夜の國
色々あったけれど、ひとまず後日談と位置づけよう。
その後、僕も(日光によって相当な負傷を負っていたため)丸一日くらいは目を覚ますことは無かった。
初めて目を覚ました時は、驚愕したものだ。
しばらく見ることのなかった数多の「蛍光灯」が、その眩い光が僕を包んで。
そして。
それより更に眩しい「彼女」の微笑みと安堵の表情が、僕の視界に入った。
彼女は、泣いていた。
「よかった、よかったよ…。ほんとうに──。」
と、何度も繰り返していたが、次第に言葉も話せなくなるほどに泣き噦り、「うわああああああん」と、最終的には号泣しながら僕の胸に抱きついてきた。その涙は、きっと色々な想いの詰まったもので、とても暖かかった。
──本当に、今まで心配をかけてしまったな。
ともかく、爻の言葉を借りるならば「分離したメビウスの輪の表裏は、再び一つに統一された」のだ。
僕は、"人間"だ。
「人間嫌い」でも「自分嫌い」でも無い。
今まで必死に抱えていた僕の生命が、より一層尊い物に感じた。
爻が最後の最後に発した、「ありがとう」という言葉が頭から離れない。
思えばこの二週間、無茶なことをいっぱいしてきた。
無理なことををしてきた。
無謀なことをしてきた。
でも、全て無駄じゃあなかったわけだ。
そして。
まあ、大急ぎで大慌てで遅れを挽回しなきゃいけないのだけれど、とても晴れやかな気持ちで学校に向かい、例の横断歩道も、何の問題も無しに渡り切って、教室へ入った。
「──おはよう、カズくん。」
いつも通り、快活な笑顔。
「ああ、おはよう。」
いつも通りだ。
「今日の夜、話があるんだけど、いいかな?」
急に咲にそう誘われたが、特に断る理由も予定も無いので快諾し、その日は結局、何も無い平穏無事な良い1日を過ごしたのだった。
夜20時。
大浦大公園で僕らは待ち合わせをしていた。
「本当、良かったね──。」
そんな調子で、思い出を懐かしむかのような口調で、咲はそう言った。
僕は申し訳のなさが先立って、二の句が継げないわけで、黙り続けてしまっていたが。
その後、何度も咲は「良かったね」と繰り返してから、僕の名前を呼んだ。
「鎌田 和成くん」
「?」
丁寧に、フルネーム。
渾名でもない。
「その──ね?今まで色々あってさ、『和成くんのため』なんて大義名分で、自分勝手なこと色々しちゃって、余計な心配かけちゃって、本当にごめん。だけど私、えっと、その、あの。」
しどろもどろ。
まじで?
「和成くんの事が、大好きです。」
彼女は、力強く、たしかにそう言った。
僕は夜が好きだ。
首筋を撫でる冷たい夜風も、仄かに煌めく街灯も好きだけれど。
彼女に何度も助けられて、支えられて過ごした──この夜が好きだ。
自分の日常に、人生に、消えることの無い深い傷を負ったとしても。
それは今でも、変わらない。
「僕も、お前のことが大好きだ」
一言だけ、短く僕もそう返した。
──彼女に負けないくらい、力強く。
初めての小説作品「夜の國」完結です。
ありがとうございました。
これからは他に力を注ぐので、そちらもよろしくお願いします!




