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夜の國  作者: 帝
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協力者

紆余曲折を経て、分かったことが幾つかある。

・僕は人間じゃなくなっている。肉体的には半分怪物で、半分人間だが、それでも扱い的には純血の怪物と同じものらしい。


・代わりとして、超人的な力を手に入れた(らしい。まだ実感がない)。今のところ、怪力とか超速ダッシュができることとかを確認している。加えて、周囲の砂鉄を集めて、それを具現化、武器として扱えるそうだ。

砂で作った鎌や刀を使って戦ったり、鎧として防御したり──汎用性は高そうだけれど、いまいちピンと来なかった。


この国──言わば日本に、僕と同じ「怪物」の力を利用して無差別殺人を続けてる人間が4人確認されているらしい。

1人は人喰いとして。

1人は復讐として。

1人は性的嗜好として。

そしてもう1人は──『怪物狩り』と称して。


奇妙な話だった。爻曰く、元々怪物の力なんてのは珍しくないものだったそうで、江戸時代にはそういう怪奇譚がよく綴られていたらしい。

しかし今現在、国内でそういった人間(人喰いかどうかに関わらず、<マンイーター>と呼ばれるそうだ)が片手で数えられるほどに減少したのは、代々続く「怪物狩り」の家系による仕業だそうだ。



「マンイーター…か…」

嫌な響きだった。「自分嫌い」なんてものじゃない。怪物イコールの思考で、「人喰い」の異名を付けられてしまった。


「それじゃあ和成君、しばらくは俺が君の面倒を見てやるから、少しばかり働いてもらうぜ」


「働く?」

バイトって事か?夜しかロクに行動できない人間擬きが、何するって言うんだ。

僕は素直にその旨を爻に伝えた。すると爻は「かはは」と笑ってから口をゆっくり開いて告げた。


「実戦だよ」





どうやら僕は、超人的な力ってヤツで闘わなければいけないらしかった。その4人のマンイーター…大罪人と…。


爻曰く純血のマンイーターは同族を見つけやすいから、僕が夜道をふらついていれば存在が即座にバレてしまうらしい。

奇襲されるっていうのも確かに嫌な話だったのだが、爻は「まぁ必要以上に外に出ない事だね。」と軽い調子で告げて、アパートの階段を降りていった。



どうやら、4人の怪物のうち、3人は"物分りの良いヤツら"らしく、奇襲でも何でもなく、決闘という形で戦うそうだった。それに関しての取り決めに向かったらしい。


うーむ。

砂鉄の鎌…。

なんで鎌なんだろう?名字に準えたとかなのか?

最初にイメージ出来たものに変化するらしいが、僕はよりによって鎌を思い浮かべたわけか。


そしてもうひとつ。大きな問題があった。

学校に行けない。

長期間休むことになりそうだけれど、そのためには爻以外にも人間の協力者が必要だった。

「……あっ」

僕は1人だけ、心当たりのある人物がいた。



あれこれ話をしていたせいで、既に日付が変わって、午前7時。


スマートフォンを開いて、同級生で唯一僕に話しかけてくれる人物がいた。

井上(イノウエ) (サキ)」という名が明るいスクリーンに表示され、僕はそのままコールボタンを押した。


3回ほどコール音が鳴った後、快活な、聞き覚えのある透き通った声が聞こえた。

「カズくん?」

和成▶カズくん、らしい。僕のことを名前で呼ぶ人なんて家族以外には、こいつくらいだった。


「あ…もしもし、井上か?」

僕は頭のおかしい妄想癖野郎と思われるのを覚悟で、正直に事実を告げた。

井上は口を挟まず、時々相槌を打ちながら僕の話を聞いてくれた。


…良い奴だった。


「ふーん、つまり、カズくんが人間に戻るためには、その悪い奴らをやっつけるの?」

悪い奴ら…。

間違ってはないんだけど、子供か。

「まぁ、そうなるな。そのために協力してほしいってこと。」


「別にカズくんのためならいいんだけどさ、私戦えないよ?女の子だし。高校生だし。」


「そこまで頼むわけじゃねえよ…。」

どこまで献身的なんだ。

成人男性で屈強な格闘技の選手だったって、戦えねえだろ。

相手は──化物なのだから。

そう。

化物なのだ。人間ではない。


「まぁ、確かにそうだね。へへへ。とりあえずその住所に定期的に食べ物とか持って通えばいいの?」


「ああ。頼むよ。無理しない程度でいいからさ。」

身体の変化のせいか、少しの飲まず食わずくらいの無茶は平気で耐えられるようになっていた。


「…………。」


「ん?どうかしたのか?」

沈黙を続ける井上に僕は問う。


「あのさ、その悪い奴らがそこの住所を知っちゃったらどうするの?」

訝しげに井上は問うた。


まぁ、そうだよなぁ…。

考えなければならぬこと、講じればならぬ策は、まだ無数にあった。


色々と、爻にも相談しなきゃ、いけないのかな…



そう考えると既に疲弊しきった気分になって、不安とか悲しみとか恨みとか憎しみとか寂しさとかが急に頭の中で回り始めた。弾み始めた。混ざり始めた。踊り始めた。狂い始めた。


「…………っ」


頬が熱い。

頬に伝った一筋の涙を袖で拭ってから、井上との電話を切った。

どうして僕はあの時──臆面もなく躊躇もなく狼狽することもなく困惑することもなく混乱することもなく無視することもなく思案することもなく道路に身を投げたのだろう。


僕は手に握りしめていた携帯を、ソファーに放り投げた。

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