深夜のコンビニバイト三十九日目 メリーさん来店
昨日お休みした経緯は最新話書いたけど納得いかないなって時はお休みして次の日にお話を練り直して投稿するよってそんな感じのお話を活動報告に書いたのでみてください。
ついでに私の休みの日の寂しい過ごし方が書いてありますがそれはみなくてもいいです。
深夜のコンビニバイト三十九日目。
基本的に、コンビニに電話がかかってきたらバイトの俺ではなく、店長がしっかり応対するから電話がきたら一旦出てから保留にしてすぐに俺を呼んでと言われているが、なにせ俺が働いている時間帯が深夜の為、実際電話がきて店長にかわったことは今まで一度もなかった。
そもそも、深夜2時にコンビニに電話をかけてくる人というのは、恐らく酔っ払いか、間違い電話か、そのような類なんじゃないかと思うけど。
「ヒッ!」
深夜2時22分ジャスト。
今日は初めて深夜のコンビニバイト中、モーソンに今一本の電話がかかってきた。
まずは電話に出て、何か言われたら近くのペンとメモでちゃんとメモして保留にする。
そして、店長を呼ぶ!!はぁ、電話での対応は初めてだから緊張するな、よし。
恐る恐る受話器に手を伸ばした。
静かな店内が俺の緊張を加速させる。
「はい、お待たせ致しました。モーソン....」
「あたしメリーさん、今、病院の前にいるの」
メリーさんって...あの、あれだよな。
人形の...どんどん電話してきて近づいてきて最後には後ろにいて...あの、あれだよな...俺知ってるよ。
病院ってここからちょっと遠いあの赤紅病院?何で病院にいるの?そこもホラーなんだけど?
何でやめて、今まで普通の人は一人も来なかったけどホラー系の人は誰一人来なかったじゃないかよ!!勘弁して。
しかも切られたし!保留にする時間さえ与えてくれなかったんだけど!?
「ま、また、また電話がかかってくるかも、店長を呼ぼう」
休憩室を開けようとすると、逆に扉が向こうから開いて、
「今電話の音しなかった?」
制服を着た店長が出てきた。
この店長が現れた時の安心感といったらない。
「店長...今、電話がかかってきて」
「どんな内容だった?」
混乱する俺に、優しく声をかける店長。
その温かな安心も──。
プルルルルル...。
電話の音で凍りついた。メリーさんだ。どんどん近づいてくるんだ。
「む、無視、無視しましょう店長」
俺は腕にしがみつくが、店長は、
「お客様のお電話は無視できないよ。たとえそれがクレーマーのお客様だったとしてもね」
店長は店長だった。
受話器を耳に当てた店長の隣で俺も電話の内容を聞こうと受話器に耳を近づける。
「お待たせ致しました。モーソン犬川店、店長の...」
「あたしメリー...病院を出て、その後少し道なりに歩いて、公園の近くの公衆電話で今電話かけているんだけど、こっからあなたのいるコンビニまでどうやっていけば...いや、別にこれは迷ったとか全然そういうわけではなくて、あの、あれだから、ちょっとあなたの他人に対して道を説明する力を試そうとしているだけだから」
メリーさん、迷った。
「今公園ということは、当コンビニから歩いて10分程の犬川公園の辺だと思われます」
冷静な店長は店長だった。
「びゃあ!!!何!?キモい顔した犬が歩いてた!!!ひっ...怖い...怖いよ。夜に一人で公園って怖すぎるよ!スタートが病院だったまではよかったけど、ほら病院って怖いじゃない?突然病院にいるのってメリーさんから言われたら怖いと思って。病院だと必ず公衆電あるし...でもその後よ!あたしがびゃあ!!犬こっち向いた!ヒッ!こっちめっちゃ見てる!無理無理無理あたし犬とかマジで無理だから。前屋敷に住んでた時とかでっかい犬に臭い口にくわえられてマジでそれで無理になったから!」
「落ち着いてください。コンビニからここまでは歩いて約10分です。公園を出て道なりに歩いていただいて、はじめの信号を右に曲がっていただいて、その後に住宅地を抜けた先に当コンビニがございます」
「わ、わかったわ。メリーさんルールがあって、一度電話をかけた相手には必ず会いにいくっていう絶対的ルールがあるからわかったわよぉ...行くわよ。ヒッ!犬!近寄ってこないでよ!しっ!しっ!あっち行きなさいよ!」
ブツっ...切れた。
「迎えに行った方がいいかな」
「...大丈夫だと思いますよ」
メリーさんのあのホラーなイメージがぶち壊されたのは良かったけど、道に迷うし犬を怖がってるし、メリーさんってお化け枠だと思ってたけど夜怖いとかいうし、もしかして意外とポンコ...。
ピロリロピロリロ。
このタイミングでお客様!?という事は...?
「いらっしゃい...ませ。あ、あれ?おっ...人面犬さんじゃないですか!」
「ヨォ!元気かぁ?」
手を、いや前足を上げて微笑むおっさんの顔をしたおっさん犬に、
「親父さん、お久しぶりです!」
心底嬉しそうな店長を見て俺達は久しぶりの再会を喜びあった。
ただ、一人おっさん犬の口に無残にくわえられた髪を振り乱して憎しみ丸出しの西洋人形以外は。
「あたしメリー...今貴方達の目の前にいるの...ねぇ、みて?よだれでベタベタ...髪の毛もボサボサ、体が獣臭い。あたし結構な数人間の所に言って人間を驚かせてきたけどここまで酷い姿になった事はないわよ...」
泣きそうなか細い声で呟くメリーさん。
「この嬢ちゃんが公園で一人で困ってたみたいだからよぉ、ちょっとお節介かけちまったのよ」
ねっちょりとコンビニの床に降り立ったメリーさんは、小銭入れらしきピンクのポシェットの匂いを恐る恐る嗅いでウヘェという顔をしていた。
可哀想。
優しい表情のおっさん犬に、店長もニッコリ微笑む。
「お嬢さんが電話の方だったんですかぃ...また随分と可愛らしい。困ってましたものね、流石親父さんですよ」
「ちょ、ふざっふざけんじゃないわよ!何いい話っぽくしてんのよ!追いかけられて口に瞬時にくわえられて全速力でここに運び込まれたあたしの気持ちになってよね!?どれだけ怖かったと思うのよ!?みてよこれ!このポシェット!お気に入りなのにこれ!クサイ!あんた自分の口の匂い嗅いでみなさいよ!鶏肉が腐ったようなキツイ匂いがするわよ!」
小さい西洋人形のメリーさんはコンビニの床に立ってジタバタ怒り出した。可愛い。
「そ、それとあんた!か、可愛いって、そんな褒めたってあれなんだからね!全然嬉しくなんてないんだからね!丁寧にここまでの道を教えてくれてありがとう...くわえられて運ばれたから全く意味なかったけどね」
髪の毛を振り乱して、よだれだらけの姿だとせっかくの可愛いツンデレセリフもなんだかしまらない。
「あたしメリー...もう帰りたい...」
俺達に背を向けてふらふらの足取りでぽつりと呟くと、
「お嬢ちゃん、気をつけて帰るんだぞ?なんなら俺が送って行ってやるぞ」
良心で言ったおっさん犬に、メリーさんはくるりと振り返り、目を大きく見開いて、
「犬はもうメリーさんに関わるな!!!」
精一杯の力のこもった目力と声で叫ぶと、ふらふらとどこかへ帰って行ってしまった。
道に迷うし、夜道は怖いし、おっさん犬にくわえられるし、メリーさん災難だったな...。
目の前で和気あいあいと話す二人をよそに、メリーさんの残業で疲れ切ったOLのような小さな後ろ姿をみてもうここには二度と彼女から電話がかかってくることはないんだろうなと思った。
プルルルルル....。
「はい」
「あたしメリー...あの、病院に帰ろうと思ったんだけどちょっとここがどこかわからなくて、公園に戻ろうとしたんだけど凄い勢いでくわえられてきたから公園に戻る方法がわからなくて...たすけて」
本日も読んでくださりありがとうございます。
過去に妹にめちゃくちゃ低い声で、
「おい、俺だよ。俺だよ」と言ったら、明らかに怪しいのに、「え?誰?お父さん?」というので、適当に「そうだよ」と言ったら、「なんか声若くない?まぁいっか。これから帰るねー!5分くらいかかるー!」と言って来たのがめちゃくちゃ面白かったですね。




