顔を見なかったからな。

いや待てよ、別の河童ってこともあるか?前に仲間と一緒に来てたからな。

すぐさま皿を確認すると、安定の「まさる」で安心した。

どうせまたコーラを買いに来たんだろうな。もう冬なのに。

まさるは、緑色の肌をさすさすしながら白い練乳みたいな鼻水を垂らして来店してきた。

何で俺はこんなにテンションが高いんだ。最近何だかんだこうデンジャラスな事ばかり起きてたから、コンビニに河童が来るっていう至極当たり前の光景に安心してしまうんだな。



今日はお仲間いないんだ...。

また一人でコーラ買いに行かされてるのか、可哀想にまさる。鼻水なんて垂らして。こんな寒空の下。相変わらずボロボロのナップザックだ。

お兄さんがいくらでも買ってやるぞ。

相変わらずぺたぺたと店内を歩くまさる。そういや、レジ下に店長が用意してた箱ティッシュがあったな。

まさるにあげよう。あんな姿見ていられない。コーラを持ってきたらあげよう。


まさるは、安定のコーラをぺたぺたと大事そうに抱えて持ってきた。


コーラをレジ台に置くのと交換するように、ティッシュを差し出す。


「よかったら」


まさるは、きょとんと目をパチクリさせる。ティッシュの使い方をご存知でない!?そりゃそうか、河童だもんな。

俺は、ふっと微笑んで鼻水を拭いてやるべくレジ台から出た。


「拭いてあげるよ。ほら、顔をこっちに向けて」


全く最初は恐怖でさえあったまさるだが、こうして触れ合う事ができるようになるなんてな。

まさるは、大人しく顔をこちらに向ける。全く、人馴れした河童だなぁ。

ニコニコと俺はティッシュを二、三枚手にする。


「.....」


鼻どこ。どっから鼻水出てんの。

大きなつぶらな瞳の下には黄色い大きなくちばしの上部二つに本当に小さな空気穴のようなものを見つけた。

こんな小さなところで息してるのかまさる。頑張って生きているんだなぁ...。

きっとこれが鼻だ、じゃないとわからん。本当にどこが鼻なのか!!


白い鼻水を拭いてやると、まさるはぼうっと俺の事を見ていた。


「どうかした?」


ふるふると首を振るまさる。


「そうか、またコーラね。またきゅうり持ってきた?」


こくりと頷いてナップザックをごそごそ。きゅうりを相変わらず取り出すと、俺は心から温かい気持ちになった。何だ今日の俺ちょっとおかしくなってるのか。これが父性本能ってやつなんだろうか。

俺はいつものように素早くお会計をすませると、ひんやりとしたコーラを渡す。


「はい、ありがとうございました」


まさるはそれを受け取って、いつものようにぺたぺた退店...する事もなく、まさかのコーラを受け取った後、においがするのか、レジ台の横のおでんの入った銀色の器を眺めていた。


「おでん、食べたいの?」


こくこくと素直に頷くまさる。すかさずきゅうりを三本差し出してくる。

可愛い奴だなぁ。俺は俺的オススメのおでんネタ。卵、こんにゃく、もち巾着をカップに入れてやる。きゅうり一本一おでん。


まさるは大喜びでぺたぺた踊り出した。箸使えるんだろうか...と考え、フォークを手渡す。

ハフハフとその場で食べるまさる。前に来店した時のまさるを見る限り、きっと仲間達にいじめられてたり嫌煙されたりしてるのだろう。幸せそうにおでんを食べるまさるを見て、毎日でも来ていいぞと思い始めた。何で俺今日こんなにまさるにベタ惚れなんだ。熱でもあるのか?


ひたすら食べ終えたまさるから器を受け取ると、ピコンと何かを思いついたように、跳ね上がると、コーラを俺に手渡そうとするまさる。


「いやいやお会計終わったよ」


まさるは、ふるふると首を振って俺の隣のおでんを入った器をくいくいっと顎でしゃくる。


「まさかだけど.....あの、え?嘘でしょ」


まさるは、おでんの器を指差して、そのあと下!下!と人差し指を下に向けジェスチャーした。


「おでんの容器の中にコーラを入れろと!?いやいやいやいや!?」


まさるは、寒い寒いというように両手をすりすり、体をすりすりして寒さアピール。ほかほかおでんを食べた後だ。

ひんやりコーラをほかほかにしたらもっと美味しいと思ったのか、もしくは寒いから温めて欲しいのか。


「だめだめだめだめ!コーラ温めるなんて聞いた事ないから!?絶対やめた方がいいから!」


だめ!だめ!と両手でばつ印を全力で作る。コーラを突きかえすと、しゅんと俯くまさるに、俺ははたと気づいた。驚くべき事実に。


「え!?言葉わかるの!?喋れる!?」


今日一番驚いた。そういや、さっきどうかした?って聞いた時首振ってたよな!?まさる、お前言葉がわかるって事は、話したりもできるのか!?いや、待てよ?でも、じゃなかったら自分の皿にまさるなんて書けないよな。


だが、ふるふると首を振るまさる。

喋ったりはできないのか、書いたり読んだりはできるってことか?

とりあえずいつも仕事を教えてもらった時にメモするメモとペンをまさるに与えてみる。


「言葉は、どうやって覚えたんだ?皿に住所とから書いてあるけどあれも自分で書いたの?」


まさるの視線は、ペンとメモ、俺をゆっくりと往復し、メモに小さい字で文字を書き始めた。

凄い、この河童...字が書けるぞ!?


大きな、保育園児が書いたような字で、


「こさめちゃんにことば、おしえてもらった」


小雨....小雨?いや俺の妹の名前小雨なんだけど、あれ、でも、小雨なんて名前ありきたりだしな。


「きみはにてる。こさめちゃんに。いつもありがとう」


いつもありがとう。俺は、その言葉を見つめた。

何度も何度も噛みしめるように。


「いつでも来てね。またおでんごちそ...買いに来てね」


ご馳走するねと言ったら買ったと思ってるまさるが可哀想だ。ごくりと飲み込んだ言葉に、笑顔を浮かべる。

まさるは、ぺこりとお辞儀をするとまたぺたぺたと今度こそ退店していった。

小雨....まさか、まさかな。


本日も読んでくださりありがとうございます。


一般人は出さないのでしょうか?という質問は何回かしていただいたのですが、実は出ませんごめんなさい...。

深夜のコンビニには、おかしな人達しか来ないというのがこのお話だからです。これは曲げられないものでして。

気づいたら90話まで来ましたね。長いようで短いような。書きたいものをめちゃくちゃ書いてきましたが、そろそろ晴君が何故いい年なのに、大学行くわけでもなく、就職してるわけでもなく、コンビニバイトをしているのか、というお話を書きましょうか。何故かそれは割と皆さん聞かれませんでしたね笑ずっと書きたかった話なのでもう少ししたら...お楽しみに。

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