A-8. 銃使いが銃を握る日 その2
切り悪いですが、長くなったので分割です。
セイジが宿にいるときは大体アイテムボックスの確認や武器の手入れをしている。手入れはともかく確認の方はうまくいっていない。確認済みとそうではないものが混ざった状態となってしまったのだ。片付ける時に無造作に放り込むせいなのだが、そういう時はカーラが掃除をする時なので彼女も強く言えずにいる。
収納されやすい様に区分けされており、一応服や防具を入れる場所、食料や武器を入れる場所、タグを入れる場所、他消耗品を入れる場所となっている。ただそれぞれの場所で適当に入れてあるので、首飾りが防具に絡まっていたり、消耗品に至っては何がどの効果のあるものかも分かりづらい。
「オッサン、随分たくさん武器持ってるよな」
各職の初期装備があるからでは説明のできないほど、セイジが所有するタグは多い。その数、百は軽く超えている。ここにあるタグで武器屋が開店できてしまうほどだ。
「手に入れた覚えのない武器もかなりあるな」
「いや、それってどーなんだ」
レンが呆れた様子でタグを一つ摘まんだ。タグというものは武器以外にも、一部の消耗品、治癒陣と呼ばれる回復魔法のようなものもある。レンが今手に取っているのも治癒陣だ。
「オッサンって、サブは治癒陣士だっけ?」
「いや、格闘家だ。格闘家は自身対象限定だが治癒陣が使用可だ」
「へぇー。治癒陣って魔法の劣化って話聞くけどどうなんだ?」
ホワイトドラゴンズというゲームは職業に関するバランスはあまりうまくなかった。魔法が結構強く、銃使い、弓使い、魔法戦士、治癒陣士。これらは魔法士の劣化だと呼ばれていた。魔法というのが『正確な発音で詠唱するもの』であるため、全てにおいて魔法が秀でている訳ではない。ただ、前衛の時間稼ぎさえあれば後衛は魔法士で十分だという認識がプレイヤーたちにある。
「俺のパーティメンバに魔法士と弓使いの両方いたけど、魔法士は即効性に欠ける感じだったな。治癒陣士との違いもそうかな?」
「他人に使う場合は魔法とどっこいだったな。自身にかける場合はタグに魔力流すだけだから魔法よりも便利だ」
そんなものかとレンはタグを元の場所へ戻す。無造作に積まれた状態だったため、タグの小山が崩れた。
「オッサン、整理した方がいいぞ」
「整理はできていると思うんだが」
アイテムボックスの収納スペースを見てセイジは答える。レンが言いたかったのはタグに対して更に分けるべきだということだ。どんな種類があるのか山を崩しながら見ていたレンはふと思った。
「そういえばオッサンが銃を使ってる所、俺は見たことないんだけどさ」
その言葉に使った覚えがないなとセイジは感じた。最初に熊にぶっ放したあの一回のみだ。銃使いとはなんだったのか。
「音に引き寄せられたり、他が逃げ出したりと狩り向きではないからな」
銃弾などの消耗品は自動で生成されるお高いタグをセイジは持っているので問題は無い。ちなみに投げナイフも使い捨ての代わりに自動で生成されるタグを所持しているため、セイジはよくナイフを投げることが多い。
「オッサンが銃使ってるところ、見てみたいなー」
レンがそうぼやいたが、使う場面がないとセイジは一蹴したのだった。
その翌日、セイジはレンとカーラに引っ張られる形で町を出た。セイジは外へ出る準備を一切していない。荷物もレンが持った状態だ。
「何のつもりだ?」
「ほら、オッサンが銃使う所見てみたくてさ。魔化退治行こうぜ」
狩りで使うことがないと言ったため、こうなったのだろうか。セイジはカーラを方を見た。
「カーラはなぜだ?」
「えっと、レンさんから話を聞いて、私も見てみたいと思ったんです」
その返事にセイジは困る。セイジは強くはない。ゲームの時でもダメージが全く通らない敵の方が多かった。少なくとも格好いい姿など見せることは出来ないだろう。幻滅するだけだ。
それでも見たいという二人の好奇心を、セイジが押さえる手段は持ち合わせていなかった。
最終的にレンが倒したことのある『魔化』に絞ること、カーラはレンが守り、セイジの手に負えない場合もレンが解決するということで手を打った。セイジが二人を振りほどく手段を持ち合わせていないため、諦めた形だ。少し前に酒場で酔っ払いどもが行った腕相撲大会で、セイジはカーラにすら負けて最下位になったのだ。腕力で二人に勝つことはできないのだ。
「そういえば荷物はどうなっているんだ」
「ああ、安心してよ。ちゃんと全部『銃』にしてたから!」
レンが笑顔でそう答えた。セイジは『歩く武器庫』と狩人たちが呼ぶほど多種多様の武器を使用する。例外は弓で、セイジはあれだけはうまく的に当てることが出来ず諦めた。つまり、セイジにタグの組み合わせを任せると、銃を使わないまま魔化討伐が終わりそうなのだ。
セイジのタグホルダーには『リボルバー銃:黒狼』が三丁、弾の代わりに下級攻撃魔法を発射する『魔法銃:青燕』、バフ・デバフを発射する『魔法銃:白雀』の計五丁だ。セイジは『リボルバー銃:黒狼』を十丁ほど持っているのだが、同じ武器をたくさん用意する意味は無いとレンが思ったのだろう。セイジとしては換えの銃弾の入ったタグか予備の銃が欲しいところだが、二人が睨むため取りに帰れない。また、セイジが二キャラ目以降にならないよう指輪も没収されていた。
(なんで現実で『縛りプレイ』なんてものをしなきゃいけないかなぁ)
セイジはため息をついたのだった。




