死
鎌田 爻は──。
『鉄血』を構えて突っ走ってきた僕を目前にしながら、微動だに動こうとはしなかった。
ただ腰に手を当て、ニヤニヤとこちらを見下ろしていたかと思えば、突如。
爻は、手刀で自分の手首を切り裂く。
「──!」
僕はただ驚愕した。
この"手法"──否、この"手刀"は見たことがある!
というより、厳密に言うならば"やったことがある"だった。
爻は手首から溢れ出した血を瞬時に変化させ、サーベルのようなものを構えた。
いや、あのチャラチャラした奴がサーベルを構えること自体おかしくて、似合うはずもなかったのだが、それを言えば日本の男子高校生であるはず(見た目的に)のこの僕が日本刀を構えているのも、似合うわけが無いのだろう。
お互いの身体が動いた。
駆け出す、跳び交う。
僕ら二人の動きはまるで同調しているかのように、全く"互角"、埒の明かない死闘を延々と演じ続けていた。
「演じ続けていた」というのは、ここで爻は未だに本気を出していないことを理解していたからだ。
現に彼の顔には、気持ち悪い薄ら笑いが貼り付いていて、ヘラヘラと、またニヤニヤと僕を見ている。
「やっぱり若いよねえ、高校生はさあ。」
と、おちゃらけた台詞を投げる。
「うるせぇっ、黙れぇぇぇぇぇぇっ!!」
僕は昂りを抑えるつもりも隠すつもりも無く、咆哮する。
咆哮して、握りしめている太刀を振り回す。
なのに。
その刀身は彼の身体に近づくと、即座に跳ね返されるのだ。
"攻撃出来ない"。
あの時、爻が言ったのは、本当のことだった。
「うおおおっ!」
「もっと狙いを定めろよ、言ったろ?俺は生きているマンイーターなんだからさ、斬撃を喰らえば首が吹っ飛ぶんだぜ。」
あの時冗談として扱った話も、(冗談みたいではあったが)本当の事らしかった。
「──まあ、喰らわないけどさ。」
そういって、爻は僕の腹にサーベルを突き刺す。
「ぐっ…!」
当然、腹からは出血し、動きも瞬間、停止した。
しかしこの激痛には──(悔しいが)もう"慣れた"。
腹部に突き刺さった刀身を固定したまま、僕は腹から溢れる血液を変化させ──大鎌を作り出した。
「『人喰い』ッ!!」
出雲と戦った時に作り出した鎌だった。
刀身を無視して間合いを詰めた、この距離なら届く──!
大鎌を横に勢い良く振り抜いた。
決まった──!
爻は『怪物』を幾度と無く狩り続けていたマンイーターだが、"生きている"。攻撃を喰らわない代わりに、マンイーター最大の特徴である、"不死性"を犠牲にしていた。故に、僕の大鎌を喰らって、『こいつは死ぬ』!
が、しかし。
爻はあろうことか、僕の血液を利用し、反対の手に『鉄血』を創ったのだ。
腹部にサーベルを突き刺したまま、横から鎌と同じ要領で『鉄血』を振り抜く。
僕の視界は、ぐるりと回って、そのうち真っ暗になった。
頭が吹っ飛ばされたのだ。
もちろん即座に再生するが、腹部を貫通する痛みには慣れても、この気味の悪さにはなれなかった。
「ちくしょう、マジでキリがない──!」
不死性を犠牲にしているとは言えど、攻撃を喰らわないならそれは不死と同義だった。
ならば、次の策だ──!
「『復讐』ッ!!」
八代がやったのと同様(あれは植物だったか)、血液を用いて普段の何倍もの大きさとなる巨大な剣を作り出す。
それを思い切り振り下ろす。
「うおおおおおおおッ!」
だがしかし、またも爻は容易く刀身を跳ね返してみせた。
僕は駆動して、蜜の戦闘から見よう見まねで習得した格闘法を試しても見たが、まるで通用しなかった。格闘技に至っては、八代よりも豪快で、蜜よりも靭やかで、出雲よりもバランスが整っていた。
そのうち体力の尽きた僕を、爻は軽く駆け寄って、頭上にサーベルを突き刺しそうとする。
その後は多分、回復しきれないように、細切れにでもするんだろう。
無理だ。
対抗できない。
抵抗できない。
何をしても──敵わない。
負けた。
僕はこれから、死ぬ。
死んでも死にきれないような身体で、死ぬ。
今は何時だろうか。
既に相当な時間が経過したはずだ。
咲はどうしてるんだろう。
両親はどうしてるんだろう。
学校の皆は。
クソ…。
「人間嫌い」だったはずなのに、死に際だって時に…どうしてこんなにも、皆が愛しいんだ?
「自分嫌い」だったはずなのに、不死身だったはずなのに、こんな時に、どうして……
『こんなにも、命が、惜しいんだ?』
爻がものすごく眩しく見えた。
サーベルの刀身の輝きだろうか。
或いは、『鉄血』のものだろうか。
しかし違った。
僕は寸前、目を覚ます。意識を醒ます。
爻の全身は、ありえないほどに、分からないほどに、"燃えていた"。
──昇ってきた朝日に、焼かれていたのだ。
「死ンダ身ニアラズ」。
やはりあれは、嘘だったか。
爻も僕と同様、既に死体として(人間的に)、怪物として生きていたのだ。
いつだかの後書きで書いた、"これからの予定"。
あれは取り消しますごめんね。
これからもよろしくお願いします。




