四話 名づけ
出産から多分2か月くらいが経った。
正確な日付はわからんし、毎日のように意識が戻るという訳でもないので(赤ん坊の脳の限界だと天使は言っていた。)日を数えることもできない。てか、目すら大きい物体以外は見えないし、手足はおろか首を自力で支えることもできない。要するに首も据わっていない状態なのである。当然自力で何かできるわけがない。ただ、聴覚だけはしっかりしていて周りの音はよく聞こえてくる。そして、意識が目覚めた時はほぼ全時間を言語学習に投資していた甲斐もあり、難しい言い回しとか全く知らない単語が出ない限り大体のことは分かる様になった。で、母と父と思わしきものの会話を聞きながら情報を集めた結果、どうやら俺のこの世界での名前はドゥールらしい。家名はない。平民だからである。父は衛兵で母は専業主婦…みたいなものではあるが、この世界での専業主婦は織物とかを作って市とかで売るらしい。家内工業である。
ちなみに両親の名前は知らない。お互いあなたとかダーリングとかで呼び合ってるので名前は聞いたことがないからだ。で、この三人家族が住んでるここはフランドル領の領都、ルリューセルだ。ベルギーと関係が疑われる名前だが…まあ、偶然だろう。このフランドル領は、フランドル伯借が治める土地で、広い平野地帯がに位置しているみたいである。なぜそれが分かるのかというと天使さんに聞いてみたからだ。益々ベルギーとの関係性が疑われるところだったが、海とは接してない内陸地方である。この立地のおかげで、豊かな穀倉地帯となって、ここベレルクス王国の食料を支える地域となっている。
(―――とここまでは聞いたけど、これって当たりくじ?それとも外れくじ?)
「どちらかというと小吉みらいな感じですかね。当たりあたりですけど微妙って感じの。」
どうやらよくも悪くもないらしい。まあ、平民だしそれなりに豊かな地域で生まれたから外れでもあないか。それでもよく小説に出てくるような貴族の家に転生とかじゃないから少し苦労しそうな感じだな。これは処遇改善のために頑張らないといけないパタンだ。
(と言っても今できる事って、言葉の勉強くらいしかできないけどな。俺の自我がずっと保てられるようになるのっていつくらい?)
「そうですね…まずは徐々に増えていきますが、完全に自我を保てられるのは2歳過ぎてからでしょうか。普通の子供が自我が芽生えるのってそれくらいなので。」
って、ことはそれまでの間はこんなとぎれとぎれの状態が続くという訳か。こればっかりはどうしようもないしな。
(って、いつも天使さん天使さんと呼ぶのもあれだし、君にも名前を付けようと思うんだけどいい?)
もし、名づけとかが神以外は出来ないとかだと、ずっと天使さんと呼ぶしかない。てか、その可能性って結構高いしな。だって、天使だから。
「別に構いません。名づけられたことによって神格が元の主様から離れる事になりますが、主様からはドゥール様に仕えるように言われているので、私に対する全権限はあなたがお持ちです」
え?神格の分離?それって結構やばいんじゃね?…まあ、良いや。もし、ダメだったらちゃんと制限つけてるはずだしね。別に構わないからこんな風にしたんだろう。何十億年も神やってるし。
(そうな…じゃあ君は、これから空だ。天使は天の仕いだし、これいいんじゃないかな?)
ちょっといい加減すぎるかな?
「はい。では、これからは空と、名乗らせていただきます。ドゥール様。」
こうして俺は、助っ人の天使に名づける事であった。…これが後でどれだけの影響を生むかも知らずに。