B-4. 銃使いとお節介 その1
ちょっとやなイベント発生。
セイジがホワイトドラゴンズを始めてから一ヶ月、ゲーム内の時間では二ヶ月たった。現実時間での半月でレベル10に達したセイジだが、残り半月では一つもレベルが上がっていない。その理由は明白で、死亡によるデメリットで経験値が入っていないのだ。セイジはログインする度に一回以上死亡している。
「パーティ?」
「はい、セイジさんは一度もパーティを組んでいないようなので、パーティについて説明することにしました」
冒険者ギルドの受付嬢に言われ、セイジは困惑した。セイジが他プレイヤーと協力するゲームをするのは、ホワイトドラゴンズが初めてのことだ。しかしパーティを組むということを知らないわけではない。組み方を知らないのではなく、組もうと思わなかったのだ。セイジの目的に合うメンバーはそもそもいないだろう、という理由でだ。
「私はパーティを組む気がないのだが」
「大丈夫です、私がちゃんと貴方のパーティメンバーになる人を見つけますから!」
そうセイジを安心させるように笑みを浮かべながら受付嬢は言った。セイジの言いたいことが伝わっていないようだ。
「パーティ募集部屋というのがあるんです。そこに行けば直接勧誘しなくても大丈夫ですよ」
どうやらセイジがパーティにうまく誘うことができないから一人だったのだと勘違いしているようだ。必要ないと断るセイジの話を聞かずに、受付嬢はセイジを引きずっていく。セイジはある部屋に案内された。そこには数人ほどプレイヤーと思われる者たちがいて、なにやらピリピリとしているのが見えた。
「ここがパーティ募集部屋です。この端末から募集をかけたり、どんな募集があるのか調べることができるんです」
そう話し受付嬢は遠距離職の募集を表示する。このゲームが始まってからすでに半年が立っているため、初心者の数も少ないだろうが全くないわけではない。新規を得るために大々的に広告を出しているのだ。セイジもその広告を見て始めたのだからゼロではない。
「えっと、募集が十五件で結構多いですね。たとえばこれはどうでしょう?」
何を言ってもパーティを組むまでは話を聞いてくれはしないだろうと、諦めが混じったセイジは表示されている画面を見る。
「備考欄に銃使いを除くと書いてあるぞ」
「あっ本当ですね。すみません、ではこちらは」
次に表示された募集も『銃使い以外』と書かれている。受付嬢が焦った様子で次々と募集を確認しているが、どれもこれも銃使いを歓迎しない旨が書かれてある。
さて、銃使いという職はこのゲームでは地雷と呼ばれる不遇職であった。リロード出来ず弾が切れればお荷物。火力は他の遠距離職である弓使いにも魔法士にも劣る。ここまででは語られていない銃使いの特色もあるにはあるが、序盤では使えない。そんないらない職、誰が募集するであろうか。
「私はパーティを組む気がないから、探さなくていい」
「いえ、そういうわけにはいきません!」
パーティ募集の現状は、どうやらギルドの受付嬢のやる気に火をつける結果となったらしい。他の募集を探し始めるその様子に、セイジは付き合いきれないとため息を吐いた。
「こういうこととは縁がなかったということで」
「あ! ちょっと待ってください」
受付嬢の静止の声を待たずにセイジは部屋の外へ退散するのだった。
黙々とナイフを投げる練習をするセイジにジョイスはいつも通り声をかけた。セイジは片手を上げ挨拶を返しながらもう一方の手でナイフを投げ——それは的の中心に刺さった。
「随分腕上げたんだな」
「思った通りに当たるのは気持ちの良いことだ」
現実ではそうはいかない、という言葉をセイジは飲み込んだ。運動音痴と言えばよいのか、単純に動かないせいなのか、セイジは運動を苦手にしている。動体視力というのもないため、鈍臭いと母親にはよく言われていた。そんな自分の体よりもうまく動くこの体を動かすのが楽しかった。
「今日ある受付嬢からお節介焼かれたんだって?」
「ああ、よく知っているな」
「俺の彼女が心配していたんだよ」
ジョイスは鍛錬所にいるが、ギルドの職員である。そもそも鍛錬所自体がギルドの持ち物だ。彼はどうやら職場に恋人がいるらしく、最近ジョイスが面倒見ているセイジのことを彼女も知っているらしい。
「お前みたいなのがパーティ組むとは思わないがなぁ。誰かと合わして行動しなさそうだ」
「ああ、それで合っている」
そもそもやりたいことが他のプレイヤーと合わないのだから仕方がない。そうセイジは苦笑したのだった。
次にログインしたセイジは閉口していた。
「ちゃんとパーティを組む方法を考えましたよ!」
そう、またギルドの受付嬢に絡まれていたのだ。受付嬢はセイジの嫌がる様子に気づかずに説明を続ける。募集の中で野良募集と呼ばれる一回限りで組むもので、セイジにパーティを組ませるようだ。うんざりとした表情を浮かべるセイジが案内された部屋には三つの塊があった。パーティメンバー候補を三つ用意したようだ。
「お待たせしました、皆さん。今回初心者のセイジさんを入れて欲しいのですけど」
「装備つけてないとかアホだろ。職業は?」
「セイジさんは銃使いですね」
もしかしたら彼らも受付嬢に強引に連れて来られたのかもしれない。イライラとした様子で質問した男がキレた。
「ふざけんな! いくら遠距離職だろうが銃使いなんていらないに決まっているだろう!」
「そんなこと言わないでください。職業で差別するなんておかしいです」
受付嬢の言葉に男は更に腹を立てる。それを見たセイジは頭を抱えた。
「迷惑をかけたようですまない。私はそもそもパーティを組む気がない」
「はあ? 当たり前だろう」
セイジは前回の募集状態と今の男の様子を見て、銃使いはパーティを組むべきではないと考えている。不遇などの情報はなくても、疎まれていることくらいはセイジにもわかる。セイジは文句を言う受付嬢を押さえつけ、男たちが出て行くのを黙って見送った。
「なんで止めるんですか、セイジさん! 貴方は悪くないのにあんなこと言っていたんですよ!」
「どうでもいい」
語尾を強めにセイジは言い放つ。憤慨する対象をセイジに移した受付嬢が更にグチグチと言うが、セイジは聞き流し外へ出た。
鍛錬所に着いたセイジが見たのは頭を下げるジョイスだった。セイジがポカンと口を開けているが、幸いなことに下を向いているジョイスは気づいてない。
「ギルドのやつが迷惑をかけた。すまん!」
「い、いや気にしてはいない」
情報が回るのが早いと思いながらセイジは首を振った。だが続くジョイスの言葉に絶句することになる。
「あいつ、勝手にパーティ組ませやがったんだ!」
その言葉にセイジは考えを巡らせようとする。パーティを組ませたということは、すぐかどうかわからないがその組ませられた相手と行動しなければならないということだろう。
(政府が完璧なAI作ろうとしてるのは知ってるけど、ちょっと本格的すぎない?)
すでにセイジの考えは横道に逸れていた。現実での話ではあるが、国家主導で人工AIの作成に乗り出しているのはセイジにとっての常識だ。そのために、生きている人間の情報——国民の生活などの情報——を集めている。それは義務のため、セイジも情報の提出を行っている。
「セイジ、現実逃避したい気持ちもわかるが帰って来い」
ジョイスの言葉でセイジは再起動したように動き出す。
「どこに行けばいい?」
「南門だ」
よく銃使いをパーティメンバーにしようとした奴がいたなと、セイジは思いながら移動を開始したのだった。




