1-2.生徒会長 朝比奈美織。
「・・・それで?何で昼休みが終わっても屋上で居眠りしてたのかな?」
「・・それは……その……申し訳ございませんでした。」
屋上で姉からの呼び出しをうけた俺は、何とか20秒以内で生徒会長室にたどり着き、先ほどから正座で生徒会長様からの尋問に答えている。
さっきから口調や顔はにこやかだが、俺には恐怖でしかなかった。
なので、ここは誠心誠意込めて謝るしかない。ここで変な言い訳を並べようものなら後が怖い。
我が姉こと聖嶺館学園生徒会長の朝比奈美織は、素行不良や服装の乱れ、生活態度の悪さにはものすごく厳しい。
なので学園内外で問題や騒ぎを起こす生徒はほとんどいない。
これも学園創設以来の才女と呼ばれ、学園の全生徒からの信頼も厚い彼女にしかできないことだろう。
「……まあ・・ハル君もわざと授業に出なかった訳じゃないだろうし……今回だけだよ?」
そう言いながら微笑む我が姉。そんなに怒っていたわけではなかったようだ・・・。
・・キーンコーン・・カーンコーン・・・・・
「5時間目の授業終わったみたいだね。ハル君次の授業何かな?」
「……確か数学だった気がするけどそれがどうかした?」
「じゃあ途中の教室まで一緒に行こう?」
「分かった。それじゃ行こうよ。」
そう言いながら姉と共に生徒会長室を出る。はあ………お説教だけで済んで本当に良かった。これからはアラームの設定しっかりしよう………。
そんなことを思いながら姉と廊下を歩く。……………………ちょっと待て。距離近くないか???
「あ、あの……会長?歩きづらいのでもう少し離れてくれるとありがたいんですけど・・・・」
「もーーー!!それだよそれ!ハル君!!」
「はい?それってなんでしょう?」
「何で私の事会長って呼ぶの!!お姉ちゃんって呼んでよー!!!」
そうなのだ。俺は、学園では姉の事を「会長」と呼んでいる。
恥ずかしいから呼べないという理由もあるが、これは俺なりの公私を混同させないけじめなのだ。
「いや……でも会長は会長ですし・・・・」
「ふーーん……呼んでくれないんだ?へーー……そうなんだ?」
「あ、あの……会長?顔怖いですよ?」
急に目のハイライトがなくなったかと思うと、俺に飛びついてきて・・・ってええええええ!!??
「言うこと聞けないハル君はこうしてやるーー!!!!」
そう言いながら会長は俺の腕に抱きついてきた・・・・・・ってええええええええええ!!!??(2回目)
「うわっ!!!は、離れてくださいよ!!会長!!!」
「やだもーん!ハル君がお姉ちゃんって言ってくれるまで離さなーい!!」
いつもの生徒会長として生徒と学園をまとめる凛々しさはどこへやら。今は、駄々をこねる子供のようだ……。
「離してくださいってば!!会長!!」
「やだー!!私会長じゃなくてお姉ちゃんだもん!!」
いや・・あなた会長ですよ?って・・・・その女性特有のふくらみを押し付けるな!!!
幸いまだ他の生徒からは見られていないが、見つかるのも時間の問題だろう。
こんなところを他の人(主に男子)に見つかれば間違いなくフルボッコにされてしまう!!
そうなのだ。この姉、身内のひいき目なしでも超絶美少女なのだ。
学園の男子からは、「聖嶺館の女神」とか言われていて、会長と話せたその日一日はハッピーな気分になれるとか男子の中では騒がれている。
もちろん、俺がその会長の弟だという事は全生徒に知られており、男子からは羨望と嫉妬の対象になっている。
どうにかして会長を剥がそうと頑張るが、ピクリとも動かなかった。
しかもチラホラ他の生徒が移動し始めている・・・・これはマズい!!!!
「フッフッフッフ・・・」
しかもその元凶の姉は、もう逃げ場がないぞ・・・という感じで不敵に微笑んでいた。
マジか・・・・・言うしかないのか・・・・
「わ、分かりましたよ・・言いますから!!」
「じゃあ、はやく♪はやく♪」
「ね、姉さん・・歩きづらいから離れてほしいかな?」
何故家では普通に呼べるのに学園ではこうも緊張してしまうのだろう・・
しかし姉は満足してくれたらしく、腕を解放してくれた……。はあ……どっと疲れた。
「出来ればお姉ちゃんの方がよかったけどまあいいや・・合格だよ!ハル君!!」
「ありがとうございます。会長・・」
「あー!またすぐ戻った!!まあ今回は会長以外で呼んでもらったし満足満足!!」
そう言いながら会長は、くるりと一回転して
「それじゃあハル君?もう授業遅れちゃだめだよ!!じゃあがんばってね!!」
そう言って3階の自分の教室に戻っていった。
「たまには、学園でも姉さんって呼んでみようかな・・・」
そんなことを言いながら、俺は自分の教室に戻るのだった。