アジトでの取引
――敵アジトの中
「おかしいな……」
アジトの中を走り回っている船長は静かにつぶやく。今は少し探索をやめ、様子を見ている最中だ。
「どうしました船長?」
仲間の一人が話しかける。手練れの一人、ムックだった。
「このアジトの規模からして、もっと警備のやつらがいてもいいはずだ……。人がいなさすぎる」
ムックはそれを聞いてうーんと考え込んだ。
「そうですな。確かにおかしいですな」
そんな話をしていると、近くから人の話し声が聞こえてきた。
船長は十数人の部下に静かにするように合図をすると、何人かを引き連れてその声の方へと近づいた。
「おい!戦況はどうなっている!?」
声が聞こえる。
「やつら船二隻で乗り込んできて、港をめちゃくちゃにしているって話だ」
さらにもう一つ声色が加わる。
「しかも船で迎撃していった奴らも全滅だって話だ」
合計で三人いるようだ。
「それ本当か!?」
最初の声の主が応える。
「それじゃ奴ら、もうこの辺にいるのかもしれないな」
「どうする兄貴?」
兄貴と呼ばれた方は答える。
「決まってんだろ。今すぐ相手の船長さんにあって俺たちの命を助けてもらうんだ」
「なるほどそれは良いアイデアだ!」
「さすがあんちゃん!」
「それではその会話に加わらせてもらおうか」
船長は手練れの仲間とともに突如現れ、会話に参入する。三人組は「ひぃ!?」と情けない声を出して驚いた。
「お前たちを助ける。その代わり一役演じてほしい」
「な、なんですか?」
船長は周りを見渡して少し小声で話をした。
「捕らえられている者達の見張りを追っ払ってほしい。適当な嘘でもついて」
話が終わると兄貴と呼ばれた人物は顔をしかめる。
「はぁ、船長さん。そいつはできねぇ相談だ。もしばれたら俺たちは殺されちまうじゃねえか」
「こいつ……!船長に向かって……!」
手練れが殴りかかろうとするのを船長は制止する。
「そいつは残念だ。やってくれたらお前たちにはこれをやったのだが……」
船長はポケットから数枚の金貨を取り出した。
「これがあれば、数か月は食べ物に困らない」
それを見て兄貴と呼ばれた人物は目の色を変えた。
「……ホントにこれをくれるのか?」
「ああ、今これをやろう」
船長は兄貴に金貨を手渡す。それを見て兄貴はほほを緩ませた。
「よし。やってやろう」
「交渉成立だ。案内してくれ」
船長と部下たち、そして三人組は皆が監禁されている牢屋へと向かった。