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姫と海賊  作者: ベイリー
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お願いの中身

「どうした?」

船長はゆっくりと体をリースに向ける。

キロックは相変わらず手を船に向けているが、顔はそちらに向けている。

「どうかご助力を……この国の王であるアルテ王救出を、手伝ってはくださいませんか…?」

リースは頭を深々と下げた。

「我々はこの国から金品を略奪するために来たのだ…。その国の王を助けろというのか?」

船長は向き直って鋭い眼光をのぞかせた。

「私はこれから王の救出に向かおうと思っております。しかし、私の力ではどうすることも……」

「そこまでして王を助ける理由があるのか……?」

船長は腕組みをして構える。するとリースは顔を向け訴えかける。

「事情は言えませんが……私の大切な使命なのです。王を救わなければ、死んでも死にきれません。」

「…………」

船長は深く考え込み、手をあごにあてる。

俺たちは海賊だ。わざわざ手を貸す必要もない。

船長は目線だけリースに向けた。

「…………申し訳ないが……」

しかし、船長の口は止まった。

リースは目をうるわせながら船長を覗き込む。

「……だめでしょうか?」

その様子を見ていたキロックは、船長に近づいて耳打ちをした。

「船長。見とれてる場合じゃないですぜ」

その言葉にふっと我に返った船長は帽子をかぶりなおすと少々照れながら口を開いた。

「話を聞いてからでもよろしいか?」





船長とキロックは、リラをつれ、一度船に戻った。

リラを適当な部屋で待たせた後、

船長は、帰ってくる仲間を待った。


 待ち始めて15分後、続々と仲間が船に戻る。

しかし、笑顔で帰ってくるものは一人もいなかった。

「……ついにケネディ達は…………」

そんな事を考え始めていた折……

「船長ー!」

その声は遠くから息荒くやってきた。

「見つかったのか……!?」

船長が顔を上げる。しかし、走ってきた仲間の顔は笑顔ではなかった。

「船長。ケネディ隊長を探していたらこんなものが!」

そういってケネディが愛用していた青いバンダナを手渡した。暗くてよく分からないが、何かがついているようだ。

「これは……血か?」

ランプを持ち、目をこらす。バンダナはところどころ黒く染まっていた。

「はい。……これを見てください」

仲間は船長からバンダナを受け取ると、いつもケネディ隊長が使っているように折りたたんだ。

そこには血で文字が書かれていた。

「カミュラ……ということは隣国『カミュラ』の仕業か……」


 全員が船に戻ったことを確認すると、船長は海賊船をすばやく王国から離れさせた。

黒い海を切るように船は進んでいく。

船長室には、船長とキロック、そしてリースが同席していた。

船長は自分の椅子に座ると海図の開かれた机に手を付ける。

「座りたまえ」

キロックは近くにあった椅子を机の前に置く。リースは「ありがとうございます」と言うと静かに座った。

面と向かい合ったリースは船長の方向を静かに、だが強く見つめている。

「それではいろいろと聞かせてもらおうか。……まずどうして街が壊滅していたか」

リースは「はい」と答えると、胸に手をあてながら話始めた。

「これは今日のお昼の出来事です。カミュラの使節団がものすごい数の兵を率いて使者をよこしたのです」

船長は静かに指を組む。リースは続けた。

「使節団は王宮に入ると、すぐに王と面会しました。

同盟国という事と兵の多さから、おそらく敵国へ攻め込む際の拠点として利用させてほしいという内容だと王は予想していました。……ですが実際には違いました」

船長は静かにリースを見つめる。

「使者は王に宣戦布告の書状を渡すと、その場で襲い掛かってきたのです」

「なんと……」キロックは大きく口を開けた。

「同盟国がする事とはとても思えないな」船長も静かに付け加える。

「……カミュラの兵たちはそのまま城下を襲いました。家を焼き、市場を焼き、人を焼き……

国民は四散し、国の兵は統率がとれず……民や兵士、そして王までもが捕らえられてしまいました……」

リースはガタンと立ち上がると一段と強く船長を見つめた。

「どうかお願いです。このままでは王は殺されてしまいます……あなた達の力を貸してくださりませんか!」

船長は彼女をじっと見つめていたが、やがてキセルを取り出し火をつけた。

「まあまあ、落ち着てくだせえ。はい、ココアが入りましたよ」

キロックは海図の机にコップを置く。船長の前には湯気が一段と立つ紅茶が置かれた。

「落ち着けお嬢さん。まだ話は終わっていない」

船長はコップを持つと静かにすする。

「事情は分かったが……お嬢さんにはもう一つ聞いておかなくてはいけないことがある」

「……なんでしょうか?」

リースは少し困った顔をしながら席につく。

「お嬢さんは正体を隠している……その理由を教えてほしい」

「なっ!?」

リースはまたガタっと立ち上がる。

「何を言っているんです!?私は…えっと……そう! ただの国民よ!」

船長はキセルを加え、椅子に深く腰掛けた。

「普通の人間は自分の事を国民とは言わない…」

フーっと煙を噴き出すと細い目でリースを見つめた。

「それに、普通の国民が外交の席にいるわけないだろう。……どうなんだ?」

リースは唇をかみしめたが、ふっと息を吹くと、また座った。

「……それではお話します。私はアルテ国国王の一人娘『リラ』と申します」

「なんですと!!」

キロックは大きくのけぞる。

「……どうして正体を隠していたんです?」

「……それは……これでも王女ですから、危ない人たちに正体がばれないように……と」

船長は席から立ちあがるとゆっくりとドアへと歩いた。

「相手に助けを求めているのにその相手をだますとは……良い気分はしないものですよ。

……まあ今回は相手が海賊ですから、よしとしましょう」

ゴウン。

その時、大きな音とともに船は大きく揺れた。どうやら接岸の音らしい。

「さあ着きましたよお嬢さん」

ギィっとドアを開けると、まぶしい朝日が室内に差し込んだ。



「船長さん……ここって」

船から降りた王女リラは、船長の元へと駆け寄る。

「海賊の街とも呼ばれている港町、『トロイヤ』だ」

その言葉にリラは大声をあげる。

「まさか……!!海賊達のたまり場である危険な場所に……!」

「まあまあ、そういいなさんな。海賊からしてみると、よいところですよ」

その言葉に、後ろで荷物を降ろしている仲間たちも笑い始める。

「……やっぱり海賊を頼ったのは間違いだったかも……」

「まあまあ慌てるな」

船長はキセルを取り出すと、フーっと一服した。

「お嬢さんのお父上……王様さん、と同じ奴らに俺たちの仲間もとらわれている。焦る気持ちはよく分かるが、情報もない状態で行くのは賢明とは言えない」

船長はコツコツと歩き始めた。

「お前たち。次の航海の準備と隣国の情報を頼む。夜には戻る」

ヘーイ!と言うと海賊達は一斉に行動を開始した。

「あーそれから、お嬢さんに似合う服も頼む。……ドレスじゃ動きにくいだろう」

海賊達はにやにやとするとまたヘーイ!と返事をした。

リラは昨晩逃げるために騎士の恰好をしていたため、鎧の下に来ていた王宮のドレスしか着るものがなかった。仕方がないので今はドレスを着ている。

船長はリラに向かって手招きをした。

「あの方たちに服を頼んで大丈夫でしょうか?……失礼ですけどちょっと心配です」

船長は近寄ってきたリラを覆うように手をまわす。

「……少なくとも着れるものは持ってくるだろう」

「…………」


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