B-5. 銃使い魔改造計画 その2
鍛錬所に来たセイジが始めに行ったのは目隠しをすることだった。目には見えないものを理解する必要があるからだ。
「いいかセイジ。鍛錬所では致死の攻撃を受けても復活地点と呼ばれる場所へ移動するだけで死なない」
一言で表すなら『死んでも覚えろ』だ。双子の老人の片割れ、フォルヴォールが真剣を構えセイジに振りかぶる。もちろんセイジは反応出来ない。彼が説明した復活地点と呼ばれる台に移動していた。
「セイジ、どうだった?」
「何か当たった気がする」
「気のせいじゃない。ほら、次に行くぞ」
目隠しを外し先ほどにいた場所に移動するセイジ。そして再び目隠しをする。斬られる場所と復活地点の不毛な反復横跳びが始まったのだった。
さて、フォルヴォールが殺気や害意についてセイジに教え込もうとしているが、その彼と仲の悪いディダイアはある方法で索敵をさせようとしていた。それは——
「魔力操作?」
「この世界は全ての存在に魔力が含まれている。魔力を操作し、感知できるようになればいいってことさ」
またもや目には見えないものだ。そもそも魔法に長けた職業ではないセイジに適性はない筈だ。そう伝える前にディダイアはセイジの手をとった。
「今から魔力を流す。大丈夫さ鈍いセイジなら」
「あの、ディダイア。それは止めた方が……」
双子のもう片割れのカーンラッチェが止めようとするが遅かったようで、ディダイアとセイジの手が淡い朱色の光に包まれた。その様子をぼんやりとセイジは眺める。
「どうだ?」
「……ぐるぐるはしている」
平気そうなセイジに双子はほっと息をついた。セイジに才能がほとんどないことに安堵したのだ。もし才能があれば狂いかねない方法をディダイアは取ったのだ。セイジはディダイアに触れていない方の手を見て、ゆっくり動かした。
(ぐるぐるー)
そちらの手は光っている訳ではない。ただ、何かに触れている感触はあった。ゲームである関係で、触覚は再現されているわけではない。剣がぶつかろうが、布を触ろうが同じ感触になるのだ。そして、今セイジが触れているものも、それらと同じ感触がしていた。
(なんというか……邪魔だなぁ)
「魔力操作は戦い関係の才の中ではマシそうだな」
ディダイアの声にセイジは今は練習をしていることを思い出したのだった。
セイジの鍛錬はフォルヴォール、ディダイアだけが行ったわけではなかった。何せ彼らにとって貴重な娯楽である。二人占めは許さないと言わんばかりに鍛錬所へ着いてきたのだ。魔力操作はどうにもならないが、目隠しでの訓練の方は多人数でかかって来ても問題ない。結果、セイジは酒場の常連連中にボコボコにされることになった。この時期は、仕事も忙しくなかったこともあり、彼らの好意に答える形で毎日ログインしていた。それからゲーム時間で一ヶ月たった。セイジの成果はどうなったか。
「……これでいいんだろうか?」
ぽつりとフォルヴォールが呟いた。彼も訓練所に着いてきた常連連中もある一方を見ていた。一人が投げ槍を放る。寝転がっているそれは、無駄の動きをほぼせず短剣を出し槍を弾いた。セイジだ。ただ、一つ付け加える必要がある。寝ているのだ。
「起きてる時は避けられないのにね」
呆れた表情で酒場の店主が呟く。最近客のほとんどがセイジで遊びに鍛錬所へ行くため、店を閉めて彼もいることがままあるのだ。セイジは眠った状態である程度の敵の攻撃を対処できるようになっていた。邪魔されずに昼寝したいというセイジの要望は叶っているだろう。しかし彼らは不満であった。
(なんで起きてる時より眠っている時の方が強いんだ!)
場にいる彼らの言葉は一つになった。
セイジは久しぶりに森の方へ来ていた。殺気などの感知や魔力操作を習得しきった訳ではない。だが、今のセイジなら大丈夫だとお墨付きを貰ったため、お外で昼寝をしに行くのだ。
外に出ないから死なない、死なないからデメリットのステータス低下が発生していない。セイジは久々に本来のステータスで敵と戦うことになった。まあ、武器はステータスに一切依存しないため、火力面は全く関係ないのだが。
森に行くときはどの森に入るかノリで決めている。木の棒を倒し、また関係ない方向へ倒れたため緑色の森へ入った。セイジは耳を澄ませてみる。木々の揺れる音しかセイジには分からなかった。セイジの上空から何かが跳びかかる。セイジは気づいてない。だが、投げナイフを上へ向かって投げ、前へ地を蹴っていた。
(——うん?)
セイジは何故今短剣を取り出しているのか首を捻った。そして振り返り、納得した。敵だ。前に見た大蜘蛛が一体セイジに襲いかかっていたのだ。
(うーん、頭と胴体の付け根だったら壊せそうかな)
もう片方の手にナイフを出し、牽制目的で投げた。目と目の間に刺さる。あまり効果がないのか、セイジに迫る蜘蛛の動きは鈍らない。蜘蛛の図体は大きく下へ潜ればセイジを一瞬見失う。セイジはさっき考えた頭と胴の付け根に短剣を閃かした。
時間はかかったがなんとか蜘蛛を倒しきったセイジ。有効か関係なく何度も斬れば倒せるのはゲームだからだろう。移動するのも面倒になり、すぐそこの木の上に登り目を閉じた。
しばらくすると、セイジの方へ現れる影。男が六人ほどセイジのいる木の下へ集まった。右手中指に嵌められた指輪はセイジと同じ者だ。そう、彼らはプレイヤーだ。
「久しぶりに出てきたな」
「しー。起きたら面倒だろ」
彼らはPK、プレイヤーキラーと呼ばれる者たちだった。彼らがセイジを見つけたのは丁度セイジが昼寝を邪魔されるようになった頃だ。このゲームではプレイヤーの殺害数によって得られるものが存在した。無抵抗に眠るセイジは格好の獲物だったのだ。
あらかじめ誰がやるか決めていたのだろう、一人がセイジのいる木に登る。彼の持つ武器、槍が射程に入り攻撃をしようとしたときにそれは起こった。攻撃しようとしていた男が木から落ちる。
「おい。すべったのか、って……」
落ちた男の様子を見た男が固まる。落ちた男は光の粒子になって消えていく。死に戻りだ。どさりと音が鳴る。セイジもまた木から落ちたのだ。
「よくわからんが運が悪かったな、ここはおれが」
その言葉は最後まで続かない。残り五人ともが頭に、胸にナイフを生やしていたからだ。彼らは何故こうなったか理解出来ず、死に戻りしていった。そして、セイジもまた知らずに眠り続けていた。
Aパートのセイジも気配は読めてません。




