B-1. 銃使いの初回 その2
こっちはギャグ(?)っぽくしたいですね。
そこそこスムーズに動けるようになったセイジは町の外へ出た。セイジは鍛錬所の職員との会話を思い出す。
(町の外周辺は大きいネズミとか大きいバッタが襲ってくるんだっけ)
敵性生物の名前を覚えられなかったため、おおまかな特徴だけをセイジは覚えることにした。敵はどういう風に出るのだろうと考えながら、道を外れたセイジは適当に町を背に向け草原を歩く。
「うわっ」
数分歩き、セイジは背後から衝撃を受けて転んだ。敵に襲撃されたのだ。起き上がったセイジの視界に入ったのは大きなネズミだった。
(枯れ草と似た色でわかりにくい!)
セイジにとって幸いだったのは、ネズミの姿がよく見えたことだろう。比較的歩きやすい場所を進んでいたのがよかった。
慌てながらセイジは銃を出現させ撃とうとする。しかし、体制を崩したままであったせいか初撃を外してしまった。セイジはすぐに二発目を撃つ。シングルアクションだったのが幸いし、銃弾は反撃をしようとしたネズミを貫いた。しかし、一撃では倒せない。
「こなくそ」
体制を整えたセイジは、飛びつこうとするネズミを避けた。避けて当てられそうならば当てる。それを繰り返し、四度当てたところで、ネズミは倒れた。そして、光の粒子となって消え去った。
(えっと、もういない?)
セイジは肩で息をしながら辺りを見渡す。風によって草が揺れてはいるが、不自然な音はしないようだった。その様子にセイジは大きく息を吐いた。
(あー、しんどーい。でも目的のためなら仕方ないからね)
セイジはキョロキョロと周囲を見た。草の禿げた道から外れるように移動していたためか、他のプレイヤーの姿は見えない。そもそも、サービス開始から半年たっているので、得点があろうとも新規自体あまり多くないのだ。
(ここなら大丈夫そうかな)
そう考えるとセイジはおもむろに寝転がった。セイジはある理由でこのゲームを始めた。その理由はただ一つ。
(いい天気だなぁ。昼寝に最適だよ)
昼寝であった。セイジは子供の頃はともかく大人になってからはほとんどゲームをしなかった。しかし、VR機材は持っている。リラクゼーションソフトの利用のためだ。
リラクゼーションソフトなどのゲーム以外のものは五感縛りがほぼ存在しない。しかし、下手にリアルに作り込めるせいかボリュームが少ないという難点があった。VR機材の購入と共にセイジが利用していたリラクゼーションソフトはシチュエーションが二十種類ほどあったのだが、数年利用すればさすがに飽きる。
そう、セイジはリラクゼーションソフト代わりにこのゲームを始めたのだ。しかし、これはゲーム。敵も出てくるようなもので、昼寝をすればどうなるのか。
「……おや?」
目が覚めたセイジが見たのはホワイトドラゴンズのログイン画面だった。ログイン画面といってもそう呼ばれるのは昔のゲームの名残で一つの空間となっている。
神殿のような白い建物内部にある、蒼くきらきらと光る泉にセイジは沈んでいた。
セイジは泉から上がり、すぐに近くに表示されているログを確認する。
『セイジは敵(不明)に倒された』
どうやら、このゲームは死ぬとログイン画面に戻されるらしい。
――ログアウトした彼女を出迎えたのは、雀のような小鳥を模したロボットだった。
『信濃! どうだった? ゲームどうだった?』
「いや陽向、覚えていないからねー」
VRコンテンツの大半が、現実に記憶を持ち越さないように設定されてある。ネタバレ防止というわけではない。非現実が現実を浸食しないようにするためだ。
科学力が進み、人が管理されることが当たり前となった世界。高性能なAIの誕生は、人から人らしさを削る要因となってしまった。
人がしなければならない仕事はほとんど存在せず、家事など生活に必要なものもロボットが担当するようになっていた。
『あっ信濃! 小陰がね、体の洗浄終わってるからすぐ寝ても大丈夫だって言ってたよ』
「そっか。伝言ありがと陽向」
陽向と呼ばれたロボットが嬉しそうに羽ばたくのを見つつ、信濃はVR端末を外した。右耳に引っかけるそれは、起動鍵の役割をするだけであり、VR機材自体はあらかじめ頭に埋め込まれている。
(んー。何か忘れてるんだよなぁ。なんだっけ?)
一つあくびをしながら、信濃は寝台へと向かったのだった。