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夜の國  作者: 帝
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VS出雲

僕は大地を踏みつけ走った後、獅子が獲物に襲いかかるように出雲に大きく跳んで被さった。

が、しかし。

出雲はそんな僕をふん、と鼻で笑ってから、細長い脚で僕の左半身を蹴り抜く。


普通の蹴りどころのレベルじゃない。ビリビリと電撃のような激痛が走り、脳内に恐怖が侵食した。

──何せ、左腕が爆発したのだから。

「う、うわあああああああああっ!!?」

僕は痛みよりも混乱と恐怖による叫びを本能的にあげてしまう。

すると出雲は「うるさいねぇ、夜なんだから大人しくしろよ…」とぼやいてから、

「ご近所迷惑だろーがァッ!!」と、突如どこからともなく現れた巨大な鋏を僕に目掛けて振り下ろした。

僕は左腕が使えないので右腕を支えにして立ち上がり、そのまま跳び退く。


僕はその後、何度も連続で放たれる鋏の攻撃を退転しながら避けつつ考える。

僕が砂鉄を操るのと同様、あいつは爆発を自在に──?


と思案している途中、バランスを崩してしまったが、結果、それは幸運となった。

一瞬前まで僕の頭があったところを、出雲の蹴りが貫いたからだ。

僕はそのまま転ぶ形になったが、左腕で自分の身体を支え──あれ?

左腕が、ある──。


笑っちまうぜ、こんなの。

怪物は──「不死身」が前提なんだ。

失った部位は、再生する!



出雲は「蜥蜴の尾みてーに再生しやがって…うざってぇんだよッー!」と叫び、何度も鋏を振り下ろして僕を退転し続け、やがて、「喰らえッ」の一言と共に、僕の脚を、両断した。


「ぐうううううぅぅっ…!!」

鋭すぎる痛みが全身を迸る。

もう、逃げられない。


「終わりだぜ」

という静かなトーンで発せられた出雲の声。

僕の腹に向かって勢い良く振り下ろされた鋏。

終わりだ──。


不死身とはいえ、再生スピードが追いつかないほどに負傷したら、命を落とす。


僕はそのまま、これから腹部に襲いかかるであろう激痛を想像して、歯を食いしばった。


すると。


「…………?」


なんだ、攻撃が来ない。

目を見開くと、そこには、鎖のようなもので縛られた出雲の姿があった。


「なんだこれ、クソがっ……!」

振りほどこうとすればするほど、まるで獲物を捕らえる蛇のように絡みついて離さない。


そう──それは。

「砂鉄の、鎖だ………!」


「僕の、武器だ…出雲……!!」


僕はそのまま、意識を集中させる。

砂鉄は、明瞭にイメージしたものになら基本的に何にでもなれる…はず…。


試したことはないけれど、それなら…!


出雲はようやく鎖を破壊し、純血の怪物の特権である「超スピード」で先程の僕のように退転していた。距離をとっていたのだ。


その速度は、半身怪物の僕を遥かに凌駕していた。追いつけない。

しかし。

僕はこれから、こいつに勝つだろう。

自信がある。

策がある。

算段がある。

武器がある。

そしてここには…「砂」がある。


僕の脚には、砂鉄で作った鎧…というより、装甲のようなものが装備されていた。

つまり、地面と足が、磁力で──。


僕は決戦開始の時のように、思いきり出雲に駆け寄る。


磁力で──反発する!


「てめぇのスピード、なんだ、それ…!」


「うおおおおおおおおおぉぉぉっ!」

僕は全力で咆哮し、奴のすぐ側まで駆けた後──。


奴の背後に、手を回した。

「人喰い(カニバリズム)」

その僕の一言と共に、砂鉄の力による大鎌が一瞬で出来上がる。


後はそれを、思いきり手前に引く──!

「──お前の異名だ。」

多分僕の放った一言は、奴の体が切り裂かれる音で、聞こえていないだろう。


ヤツはやはり人間とは違うようで、切り裂かれた身体からは出血もせず、ただ空へと霧散して行った。



──井上は。

井上は、気丈に振舞ってくれてはいたけれど、こんな非現実的な戦闘の片棒を担げと頼まれていた。

同級生の、この僕から。

「人間嫌い」と謳われる、この僕から。

人間じゃない、この僕から──。


僕は井上の事を何一つ考えてなかったな、なんて悔しさやら罪悪感やら自己嫌悪やら何やらをかき混ぜたような感情に苛まれながら、彼女を解放してやった。


…涙を流しながら、それでも笑いながら僕に抱きつく彼女。

井上 咲。

「…無事で、良かった…。」

きっと、心から、僕のことを心配してくれていたのだろう。

自分の身よりも、適当に生きているような、この僕を。


…しばらくして、彼女はようやく泣き止んだ。

その間僕は、一言も発さず、ひたすら彼女が落ち着くのを待った。

抱きついたまま、彼女は言う。

「ねえねえ、今度、カズくんの好きなご飯、作ってあげるよっ」

は?

夫婦かよ。

そんなツッコミを心の内に留めながら、ゆっくりと僕は返す。

「わかったよ。」

「それじゃ井上、…そろそろ離れてくれ」

彼女は何もわからない表情で言った。

「なんで?」

理由を問うた。あくまでも、人間じゃないにしても、男子高校生である僕に。


「──いや、その。」


「胸、当たってるし」

バトルシーンって難しいですね。


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