深夜のコンビニバイト三十四日目 偽物の俺来店
今回はお客様の正体を隠すためにあえてタイトルを工夫しましたよ。
皆さん想像した事ないですか?自分そっくりの人がお客様としてきた時自分はどうするのかって。私だったら、そうですね。物凄くビビりなのでとりあえずその日は何かしら理由をつけて早退しますね。怖いから。
深夜のコンビニバイト三十四日目。
ピロリロピロリロ。
「い...うわぁああああああ!!!」
接客業をやっている人に問いたいと思う。
もし、来店してきたお客様が、自分と全く同じ顔をしていたら、どうすればいいんでしょうか。
見て見ぬ振りをする?無理だ。本当に自分にそっくりなんだもの。
ティーシャツにジーンズだから見分けがつくけど、普通に俺と同じ格好してたら見分けつくかなぁ?
世界には同じ顔の人が三人いるっていうし、いやいや、まてよ、それにしても俺と瓜二つすぎるだろ、何だよこれこんな事があっていいのか!?
目がもう俺にそっくりなお客様を捉えて離さない。釘付けだった。
こんなに自分と似ている人を俺は見たことがない。当たり前か。そんな事そうそうあってたまるもんか。
お客様は、俺を見ると勝ち誇ったかのように笑い、店内を歩き回った。
「嘘だろ...あれ、綾女さんとか俺とあの人見分けつくのかな」
気になりすぎてレジから離れてこっそりお客様を観察する。
お客様は、俺に気がついていないふりをしていて、しっかり気がついている様子だった。
俺の顔で堂々とエロ本を読まないでください。何もしていない俺が恥ずかしくなる。
お客様は、エロ本を数冊手に取りレジに持ってきた。
真面目な顔で、とすんとレジ台に置き、
「お会計よろしくお願いします」
「ヒッ!」
声まで一緒だった。
怖い、もうここまでくると怖い。パラレルワールドの俺?
いやもうこのコンビニおかしすぎるからそれもありえるんじゃないかと思えるし、未来の俺説もある。
そうだ、未来の俺なんじゃないか?この人は。
しかもこの人顔がそっくりな俺に対して全く物怖じしてないだと!?
俺が本物、お前が偽物だというような自信たっぷりの態度で俺がレジを打つのを待っている。
何故驚かない?驚いてるのは俺だけなんだけど!?
ピッ、ピッとレジを打ちながらチラチラと観察する。
やっぱりそっくりだ。気にしている俺の様子を楽しそうに眺めながら、レジを打ち終わるのを待っている。
「あの...すいません」
俺は、とうとう勇気を出して話しかけた。
「どうしました?」
俺の声で笑顔で答える俺とそっくりなお客様、もはや接客モードの俺だった。
「つかぬことを聞きますが、もしかして貴方は未来から来た俺ですか?」
「えっ...あの...ぷぷ、それ本気で言ってるんですか?」
ぷふーと口に手を当て吹き出す俺にそっくりなお客様。
いやもう俺もそんな事聞きたくないけど気になるんだよ仕方ないだろ。
笑うなよ俺の顔で。
「そ...そうですよ、ぷぷ」
絶対嘘だ。馬鹿にしたような笑いで分かるからなふざけんなよふざけた顔しやがって、俺の顔じゃないかよ。ふざけんなよ。無性に腹が立ってくる。自分に馬鹿にされるとこんなに腹が立つものなのか。
「あの、未来から来たなら三年後の俺は何をしているか教えてもらっていいですか?」
10年とかいったらありきたりな事言われそうだからなあえて近い年で答えづらくしたぞ。どうだ、答えてみろ。
「...そうですねぇ、愛する女性と結婚して、二人の子供に恵まれて、このコンビニでバイトもやめて、都内で正社員として働いていますね」
普通にそうであって欲しくて何も言えないよね。
いいこと言うじゃないか未来の俺。
「店長、そうだ。店長はどうですか?」
俺と面識のない赤の他人なら、店長の未来まではわからないはずだ。
「店長さんは、そうですね。女性に何人かアプローチを受けますが、女性経験の無さからそれに気がつかずまだこのコンビニで一人店長をしています」
店長...普通に今がそうだからなんとも言えないけど!!
この人...的確に答えてくるな。本当に未来から来た俺なんじゃないのか?
首を傾げて全身を観察する。
「そんなにじろじろ俺を見ないでくださいよ」
客観的に見ると俺より何かちょっとイケメンな気がする。ムカつくな。
後この状況店長が見たら気絶しそうだからなるべく静かに対応して帰ってもらおう。
「ありがとうございました」
「ここで読んでいこうかな」
休憩スペースで堂々とエロ本を読み始めた俺にそっくりなお客様。
マジでやめてほしい。店長にも綾女さんにも見られたくないからマジで俺の顔でやめてほしい。クソイキリ勇者とかの顔にして読んでほしい。
「ねぇ、外で君の事見てるのって君の彼女?」
「えっ...」
唐突に話しかけられ、動揺してしまう。何でそんな事聞くんだ?
「やっぱ、そうなんだ」
ニヤリと笑うと、俺にそっくりなお客様は、店からスゥッと出ていった。
何か絶対企んでるだろ。綾女さんに何するつもりだ!?
「待ってください!綾女さんに何かしたら...」
外に出ると、俺の顔で綾女さんの手を取って何かを二人で話していた。
俺の中で何かが切れた。
「おい、いい加減にしろよ。俺の顔で綾女さんに触るな」
俺は、奴の腕を掴んで引っ張り、綾女さんを庇うように前に出る。
「ハル...」
「綾女さん、あいつは俺の偽物です」
「痛いなぁ、綾女さん。俺がこんな暴力的な事すると思いますか?そっちが偽物ですよ」
わざと悲しそうな顔をしていけしゃあしゃあとそんな事を言い出した。
「ふざけるな、俺が本物だ」
怒りで口調を強めた俺に、
「いやいや、俺が本当だよ。綾女さん、信じてくれるよね?」
あえて優しく綾女さんに声をかける偽物の俺。
俺は休憩スペースでエロ本を読まれる事や、俺の顔で俺を馬鹿にするのは許せないけどまだここまで怒りが湧かなかった。
だが、綾女さんが偽物のこいつにたぶらかされるのは絶対に許せない。
「綾女さん、俺の事を信じなくていいからこいつの事を信じないでください」
もはやめちゃくちゃな事を言っていた。
「綾女さん、綾女さんならどっちが本物の俺か、わかりますよね?」
偽物の俺が、勝ち誇ったように微笑んだ。
「えぇ、分かるわよ」
温かく柔らかな感触が俺の背中を包み込んだ。
「わ、あ、あや、綾女さん!?」
「こうして、前に出て、私をいつも守ってくれるのがハルよ。それに、匂いが違う。声のトーンも少し違う。それと、こんな風にそっちの人は、ドキドキしなかったわ」
俺の胸の下の方に両手を回して、抱きついている綾女さんに、俺は両手で顔を覆った。
あぁ~綾女さん.....最高すぎる。
「.................なぁんだ。つまらないな」
やれやれと首を振る偽物の俺は、くるりと一回転すると、今度は綾女さんのそっくりな顔になった。
ティーシャツにジーンズはそのままなので、綾女さんの体に少しぶかぶかだった。
「ボクはドッペルゲンガー、こうして色んな人に成り代わり立ち代わり、人を惑わせて楽しんでいるのさ」
「私そっくりだわ.....」
綾女さんそっくりな顔で、そっくりな声で微笑んだ。
当の綾女さんはじっと見つめて感心したように声を漏らした。
ドッペルゲンガー...聞いたことがある。
自分とそっくりになりすますことができる...そういや自分そっくりなドッペルゲンガーに会うとそのうち死ぬって聞いたことがあるんだけど!?
「あの...自分そっくりのドッペルゲンガーに会うと近いうちに死ぬって聞いたことがあるんだけど」
「あぁ...そんな噂もあったねぇ...ふふ、まぁ、それは迷信だよ。それを言ったらボクはドッペルゲンガーじゃなくて、死神だよ」
「そうか...よかった」
「なんていうのは嘘で、本当は死ぬよ」
「やめろよ!?そういうこというの!?」
「あははは全く面白いね君は...ボクの事殺しにも来ないし...普通にびっくりしてるし、からかいがいがあるし、また遊びに来るよ!」
ん?今なんかすごい物騒な事言わなかったこの人?
「大概の人って、自分がもう一人いるって事実に怖くなってもう一人を消そうとするんだよね。ドッペルゲンガーのボクが自らの体で学んだドッペルゲンガーに出会った時人間がどういう反応を示すか、という結果ね」
背筋をぞくりと寒気が走った。
そんな俺の様子にふっと微笑んだドッペルゲンガーは、
「身体も一緒なんだぜ?そりゃ自分と同じだと思うよな。おっぱいだってほら」
綾女さんの格好でティーシャツをまくしあげようと手をかけた。
「○♪☆*+\・\%!?!?」
綾女さんが声にならない声を上げて全力で隠そうとドッペルゲンガーに突っ込んでいった。
「はははっ!全く、面白いな君達二人は」
綾女さんにたくしあげようとしたティーシャツを全力で抑えられながらドッペルゲンガーは楽しそうに笑った。
「いや待てよそうなるとおかしいだろ!?未来の俺を言い当てたり、店長の事言い当てたりしたのは!?」
「あ、え?あれは適当に言っただけだけど?」
適当に言って的確なの反則だろ。
「俺は自分の顔がないからさ、誰かの顔を借りるしかないんだよね。自分がある君達が羨ましいや」
最後は少し寂しそうにそう告げると、くるりと綾女さんをかわして俺達に背を向け走り去る。
「また来るね、バカップルー!」
ドッペルゲンガーは、くるりとこちらを振り返り、手を振りながら笑った。
「二度と来るんじゃないわよ!」
綾女さんは顔を真っ赤にしてドッペルゲンガーを指差した。
今日の夜は完全にドッペルゲンガーに遊ばれた気がする。
レジに戻ると、休憩スペースにエロ本が置いてあった。
おいまじかよ、置いてったの。
「ったく、持って帰ってくれよ、処分に困るな」
ゴミ箱に入れようと隠すようにレジに持ってくると、丁度店長が休憩室から出てきた。
「あ、村松君...今月のシフトの事だけど」
「あ」
最悪だ。
「村松君も、お年頃だもんな、いいよ。でも、その、し、仕事中にそういうものを買って、あの、読む?とかはその、どうかなとあの、えっと、ごめんね。失礼しました」
パタリと扉を閉じた店長。
「違うんですよ!!店長!!!」
当コンビニ、ドッペルゲンガーお断り。
二度と来ないでくれ。
本日は読んでくださりありがとうございます。
中二病最盛期の中学二年生。私はその始めて時小説を書き、読者好きの友人に読んでもらう事にしたんですよね。そしたらそれを知った幼馴染二人が、私も見せて!物語に登場させて!というので、ちゃんと何回か「本当に登場させるけどいいの?」と確認して、登場させた物語っていうのが、私がその頃書いていた学園デスゲームで、理不尽にゲームマスターに生徒達がゲームに負けると惨殺されるようなお話を書いていたんですよ。
友人達は小説を大絶賛してくれましたが、「いや、殺されてるんだよ皆本当にいいの?」と思ってましたね...その頃から誰かに小説を書いて喜ばれるのが嬉しくて、作家になりたいと思いました。




