深夜のコンビニバイト四十日目 店長誕生日おめでとう。
小中と図書館で一人本を読んでるような子供で友達がとても少なかったので、高校で友達ができて、皆に「誕生日おめでとう」といわれた時に、涙が出そうになりました。
ずっと書きたかった店長の誕生日回が書けてよかった。
深夜のコンビニバイト四十日目。
今日は記念すべき素晴らしい日。
店長の誕生日7月1日。
出勤前から店長の誕生日プレゼント(クマさんのエプロン)を用意し、わくわくで出勤した。
何故クマのエプロンなのかというと、言わずもがな絶対に似合うと思ったからだ。
俺がクマのエプロンを着た店長を見たいからでは決してない。絶対に可愛い。
最初の店長の印象はクマのエプロンより、メリケンサックダンベルサンドバッグのイメージだったが、今は料理好きでガーデニングを趣味にする奥店長に、たまに萌えを感じてしまう程だ。
何を言っているのかわからないかもしれないが、店長と働けばわかる。
「おはようございます!」
いつものように休憩室で横になっている店長に挨拶。
「あぁ、おはよう。村松君今日もよろしくね」
...いつも通り、いつも通りの店長だ。
そうだ、折角だからサプライズにしよう。
ロッカーにこのクマのエプロンを入れておいて、店長がロッカーを開けたら可愛い赤いリボンのかかったしましまピンクの包み紙が顔を出す。
勿論誕生日おめでとうございますのメッセージカードを添えて。
なんだこれは...?高鳴る胸の鼓動を抑えながら包みを開ける店長。
中から出てくるクマのエプロン。
完璧な作戦すぎる。
店長のロッカーに、店長の誕生日プレゼントのエプロンを忍ばせ、いつ気づいてレジに立つ俺を呼びに来てくれるかなーと楽しみに、売り場に出た俺の目に飛び込んできたのは、
「誕生日おめでとう店長」の文字。
折り紙や、くしゅくしゅの紙で作ったカラフルな花で、コンビニがデコレーションされていく様子に、俺はあんぐりと口を開けて目を泳がせた。
「いや何やってるんですか!!皆さん!!ここはコンビニって事忘れすぎだから!!!!」
おっさん犬が、レジ台にたち指示を出し、今までレジに来たお客様達がコンビニを店長の誕生日仕様にデコレーションしていた。
いやいや俺がさっきコンビニに入った時には普通のコンビニだっただろ!?何この突然のビフォーアフター!?
「何してるんですか!?これなんですか!?」
おっさん犬を見ると、
「いやぁ、さっきまでコンビニに隠れてて、兄ちゃんが来たから本格的に準備始めたのよ。兄ちゃん、参加したいと思ってよぉ...」
いやいやいやいや絶対ダメでしょこれ。
これ絶対参加して怒られるやつ!!
狼男さんが、床に薔薇を散らしながら歩いている。
「あの、薔薇散らすのやめてくれませんか。掃除するの俺なんですよ」
「あぁ、久しぶりだな!元気だったか?」
はっはっはー!と笑いながら俺の肩をバンバン叩く狼男さんに、
「狼男さんも元気そうで...じゃないんですよ!薔薇をこう、散らすのをやめてください!」
「そりゃあ、できねぇ相談だな。店長さんの誕生日を祝う、いわばこりゃ主役が通るレッドカーペットがわりだからな」
芸が細かく、見事にレッドカーペットのように薔薇が散らされつつあった。
なんだよこのロマンチックロード。掃除はもちろんしていってくれるんだろうな。
「持って来たわよー!誕生日ケーキ♡」
「ぽむぽむきっちょむと作ったんだー!」
鬼夫婦がにっこにこで来店してきた。手には、大きなケーキの箱。
「見てー!ほらぁ!」
パコッと開けた箱には、大きくて白いシンプルなケーキ。
イチゴもチョコレートもなにものってない。
「これからシュークリームを積んでいくから、レジを打ってくれる?」
ぽむぽむきっちょむは俺にウインクした。
「おい、この紙のしゅわしゅわ上手くできんぞ!もっと簡単な飾り付けはないものか!」
吸血姫が休憩スペースでくっしゃくしゃの花をぽーいと投げ、
「これだから不器用な女は...ちょっと貸してみなさいよ」
それを隣の金太郎さんが手伝い、おっさん犬はかぐや姫の五人の公達に
「もっとその看板はまっすぐ、そうそう。店長へのメッセージボードもうちょっと派手にできねぇかなぁ」
指示を出したり首をひねって考えたり。五人の公達は、俺にメッセージボードを差し出した。
「あの方は私達の下僕魂を再び燃え上がらせてくれた恩人なのだ。コンビニでかぐや姫の欲しいものを瞬時に判断して教えてくださったり大変お世話になった。まだ書いてないのは、貴方と文字が書けない人面犬さんだけだぞ」
車持皇子さんが、俺にメッセージボードを差し出した。
五人の公達は、吸血姫は、金太郎さんは、狼男さんは、鬼夫婦は、おっさん犬は、俺をみて微笑んだ。
「協力してくれよ。人手が足りねえんだ」
おっさん犬は、ニカッと笑うと前足でこっちに来いと俺を促した。
「はぁ.....なんだよこれ...」
俺は深いため息をついて俯いた。
誰が掃除すると思ってんだ。誰が片付けすると思ってんだ。全く、全く全く...。
だが、顔は自然と綻んでしまう。
あぁ、なんだよ。なんか、涙が出そうだ。
俺は、微笑んでメッセージボードを受け取った。
「さっさと準備して、店長をお祝いしましょう」
時計を見ると深夜2時半。
店長の誕生日から二時間半も経っちゃってるよ。
外で参加したそうにこっちを見ていた綾女さんにも手伝ってもらう事にした。
シュークリームのレジを済ませ、飾り付けのお菓子などもレジを打つ。鬼夫婦持ちらしい。俺も少し出すと言った。
不器用な吸血姫を金太郎さんと綾女さんが手伝い、俺も花の作り方を教えてもらって、五人の公達と飾り付けし、狼男さんとレジ台に花を飾り付けた。
おっさん犬は、「タバコは吸えるが文字は書けねぇ」らしいので、俺が代わりに話した事を書いてあげた。
内容が親父らしくて泣きそうだった。
「何やってんだよ俺...コンビニをこんなにしちゃって...」
呆れてふっと微笑んだ。
完成した店長一色のコンビニを見て皆は喜び合った。
吸血姫と金太郎さんも笑顔でハイタッチ。今日は店長の為に一時休戦するらしい。五人の公達も喧嘩せず仲良く休戦中だ。
花を作っている間女子(?)三人はずっとコイバナをしていたらしい。一時休戦中は仲がよかった。いつもこうならいいのにな。
「じゃあ、店長呼んできますね」
店長が何言っても俺は皆をかばうつもりでいた。
コンビニを完全に店長の誕生日一色にしてしまった。他のお客様が来たらなんて説明したらいいか全くわからないし、怒られるに決まってる。
「店長」
「ん?」
休憩室に入ると、クマのエプロンを身につけ途中の店長がいた。
「○+♪*+\☆々×・!?」
声にならない声を上げる俺に、
「村松君、ありがとう。これ、村松君だよね」
プリントされたクマを指差して腰に手を当てた店長。
とっても可愛い。よくお似合いで...。
「すごく嬉しかったよ。誕生日おめでとうのメッセージカードが貼ってあって、やっと気づいた。俺今日誕生日なんだね...巷の若い子に流行ってるさぷらいずプレゼントってやつだよねこれ。こんな事俺された事なくてねぇ...ありがとうね毎日身につけるよ」
キラキラした顔で言う店長に、俺は心の底から買ってよかったと思った
誰かにサプライズなんてする事が今までなかったから、こんなにくるくる鏡の前で回って喜んでくれると嬉しい。
「店長、まだあるんですよ。サプライズプレゼント。目を閉じてこっち来てください」
俺は、店長の腕を引いた。
「もう十分もらったよ」
「まだ十分じゃありませんよ!さ、早く目を閉じて!」
大人しく目を閉じて俺に手を引かれてついてくる店長。
目を閉じて、深呼吸をして休憩室の扉を開ける。
「店長、目を開けていいですよ」
休憩室から、売り場の眩しさに細い目を開いていく店長。
パァン!パァン!と爽快なクラッカーの音。
狼男さんが、入り口付近に立ち音と同時にカゴに入ったバラの花びらを巻いた。
バラの花びらだらけになった店長は、目をぱちくりさせた。
「店長、誕生日おめでとう!!!」
皆が一斉にパチパチと手を叩く。
「店長さん、誕生日おめでとう。またコンビニで相談聞いてくれよ」
「ダーリン♡おめでとう♡」
「此奴は妾のだぞ!抜けがけするでない!あぁ!おめでとう」
「せーの、(息を合わせろよお前達)店長さん、おめでとうございます!おい!バラバラじゃないかよ!」
「おめでとう店長さん、みてみて♡あたし、おーたんとケーキを作ったのよ」
「前に俺達にケーキを振舞ってくれたお礼だよ!」
「誕生日...おめでとう。俺の事をいつも親父さんと慕ってくれるあんたの誕生日に何かしたいと思ってな。こうしてあんたに世話になった皆に声をかけたんだ」
狼男さんが巻いたバラのロマンチックロードを歩き、休憩スペースの机の上に置いてある大きなシュークリームタワーの乗ったケーキまで誘導。
沢山のろうそくが立っていて、真ん中にはチョコレートに、「店長誕生日おめでとう!」の文字。
終始驚きで呆然としている店長。
「店長、おめでとうございます。いつも、いつも、本当にありがとうございます。皆、店長が大好きで集まってこうして誕生日をお祝いしようって事になったんです」
俺は、皆で書いたメッセーボードを店長に差し出した。
店長は、震える手でメッセージボードを受け取った。
ゆっくりとそれを抱きしめると、
「.....ありがとう...ごめんなぁ。俺、こんな風に誰かに盛大に誕生日とか祝われた事ねぇからさ...どんな反応したらいいか...わからねぇんだけどさ...ありがとう。俺の為に...こんなに深夜に集まってくれて、こんな素敵なものもくれて、ありがとう...ごめんなぁ」
ぎゅっと縮小するんじゃないかってくらいメッセージボードを抱きしめて店長は震えた声で言った。
こんな店長は見たことがない。
「ほら、外はガミちゃんが人が来ないように見張っててくれてるからよぉ。何も心配せず皆でワイワイ店長さんの誕生日会しようぜ!」
それを早く言ってくれ狼男さん。
「金ちゃんがケーキをあーんしてあげるわよぉ♡こっちに来てぇ」
「こら!何をしているずるいぞ!ほら、こっちだぞお主、ほら、あーん」
「店長さん、お味はどう?」
「ぽむぽむきっちょむと俺が作ったんだから絶対美味しいはずだよ!」
「どうじゃ、こことかうまく出来てるでおじゃろう?私が作ったでおじゃる」
「店長さん!店長さん!ここの飾り付け私がしたんですよ?なかなかのセンスでしょう?」
「私の飾り付けもみてくださいよ!店長さん!」
「ほら、あれからあんたの影響で色々花言葉や花を調べてな。俺からは白いダリアをプレゼントだ。花言葉はわかるよな?「感謝」してるぜ。おめでとう店長さん。あの後の結果も聞いてくれよ....」
「ハルをいつもありがとうございます。お誕生日おめでとうございます。素敵な年にしてください」
「皆あんたの事が大好きなんだぜ...ほら、俯いて泣いてねぇで、もっとケーキ食え。美味いぞ。今日は一緒に酒飲もうぜ」
「店長、誕生日おめでとうございます。本当に、いつも感謝してます。尊敬してます。これからも、よろしくお願いします」
「あぁ...あぁ、ありがとう。ありがとう皆...俺、ここで店長やっててよかったって、心から思うよ」
皆に囲まれながら微笑む店長を見て、俺は目頭を押さえた。
本日も読んでくださりありがとうございます。
私は中学の頃「無表情に、無感情に」を心に生きてきましたが、男性も苦手で、喋り方もアニメのキャラみたいな話し方をしていたので、なんかあの、はがないの夜空ちゃんが好きで、彼女みたいにツンツンした話し方をしてたんですよね。ある日、男子が道を塞いでいた時に、どいて欲しくて心の中では、「ごめんなさい、通りたいからちょっとごめんね通らせて」と言うつもりだったんですが、男子と話す時はいつも緊張してしまって、口に出たのは、「どけ、邪魔だ」だったんですよね。
酷いですよね。幾ら何でも言い方ってものがある。
アニメ好きの男子達に無表情のも相まって「氷の女王」って二つ名をつけられましたね。




