B-4. 銃使いとお節介 その2
セイジの弱さが微妙に伝わらない。
「えっと……」
セイジは今回限りのパーティメンバーになるプレイヤーと顔を合わせることになった。先ほど、受付嬢に案内された部屋にいた人物なのだが、セイジは気づいていないようだ。どうセイジに声をかければよいか迷っている男性を置いて女性が口を開いた。
「うちのリーダーが初心者なら色々教えた方がいいんじゃないかって話になってね。パーティを組む気はないって言ってたけど付き合ってもらえない?」
女性はナディア、男性の方はイチジョーと名乗った。軽剣士と斧戦士で、誰でもいいから遠距離職と組みたかったらしい。二人は友人でよく一緒にゲームをするのだとセイジに話した。
「パーティってね、最大六人で組めるの。だけどわたしたちって両方前衛だから募集かけても入れて貰えないのよね」
「何故だ?」
「近距離職の種類が多いからじゃないかしら?」
遠距離職は三つ、銃使い、弓使い、魔法士しかない。対して近距離職は軽剣士・重剣士・槍戦士・斧戦士・盾戦士・格闘家、魔法戦士がある。他には盗賊と治癒陣士というものがあるが、遠距離武器は誰でも装備可能な投擲武器のみである。
まあ、決定的な理由は種類ではない。公式の紹介動画で遠距離職が余りにも地味だったからだ。セイジはその動画を見てないから知らないが、バンバンスキルを使う近距離職ばかりがハイライトされていて、やや魔法が目立っていたかくらいだ。しかし、無駄なリアルさを目指している運営のせいで、魔法士はすぐに止める・別の職に変える人が多かった。そのため、近距離職と比べ遠距離職が少ないという状況になってしまった。
「今日は黄色の森奥地に行こうかと思っていたけど魔法士が仲間にならなかったし青色の森に行きましょうか」
そうナディアが決め一同は移動を開始する。口を開かないイチジョーよりもリーダーをやっている気がするがセイジは口にしない。異物がいては普段通りに出来ないだろうと思ってだ。
「その黄色の奥地は何かあるのか?」
「そこで手に入るアイテムを持っていると、パーティとしての信頼度が高くなって受けられる依頼が増えるのよ」
黄色の森には魔法しか効かない敵、物理しか効かない敵が存在する。つまり一人では攻略できないのだ。逆に攻略できる程度には実力を持っているパーティであるということの証明に使えるのだ。セイジは三色の森に入っているが、そんなことは一つも知らなかった。セイジの場合奥地への攻略以前に、どの森がどういう敵が出るかも覚えていない。魔法しか効かない赤色の森で何度ナイフを投げダメージを与えられずボコられたことか。
「敵だ、行くぞ」
イチジョーが二人に声をかけ斧を構えた。続いて剣を出すナディアにセイジは首を傾げつつも投げナイフを用意した。イチジョーが駆けだした先にはセイジをよく背後から襲うオオネズミたち。ネズミの一体を易々と真っ二つにするとほぼ同時にナディアが一体突き刺した。セイジはどうしてネズミがいることに気づいたのだろうと疑問に思いつつナイフを投げ、ネズミの眉間を貫く。始めたばかりのセイジは知らなかったが、このゲームは当たり所でダメージが違うのだ。急所と呼ばれる場所へ当てれば、火力の低いセイジでも一撃で倒すことが出来た。
ネズミは四体いたようで、残りの一匹はイチジョーが横に薙いで終わった。
「結構やるな。これなら大丈夫そうだ」
イチジョーが感心したようにセイジの肩を叩いた。その後すぐすまないと言ってセイジから離れた。それを見たナディアが大げさに肩を竦めたのだった。
緑色の森についてもセイジからしてはひどく順調であった。それはイチジョーやナディアが敵の奇襲に気づき先手を取れるからだろう。セイジはほぼ八割、敵に奇襲されていた。残り二割はたまたまセイジの目の前から襲ってきた敵のことだ。
「二手から来てるわ、セイジ! そっちは数が少ないから少しの間持ちこたえて」
ナディアが首で示した方に木と変わらぬ色の大蜘蛛が二体いた。セイジがちらりと見るとイチジョーとナディアが背丈の二倍以上の二足歩行の毛むくじゃら五体を翻弄していた。確かに楽な方を任されている。
短剣を出したセイジは蜘蛛を潜るように滑り込む。一閃。間接部分を破壊し蜘蛛の足を半分に減らす。蜘蛛が傾くその間にナイフを投げ、別の蜘蛛の目を潰す。いくつものある目の一つを失った蜘蛛が糸を吐くが、すでにそこにセイジはいない。木の上に駆け上ったセイジは落下の勢いを使い頭部を突き刺した。しかし、止めにはなっておらずセイジは振り落とされた。足が減った方の蜘蛛は、セイジが避けた糸を被り藻掻いている。その脳天を斧がかち割ったのが見えた。
「初心者にしては結構できてるわよ、セイジ」
二人はセイジよりも先に敵を片付けていたらしい。残った蜘蛛を切り飛ばしたナディアがセイジを褒める。どう見てもセイジとはレベルが違った。
「そういえば銃は使わないのね」
ドロップアイテムの整理をしながらナディアがセイジに尋ねた。
「ああ、どの森かは忘れたが大きな音を鳴らすと敵が大量に出てくるんだ」
「それは経験値稼ぎに使えそうだな」
やってみたらどうだとイチジョーが言おうと思ったが、続いてセイジから出た言葉によって声にならなかった。
「波のように流されたからな。森で銃は使う気がない」
「不憫ね、銃使いなのに……」
セイジはイチジョーとナディアに同情されたのだった。銃使いが不遇だ、という一言で済ませて良いのかわからなかったのだ。励ますように、ナディアとイチジョーは次の敵を探すのだった。
さて、セイジはよく死んでいる。そのため死亡のデメリットがよく発生している。鍛錬所のジョイスが止めなければセイジはデメリット発生中だろうがお構いなく外へ出歩くのだ。
今もデメリットによりステータスが下がった状態だが、それが当たり前のセイジは気づいていない。また、パーティを組み敵を倒しているが、セイジには一切経験値が入っていない。困ったことに、この状況に突っ込みを入れられる人物はここにはいないのだ。
「縁があればまた組みましょう」
「ああ」
一時間近く共に戦い、町へ戻った三人は分かれた。ナディアとイチジョーは黄色の森攻略のため魔法攻撃ができるメンバーを入れることになるだろう。物理攻撃である銃使いのセイジが入る余地はないだろう。セイジ自身も足手まといが一緒に行く意味はないだろうと思っている。
一人に戻ったセイジはふらふらと町の外へ出る。今日の昼寝がまだだ。あの受付嬢のお節介は、セイジに何の影響も与えないようだ。
次もBパートです。




