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B-9. 銃使いの装備更新 その3

 目を開けたら牢屋に戻っている——なんてことはなく、セイジは鎖に巻き付かれた状態のままであった。時折高い金属音が響く。助けるとかなんとか背後から声をかけられていることに気づいた。

『目が覚めたか』

 頭に何かが当たる感触。本からは声色から腹を立てているであろう事が分かる。

『知識を直接渡したというのに、なぜわからんのだ』

「言い回しがまず理解できん。例の部分は、手順のみだからなんとかなるが」

 数学で公式の証明はできなくても、公式自体は使用できる。プログラムで誰かが作成した関数の中身を理解していなくても、それは使うのに必須なものではない。ただ使うだけ、それならばセイジにでも出来るような気がした。

 試しに何かやってみてはどうだろうか。そうセイジは得た知識から、魔力の操作がほぼ必要ないものを思い浮かべる。火の玉を出すものだ。火は水を陰に転じ、雷に傾かせ……と文章が浮かび上がってくるが、それを無視してどう操作するかだけ取り出す。

「うねーんでぐるんぐるんで……」

『待て、何をしておる』

「後は操作後の魔力で確定。『これより、存在の再構成を始める』」

 セイジが大気中の魔力を動かし、くみ上げた通りに火の玉はセイジの上にゆらりと発生する。火の玉が宙にあるのは不自然だと感じたセイジは、すぐに魔力のあり方を変える前のものに戻す。火の玉も始めから無かったかのように消え去った。

『な、な、なんで使えるのだ。理解せずに使えるものか!』

 本ががなり声を出しながらセイジの頭部に何度もぶつかってくる。何が問題なのかセイジには理解できない。ただ、敵を察知をするときにするように、魔力を伸ばし周囲の魔力を自身の支配下に置いただけだ。そして、それが普通ではないことをセイジは知らない。セイジに教えたものもわかっていないであろう。

『この我、古代魔法書の知を得たのだ。古代魔法の神髄は深淵に近きもの。なぜそちは狂わないのだ?』

 そもそもなんで狂うような知識放り込んだのだろうか、セイジは思わずじとりと本へにらみつける。しかし、本はセイジの様子を気にとめていないのかしゃべり続ける。

『ようし、本当に古代魔法を身につけることができたか、この儂が直々に見ようではないか!』

 セイジの右手が光に包まれた、と思えば見知らぬ指輪が右手の薬指に嵌まっていた。中心の黒く丸い石を囲むように、三つの石が正三角を描くように配置されている。そのうちの右下の石だけ赤く、他は中央と同じ黒い石が台座に嵌まっていた。

『これは禁術を習得したモノに与えられる証じゃ。右下は古代魔法……別名、代償法。魔力を、(おの)が命のかけらを代償として払い、世界を変革する法ぞ!』

「どうでもいいから、いい加減話してくれないだろうか」

 盛り上がる本へ水を差すように、疲れた声色でセイジはそう漏らした。項垂れるセイジに呼応するかのように、鎖はじゃらりと音を鳴らしたのだった。

 結局、セイジは助けに来たらしい男たちから救出されることになった。この場所は三色の森の更に南にある国境門だそうで、彼らは詰め所にいる兵士なのだという。本のある部屋に来た理由は、アリュゼアのギルドと連絡が取れ、セイジの釈放が決まったから呼びに行った所いなかったから、だそうだ。あの本は牢屋にいる魔法操作の才のある者を頻繁に連れ込んでいたそうだ。

「まあ、あなたに掛かり切りになっている間は、読んで狂う被害者がでなさそうでしょうし、いいでしょう」

 詰め所の入り口にて、門兵の代表だという男がニコニコという表情を作りそう言う。セイジの真横にはあの本『古代魔法書』がふわりと浮いている。本気でセイジに着いていく気らしい。セイジは諦めた表情で彼らに手を振り、背を向けた。

(なんだっけ、これ。呪いの装備ってやつなのかなぁ)

 ぼんやりと歩くうちに、セイジはあることに閃く。

「すまない、少しいいか?」

『ぬ? なんじゃ——』

 本はセイジに掴まれ、思わず黙り込む。セイジは無造作にアイテムボックスを出し、本を放り込んだ。

『おい、ちょっと待て』

 そして、アイテムボックスを収納した。声はもう聞こえない。

(これで昼寝の邪魔はされないかな、後で謝ろうっと)

 少しだけ、申し訳ないことをしたと思いながらも、セイジは自身の欲望を優先させるのだった。


「へぇ、それがこの本か」

「ああ」

 昼寝を終えたセイジはなんとなく酒場へ寄った。セイジとしては比較的珍しい体験をしたため、酒の肴くらいにはなるかと思ったのだ。両脇は双子の老人のフォルヴォールとカーンラッチェが陣取る。いつものカウンターで、セイジは毎回頼む度の高い酒で喉を潤していた。

「古代魔法、ねぇ」

 セイジの話を聞いて、何人かの常連たちが目を光らせた。最近、セイジが二キャラ目以降を作成し、新しい武器の使い方を教える機会はあった。しかし、ジョブというものは無限になければ武器の種類もそう多くない。鍛錬所に行き、セイジ()遊ぶネタが減ってきていると感じていたのだ。

 そこに、今回の古代魔法習得の知らせ。新しい遊び方に、誰がその恩恵を得るかで互いに牽制しあう。本はその様子にどん引きしたような雰囲気を放っている。

『良いのか? あれらは普通とは言えぬものぞ』

 本は角でセイジの頬をぐりぐりとえぐる。カップを持たぬ手で本を押しやり、なんてことのないように答えた。

「ヒトではないが、私に危害は加える気がないようだし、いいと思うぞ」

『待て、そちは本当に深淵を理解しておらぬのか? そちはそもそもアレを倒す……ひぃ』

 本は話を中断し椅子の下へ逃げ込んだ。もの凄い顔で本を睨んでいた彼らは、視線を感じセイジが振り向くころには表情を普段のものへと戻していた。

 少し長居してしまったと、セイジはログアウト後すぐにゲームを終了する。何かを主張するようにログが点滅していたことに、セイジは気づくことがなかった。

『<イベント>古代魔法習得 (不殺)を開始します』

『殺害数、または死亡数が一定値以上のため、習得に補正がかかります』

『セイジは深淵を覗いた』

『深淵を理解できなかったため、判定に移行しません』

『禁術:古代魔法を習得しました。

 ※こちらはアカウント共通で使用できます』

『終わらせる力を得たことに、ただただ期待を寄せる。死への好感度が上がった』

『深淵を覗く条件を達成しました』

『<イベント>深淵への誘いが開始されます』

次回以降のBパートは、やかましくなりそうです。

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