A-2. 銃使い、町に到着する その1
そろそろ週末一つ更新になりそうです。見切り発車で始めてストックない。
『それ』は思考する。『それ』に来世などなかった。消滅するまでただ揺蕩うだけでよかった筈だった。
転生。そう呼ばれる現象の発生させるにはいくつかの条件があった。魂に異常が出た場合、転生は出来なくなってしまう。まともではなくなった『それ』も転生できなくなる筈だった。
(これから先、『私』はどうすべきか)
白くない見慣れぬ空を眺めながら、『それ』は思考する。新たな終わりを夢見ながら——。
——微かな害意を感じ、セイジは飛び起きる。何も見えぬほどではないが辺りは暗い。まだ日は昇りきっていないのだろう。セイジは焦りを押さえつつ害意を感じた方へとゆっくり歩み寄った。
(ああ、そういうことか)
目に映ったのは、蛇がネズミを丸呑みにする光景。害意はセイジたちに向けたものではなかった。
下手に刺激するものではないだろうと、セイジは先ほど眠っていた場所へと戻った。外套を被り丸まっているカーラがセイジの視界に入る。
(起こさないようにしないと) 物音を立てぬよう気を遣いながらセイジは腰を下ろした。中途半端な時間に目が覚めたからか、眠気が消え去ったセイジは天を仰ぐ。
(森なんて、現実じゃあ見上げなかったなぁ)
森に行く機会が全くなかったわけではない。ただ、足下か真正面くらいしか見なかっただけだ。セイジはぼんやりと葉の間から覗く茜色を見つめる。
(朝焼けと夕焼けって、色が違ったりするのかなー)
そして、ものすごくどうでもいいことを考えていたのだった。
そこそこ明るくなってから、セイジは一つあくびをするとホワイトドラゴンズにログインした時の日課を始めた。
顔を洗うために『魔法銃:青燕』で水球を出す。次に小振りのナイフを出し、慣れた手つきで髭の手入れを開始する。現実では出来ないことだったためか、セイジは髭に妙な拘りを持っている。逆に髪は伸びすぎてから切りに行っていたがさつさが反映されているのだから、見た目に対する拘りがセイジにあるのかというと疑問が残る所だ。
セイジが髭の手入れを終えた頃、カーラも目を覚ましたのか猫のように大きく伸びをしていた。
「お早う」
「おはようございます、セイジさん」
セイジが新たに水球を出すと、カーラは礼を言い顔を洗った。
「朝ご飯用意しますね」
「わかった、鍋は持っているからスープとかあれば嬉しい」
「本当ですか、じゃあそこにおいてください」
(ゲームと同じノリで出したけど、何も言われないなー。カーラもそれっぽいの身につけてるし、この世界にもあるのか、タグは……)
タグ、それは特定の物質を混ぜた金属のことを指す。通常時は武器や道具などの姿をしているのだが、小型の金属片ほどの大きさに変え持ち運びすることが出来る。やや具体的なサイズを言うと名刺を横に四つ折りにしたくらいだろうか。厚みは硬貨ほどで、うっかり無くしてもおかしくはない小ささだ。
タグのおかげで重い物を持たずに活動出来るため、ほぼ手ぶらでいられるのだ。問題点があるとしたら、金属を混ぜることができない場合は使用できないということだろう。そのため、食料や布、木製品などはそのままの大きさで運ぶ必要がある。
食事と片付けが終わり、二人は出発した。カーラの話では、日が暮れる前には町へたどり着くそうだ。
道中。カーラは沈黙が苦手なようで、ぽつりぽつりとセイジに話しかける。対するセイジは会話がないことを苦に思わない質なのか、相づちがほとんどだ。セイジの場合、話に出して良いものがわからないという理由もあるのだろう。
「セイジさん、魔法について聞いてもいいですか?」
話題が尽きてきたのか、カーラはセイジに質問をすることにしたようだ。といってもカーラはセイジのことをほとんど知らない。そのため、たまたま見る機会のあった魔法について聞くことにしたのだ。
「別にかまわないがつまらないと思うぞ」
「え、いいんですか!」
魔法の使い手に会ったことがなく駄目で元々というつもりで聞いたカーラは、あっさりと了承したセイジに驚いた。
「あれは、正確に呪文さえ唱えられれば誰でも発動できるからな」
ゲームで使用していた魔法がこの世界でも発動できたため、セイジはゲームでの魔法に関する知識について話し始める。
「少し真面目に話すなら魔力についてからか。あれは別名『余剰生命力』と呼ばれる。生きるために必要な力というのは、食事や睡眠などで生産されていくのだが、必要最低限よりも多く作り出されるようになっている」
「余った生きる力が魔力なんですか?」
「ああ。だから必要以上に魔力を使いすぎると死ぬ」
「え……」
セイジの話が意外だったのかカーラが固まった。魔法自体がなじみの薄いもののためか、イメージが湧かないようだ。
「魔法を使うヒトって、そんなに危ないことをしているんですか?」
「死ぬ前に意識を失うから、そう滅多には死なないらしいぞ」
(加減全然わからなくて、私は何度も死んだけどねー)
ゲームではない以上話すべきではないだろうと、セイジは口を閉じた。ホワイトドラゴンズは、他のゲームでありがちな体力や魔力の可視化を一切行わなかった。現実っぽくないからというくだらない理由だ。そして、その不親切さがリアルっぽいと好意的に見られていたのだから、ゲームのはやりというものはよくわからない。
「まあ、魔力については置いておいて、呪文の方を話すか」
「さっき誰でもできるって言ってましたよね」
「ああ、魔法学のことはほとんど理解できていないが、簡単なものは私でも使えているからな。ただ使うだけでいいなら教えるが、覚えてみるか?」
先ほどセイジは正確に呪文を唱えられれば魔法を発動出来ると言った。その正確に唱えるというのが鬼門なのだが、そのことにセイジは気づいていなかった。カーラは水球の呪文をセイジに教わったが町に着くまでに一度も成功させることはできなかったのだった。