B-2. 銃使いの惨敗 その1
Bは基本Aよりも短めです。
水増ししたくなったら随時する形で。
『セイジは敵 (ラージラット)に倒された』
あの後再ログインしたセイジ。その理由が『まだ二時間しかたってないし、他の昼寝スポットを探そう』というくだらないものであった。ちなみにこの二時間とは現実での時間であり、ゲームの体感時間は違う。現実での一日がゲームでの二日にあたるのだ。セイジが昼寝のためにこのゲームを始めたのも二倍寝た気になれそうだから、というものだ。
「よっと」
泉から出たセイジは、神殿の外の崖から飛び降りる。これがログイン方法だ。神殿は空中に浮かぶ島にあり、異界種はその下にある大陸リュエンドクライムに降りる、という設定だ。
(銃弾が切れちゃったからリロードの仕方くらいは調べないとなー。出来なかったのは、焦ってやり方間違えちゃったのかな?)
ちなみに、最初の昼寝による死亡除き、死んだのはこれで三回だ。一回目は奇襲され焦って攻撃を外しまくった。二回目は敵が二体出てきて対応を間違えた。この草原に住むネズミは群れで行動しないため、三つ巴の戦いになった。しかし、どちらのネズミを先に倒すか迷い均等にダメージを与えてしまったため、二対一になってしまったのだ。
そして、三回目は銃弾が切れて手も足も出せなくなったためボコボコにされたのだ。予備のマガジンはある。しかしリロードできなかったのだ。
再ログインしたセイジは鍛錬所に行った。そして練習用の銃でリロードの仕方を確認していると、先ほど話した職員が声をかけてきた。
「何度か門を出た姿を見たんだが、死んだのか?」
「ああ、最後は銃弾が切れてな」
セイジのその言葉に職員は少し気まずそうな表情をした。そして、躊躇いがちに口を開いた。
「銃は町でしかリロードできないぞ、あるいは専用のリローダーが必要だ」
その銃は専用のリローダーはないという職員の声にセイジは黙り込んだ。
(よかった、リロードの仕方は間違ってたわけじゃかった!)
セイジは喜んでいるが問題は一つも解決していない。リロード方法の確認しに再ログインしただけだったため、職員に礼を言うとそのままセイジはログアウトしたのだった。
そして次にログインしたのは二日後だ。セイジは鍛錬所に行き、初期装備の一つの短剣の素振りを始めた。
「……初回以降に来る奴久々に見たわ」
「迷惑だったか?」
「閑古鳥ないてっから問題ないさ」
前と同じ職員がセイジに声をかける。セイジは素振りを続けながら答えたのだった。黙々と素振りを続けるセイジに職員は「たしかセイジって言ったな。俺はジョイスだ」と名乗った。そしてセイジの振り方に甘い所があると指導を始めたのだった。
「ところで、サブは何選んだんだ? 誰でも装備可能な短剣よりサブ職の武器の方がいいだろうよ」
補正と指導のおかけでそれなりに形になってきたセイジにジョイスは尋ねた。それにセイジは考える。セイジの初期武器はオートマチック銃とこの短剣の二つだけだ。
「サブは格闘家だな」
このゲームはメインジョブとサブジョブと呼ばれるものを設定する必要がある。セイジはメインジョブに銃使いを選んだ。たまたま見たドラマの登場人物が銃を撃っていて格好いいと思ったのだ。銃を使う人物は体術も出来るというイメージから、セイジはサブジョブに格闘家を選んだ。
「馬鹿かてめぇは、格闘家が装備出来るナックルは両手武器だぞ。銃使いが装備できないものだろーが」
あきれた様子のジョイスに、そういえば『相性の悪い組み合わせです。このまま決定してよろしいですか?』とジョブを選ぶ際に言われたことをセイジは思い出した。完全に自業自得だ。
「まあ、いいんじゃないか?」
「いや、よくねーからな」
特に気にした様子のないセイジにジョイスは肩を落としたのだった。
冒険者ギルドに戻ったセイジは一つ困った状況に陥っていた。
(収支マイナスだなぁ)
敵を倒して得られる金より、払う銃弾の金の方が多いのだ。セイジは気づいていないのだが、銃使いという職業は不遇という扱いを受けている。銃は町などのセーフティエリアでしかリロードが出来ないのに対し、弓はそういった制約が存在しない。
他に銃はプレイヤーの能力に一切威力が影響されないという問題があった。強い武器を手に入れないと最終的に火力不足になるのだ。そして、最高の威力を持つ銃でも中盤エリアまでしか通用しないのだ。始めたばかりのセイジにはまだ関係の無いことだろう。
「あっいたー、変な服のだ!」
「うん?」
前回ログインした時に出会った妖精がセイジの目の前に張り付いた。そして帽子を思いっきり下げる。
「どうしたんだ?」
「えーとね。豆貰ったお礼するの忘れてたの」
妖精は豆を貰った場合は礼として耳よりの情報を教えるのだと胸を張った。丁度いいところに来てくれてたものだとセイジは先ほどの悩みを妖精に打ち上げた。
「銃弾よりも安い飛び道具で私に扱えるものは、ないだろうが……」
「あるよ?」
その言葉にセイジは思わずガッツポーズをした。




