お寿司
寝ようと思っても寝つけない、それが『傷心』
布団に入って目を閉じて一時間以上経過しました。暗いとね、嫌な思い出が頭の中を駆けめぐるのよ。過去はトラウマ、未来は不安。現在が一番だわ!私は今を生きる女!
とりあえず眠くなるまで本を読むことにしよう。
兄の部屋に本を取りにいく。兄は読書家だった。乱読派?っていうのかな?何でも読む人だった。
絵本から洋書、漫画から専門書。読まないのは空気くらいなものだった。
過去形ばかりなのは、もう兄はいないから。
交通事故で何年も前に他界してるんだ。他界って言葉を使うのは、『他の世界』異世界とかに召喚されてれば良いなぁって考える、私の自分を慰める為の言い訳です。
さて、今日は料理漫画にしようっと。
私は料理が好きです。作るのも食べるのも。だから学生の時は飲食店でバイトして、高校を卒業してからは、調理師として働いてたんだ。
2年勤めて調理師免許をとって、これからって時に最初の発病。この勤め先はここで退社したんだ、迷惑をかけちゃったら嫌だから。
何とか治して再就職先が暗黒企業!
『医者の月の労働時間は300時間を超えます』って、過剰労働のCMを見たとき、「全然、働いてないじゃん!」って、1人でイライラしながら怒鳴ったのも、なかなかのトラウマな思い出だよ。
しかも給料で考えたらお医者さんは当時の私の3倍は貰ってるはずだし┅。
その暗黒企業の労働時間は月に380時間!月給22万でボーナスはもちろん、福利厚生一切なし。健康保険も国民年金も全額自分で払ってました。
先輩に訴えましょうと言っても、「ここしか勤め先がない人もいるから、我慢してあげよう」と諭されて、諦めて働いてたんだ。
そんな激務に体がもつわけもなく、過労で病院に運ばれて仕事を辞めて、せっかくパートについたのに病気の再発を確認って流れ┅。
料理漫画の表紙を見ただけで、ここまでトラウマを引っ張りだしてしまった┅さすが『傷心』
でも、本は楽しく読まないと!主人公のお寿司を審査員が柏手を打ちながら食べているところで眠くなったので、目を閉じることにしました。明日はお寿司を食べよう┅回るやつ┅。
起きてからお出掛けの準備をして、軽く朝食を済ませてから昨日の本の続きを読む。将太くん、寿司コンクール優勝おめでとう┅。
バカな事を考えてるうちにアイリが迎えにきた。
『ドドドドドドドドド』凄い排気音でアイリの車は近くに来るのがわかる。
アイリは「すいへいたいこうエンジンのふとうちょうパイプが奏でる排気という名のハーモニーは、ある意味メーカーのカタルシスが┅」みたいな呪文を、酔っぱらうと唱えだす。
「おまたせー、どこかで昼御飯食べてから温泉行こう」
アイリが予想通りのセリフを言ってくれたので「お寿司、食べよ!」って、決めていた未来に一歩ふみこんでみた。
「昨日、食べたんだけど┅」
「なん┅だと┅」
私はきっと、この世の終わりみたいな顔をしたんだと思う。だからすかさずアイリが「いやいや、アリスが食べたいなら問題ないから!僕は毎日お寿司でも良いし!僕はアリスのお祝いのために来てるんだしっ!」
なんて良い友達!そして私の執事!
「さぁ行きましょう。早く私をエスコートするのです」
「イエス、マイ、ミストレス」
あれ?そんな文法あるのかな?なんて考えてる間に助手席のドアを開けてくれたので、私は遠慮なく乗り込んでみた。地面が雪で滑るからと、手まで貸してくれた。私を嫁に貰ってくれないかなぁ。
アイリの車は、少し古めのインプレッサ。アイリには250psくらいが扱いやすいらしい。
「私、聴きたい曲あるんだけどCD代えていい?」
「いいよ!アリスのことだからアニソン?」
「いや、今日はゲームサントラ!」
「それ、何が違うの?」
「んー、カテゴリー?」
こんな会話をしながら車は横を向きながら前に進んでいる。ドリフトってやつ?最初は怖かったけど今は馴れました。
道路交通法?アイリは冬道とサーキットくらいしか、こんな走りはしませんよ!夏道だとスピード違反になるみたい。今もスピードメーターは100キロ近いけど、速度を測定すると60キロ弱らしい。
「走行車線で横を向いてはいけません。なんて、法律はない。法の穴をついた華麗な走り、ふふふ」これがアイリの言い訳。
私は危険走行になると思うんだけど┅。
軽快な音楽と共に、私達はお寿司屋さんに突き進む!
ありがとうございます